20代ですけど高校生やることになりました act.6
自宅に帰ってみると、自分の境遇はいたって簡単に調べることができた。
なぜなら、あたし(?)は日記をつけていたらしい。
自分で書いた記憶がないので、他人のプライバシーを覗いているみたいで少し抵抗があったけど、あまりにもあたしが置かれていた現実の状況と似ているので、読み進んでいくうちに違和感や抵抗感は薄れていった。
中学生の時に両親と弟を亡くしているのは同じだった。
現実では高校に入って一人暮らしを始めたあたしだけど、どうやらこの世界では両親が亡くなった後、現実では存在しない親戚の家で暮らすことを選んだらしい。
藍の母親、小野寺泰美はあたしの母親の妹ということになっていた。
その関係で飛鷹学園を選んで受験している。
私立なのに学費が全て自分持ちなことに驚いたけど、預金を見ると、現実と同じようにかなりの金額が保険金として入っていた。
藍は五歳になるまでこの街に住んでいたみたいだった。
恵一さんの仕事の関係で(どうやら恵一さんは、ホテルで働いているらしい。これは何かの偶然?と言っても、自分の夢だから都合のいいように空想しているのかもしれないけど)一度引越し、そして今年の三月に再び恵一さんの仕事の関係でこの街に戻って来たらしい。
だけど…現在の状況では、小野寺家に迷惑をかけているのは変わりない。
日記を読むと、何度も家を出て行こうと悩んでいるのがわかる。
皆にどんなに良くしてもらっているのかも、それからどんなに皆のことを好きなのかも。
空くんに関しては、弟と重ねているところがあるみたい。
その一方で、家を出て一人暮らしをすることに対する不安もある。
だから、出て行くことを躊躇っている。
今のあたしなら、問題なく出て行くことができるだろう。
一人暮らしは長いし、要領も判っている。
実際、あたしはそうやって生きてきたんだから…。
日記の日付は、4月1日で終わっていた。
新しい学校への不安と期待、そして家を出て行くべきかどうかの悩みを最後に。
夢の世界のあたしは、不安だらけで決断ができず、そのために現実のあたしを呼んだんじゃないだろうか。
ふと、そんなことを思った。
――――翌日。
朝起きたらもしかしたらこの変な夢から目が覚めるんじゃないかと思ったけど、それは間違いだったと目の前の顔ぶれが答えている。
「ねーちゃん、学校でイイ男に会った?」
「イイ男?」
「いや、ほら、ねーちゃんにも、そろそろ自覚してもらわないと」
「自覚って、何の自覚?」
首を傾げる藍に対し、ダメだとガックリ落ち込む空くん。
「空くん、そう言うのは自然と発生するものだし、他人がプッシュしても良い結果にはならないと思うよ」
「そうだけどさー。ねーちゃん、弟からの贔屓目抜きにしても可愛いのに、全然そう言うの無いんだもんなー」
んー。確かに。
藍は可愛いと思う。
リツと二人で並ぶと余計に目立つし。
昨日も教室で、二人のことをチラチラ見ている男子多かったしな~。
「あ!でもね、日向くんは藍に興味を持っていたみたいだよ?」
「日向くん?」
「え?日向?!」
空くん、呼び捨てですか…。
仮にも年上ですよー。
「うん。藍のこと知りたがっていたみたいだし」
「やったじゃん、ねーちゃん!日向はイイ男ランキング1位だぞっ!」
「イイ男ランキング?」
あたしがそう尋ねると、空くんは小学生とは思えない、ニヤリとした表情を浮かべ、
「ジャーン!『空的、良い男ランキング!』」
と言って一枚の紙を取り出した。
「今年、飛鷹学園に入った高校一年生の、良い男トップ10!因みに、俺の隣のクラスの亜美は良い女トップ10を持ってるから」
そこは空くんが女性、亜美ちゃんが男性ではないのかと尋ねると、チッチッチッと人差し指を振りつつ、遥は判ってないと言われた。
こう言うのは、同性同士の方が情報収集し易いのだと。
リストを見せてもらったら、10位内に日向くんの名前と、うちのクラスの委員長、長谷部健太の名前があった。
二人の顔を思い浮かべて納得。
確かにこの二人は顔が良い。
更にリストの番外編に寒河江先生の名前があった。
先生までチェックしてるのか…。
「でも…私だったら、寒河江先生がいいな」
そう言って、藍がえへへと照れたように笑う。
「藍…それ本気で言ってる?」
「え?ダメ?」
「ダメじゃないけど…。まぁ、人の好みはそれぞれよね」
「遥、すんげーしょっぱい顔してるぞ…」
「しょっぱいゆーなっ!」
「大丈夫。そんなしょっぱい顔も俺は好きだからっ!」
ほんのり頬を染めてガッツポーツつけられても、言っている事が酷いよ空くん…。
「とにかく!ねーちゃんは頑張れ!でもって、遥は…そのままでいてくれ」
「ちょっと!どうしてあたしだけそのままなのよ」
「いいんだよ。遥には俺がいるから」
だけど空くん、小学生だよね?
あたし中身二十代ですけど。
というか精神年齢的には犯罪だ…。
それだけじゃない、相手が学校の同級生でも犯罪じゃんか!
何だか凄いことに気付いてしまった……。
別に恋愛するつもりはないけど、やっていけんのかな、あたし――――。