20代ですけど高校生やることになりました act.5
1年B組。
ドア上にそう表示されている教室へと日向くんが入って行く。
彼も同じクラスなんだ。
そう思ったとき、
「遥っ!」
あたしを呼ぶ声が聞こえた。
「藍…」
「もう、遥、一体どこにいたのよっ!」
「えっと…迷子になっていました」
「迷子って…」
「何?どうしたの、藍。友達?」
藍の後ろから、ひょいっと顔を出した女の子がいた。
茶色い髪の毛を後ろで縛って結い上げ、バレッタでとめている。
かなり可愛い子だ。
スカートの裾も短く…うーん、今時の女子高生って感じ。
藍と二人で並んでいると、絵になるかもしれない。
「あ、りっちゃん。ほら、さっき話していた従姉妹の遥」
従姉妹?!
あたしと藍って従姉妹なの?
また知らなかった事実がひとつ。
現実にはあたしに藍という従姉妹はいないけど、ここではそうなっているわけね。
りっちゃんと呼ばれた女の子は、ああっと言ってあたしの顔をマジマジと見つめた。
「あたし、相沢りつ!好きなように呼んでね~」
どうやら藍は入学式で既に友達を作ったらしい。
「ええっと、あたし、藤本遥。よろしくね、リツ」
「うん、よろしくね、遥!」
あたし、こういうサクサクした性格の子、大好きだったりする。
いい友達になれそう。
「遥もB組?」
「そう、藍も?」
「うん、りっちゃんも一緒だよっ!」
教室に入り席に着く。
どうやら始めは名前順に着席らしく、あたしは日向くんの後ろだった。
担任の先生ってどんな人だろう?
あたしの恋愛対象守備範囲の年齢からすると、学生より先生が狙い目なんだけど…などと考えていると、教室のドアが開いた。
入って来た人は…これまたカッコイイ人だった。
切れ長の目でシルバーの眼鏡をかけているんだけど、それがすごく似合っている。
でも、外しているところも見てみたいかも。
背が高く、スーツをきちっと着こなしていて、これも恐ろしいくらい似合っている。
崩している姿など想像できないくらい、まさしく完璧だ。
しかし無表情。
ふつー、笑顔で新入生とかを歓迎するもんじゃない?先生って…。
あの顔で笑顔振りまいたら、もの凄い破壊力を発揮するだろうに…もったいない。
「君達を担任する、寒河江聡志だ」
うん、声も適度に低く素敵。
「私のクラスの生徒には、この学校の手本となるような生徒でいてもらいたい。勉学に励み、常に規律を守って行動するように。以上」
挨拶、固っ!
真面目は真面目なんだろうけどさー。
何かこう、もうちょっとさ…。
先生に恋人はいるのでしょうか?とか尋ねてみたいけど、聞ける雰囲気じゃない。
クラスの中もシーンと静まり返っている。
この先生、かなりの堅物のよう。
…あたしの勝手な独断と偏見で、もともと先生という職種の人間は苦手なんだけど、もしかしたらちょっと、いや、かなりお近付きになりたくない人になるかも……。
くそうっ。
見た目と声はイイのに!
何て残念な…。
入学式の日から授業があるはずもなく、HRが終わった後すぐに解散となった。
藍とリツは、さっそく帰りにカフェに寄って話をしようということになったみたいだけど、あたしは辞退させてもらった。
それよりもボロが出ないように、早々に帰って情報収集をしなければ。
藍とあたしの関係も気になるし。
あたしの過去…になるのか判らないけど、一応調べておかないと後々困るだろう。
しかしあたしのこの夢、一体いつまで続くんだろう。
一向に目を覚ます様子もないし、夢独特の曖昧と言うか、いきなり場面が飛んだりするってこともないし。
今までもリアルな夢を見たり、夢の中でこれは夢なんだっていう自覚があったりしたこともあるけど、今回のこれは何だか違う気がする。
それにやたらと夢にしては感覚が鋭い。
味とか匂いまでするし…。
と言うか本当に夢なの、これ?
家路に着いている途中、今日何度も見かけた後ろ姿があった。
日向くんだ!
友達第一号って言っておきながら、なかなか話し掛けることができなかったし、ちょっと声を掛けてみようかな。
「日向くーんっ!」
呼びながら走っていくと、彼は立ち止まって振り向いた。
「ああ、お前か」
「ああ、お前か…何かちょっと味気ない」
「味気ない?」
「うん、まぁ、いいや。日向くんも家はこっち?」
「…ああ」
「それじゃ、途中まで一緒に帰らない?」
「別に、かまわない」
と言って並んだものの、会話が続かない。
今時の高校生ってどんなこと話すんだろう?
好きな歌手とか、ドラマとか?
後はアニメや漫画、ゲーム…恋愛相談?
でも、日向くんの雰囲気からして、そういうのに興味ありそうでもないし……。
「お前…」
「え?」
最初に口を開いたのは日向くんだった。
「小野寺と仲いいのか?」
「藍のこと?」
「ああ、今日話していただろ」
「うん、仲がいいというか…」
どうなんだろ?
あたしたちって親友なのかな?
一緒に住んではいるけど、どのくらい信頼し合っているか判らないしなー。
藍の態度からして、親しいのは間違いないけど。
はれ?
日向くん、何で藍のこと聞くんだろう?
もしかして、気になるのかな?
あたしは、今朝見かけた二人の様子を思い出した。
ををっ!これはもしかしなくても恋愛相談?!
「あたしと藍ね、一緒に住んでるんだ」
「?…姉妹……じゃないよな?」
「うん、違う。従姉妹なんだ。何ていうか、ちょっと複雑なの」
と言って、あたしは曖昧に誤魔化す。
いやー、自分のことだけど本当のこと全く判りませんとか言えないしっ。
日向くんはふと目線を反らし、悪いと一言。
あ、もしかして家庭環境が複雑とか、そんな誤解してる?
って言うか、あたしもよく判ってないからなんだってばー。
返答に困っていると、日向くんが立ち止まり、
「じゃ、俺、こっちだから」
と言って路地を右に曲がって行こうとしていた。
「あ、あのねっ!」
「…ん?」
「今度、詳しく話す」
「いや、俺も突然聞いて悪かった。話したくないこと別にムリに…」
ううっ、やっぱり何か誤解してる。
「ムリじゃないよ、別に。それに、気になるんでしょ?藍のこと!」
あたしがそう言うと、日向くんは困ったように、
「いや、別に…」
「だから、今度詳しく話すよ」
ニコッと笑うと、日向くんは「ああ」と一言残し去って行った。
笑顔でバイバーイと手を振って気付く。
ハッ!
今のはもしかしなくても、同級生の男の子と一緒に帰宅するってヤツではないですかね?
今の会話は成功なの?
失敗なの?!
ああ、もう判らん!
今時の高校生が何考えているかとか、ハードル高すぎるんだってばっ。