20代ですけど高校生やることになりました act.4
移動しようとは言ったものの…入学式ってどこでやるんだろう?
あたしも藍も一年生ってことで、入学式に出ないといけないみたいなんだけど、会場が全く判らない。
普通は体育館か講堂だろうけど…その肝心の建物が見当たらない。
あたしが高校からの編入ってことは、中等部なんかが存在するんだろう。
案の定、この学校やたらと広い。
…もしかしなくても迷子でしょうか?
校舎の角を曲がったところで、ふと目に入った建物があった。
屋根の上に十字が乗っている。
教会?
この学校ってカトリックとかそういう系統の高校?
教会らしき建物に近づいたとき人影が見えた。
あそこにいるのは…藍?
ちょうど彼女が男の子の手を取って立ち上がるのが見えた。
何となく近づくのが躊躇われて、あたしは二人の様子を見ていた。
男の子と二言、三言会話を交わし、藍はあたしが立っている教会の反対側から走って行ってしまった。
彼女の後ろ姿を男の子が見送っている。
ずいぶん長い間見つめているなと思っていると、彼はふと視線をずらし、あたしの存在に気づいた。
あ…目が合っちゃった……。
何となく無視するのはよくないと思い、あたしは彼に近づいた。
彼はカッコイイというより…すごく綺麗な男の子だった。
まだまだ成長段階かもしれないけど、背も高くてそれなりに体格も出来上がっている。
漆黒の髪が風に揺れ、あたしと合った目はまるで蒼玉のよう。
さっきから見かけている制服と同じモノを着ているので、彼もこの学園の生徒だろう。
「あの…」
話し掛けようとしたら、彼はフイっと横を向いてしまった。
何だか話し掛けるなオーラが出ているような気が…。
「あの、すみません。入学式の場所、どちらかご存知ですか?」
とりあえず、この学園の生徒なら知っているだろうということで聞いてみた。
「入学式なら講堂だけど」
「その講堂の場所が判らなくて」
「それなら…」
と言いかけて、彼は口をつぐんでしまった。
あれ?
あたし、何か変なこと聞いた?
「もう、間に合わないと思う」
「え?」
「すでに始まっている」
あちゃー。
今朝、空くんが言っていることがそのままになってしまった。
思い出して、思わず苦笑した。
「しょうがない、ここで入学式するか」
人間、何事も諦めと引き際が肝心。
あたしは教会の扉の前の石段に座った。
ふと見上げれば、教会脇に桜の木が一本。
満開だった。
そう言えば今年、まだお花見行ってなかったなー。
忙しいを理由に、満足に出かけたりしてなかったし。
目の前の彼も何も言わず、同じように桜を見上げている。
桜の花が風に揺られ、花びらが雪のように降り注いでいる。
はぁ…。
彼のその姿があまりにも綺麗で思わず見惚れていると、彼があたしのほうを向いた。
ドクッ。
蒼い目に見据えられ、心臓が跳ねた。
え?
いや、ちょっと待て、高校生相手にドキッとするのはマズイ!
あ、でも今はあたしも女子高生…。
いやいや、おかしいからっ!
内心、焦っていると彼が口を開いた。
「俺もここで入学式」
「え?あ…そうなんだ」
ということは、同じ一年?
「あたし、藤本遥」
「…日向蓮」
「日向くん。同じ一年なんだね。それじゃ、友達第一号!よろしくねっ!」
あたしが元気よく答えると、彼はちょっと驚いたような顔をした。
日向くんとはその後、何も言葉を交わさずただ二人でぼーっと桜を見上げていた。
しばらくして、校舎の反対側が騒がしくなってきた。
そっちの方に目を向けると、制服を着た生徒がぞろぞろと移動している。
もしかして、入学式終わったのかな?
眺めていると、傍に座っていた日向くんが立ち上がった。
「教室、行くだろ?」
「え?あ、うん」
あたしは彼の後を追い、教室へと向かった。