20代ですけど高校生やることになりました act.3
坂を下り、歩いて20分程のところに目的地があった。
『私立飛鷹学園』
門にはそう書かれている。
徒歩だけで学校に通うなんて何だか新鮮。
現実では都内の女子高に電車通学だったし。
この距離なら自転車通学もアリかもしれない。
イイな〜自転車で学校に行くとか!
青春している感じがあって。
帰り道に同級生の男の子に送っていくよ、とか言われたりして…。
ハッ!待て!ここって共学?!
改めて見ると、あたしと同じ制服を着た生徒達が吸い込まれるように入って行く中、男の子も門の中へと入って行く。
共学だーっ!
女子校も面白かったけどさ、行ったことのない身としてはやっぱり共学に憧れるよね。
うん、あたしが本当に高校生だったらさ…。
自分の姿を見下ろして、思わず苦笑する。
女子高生をしていたなんて、十年近く前の話。
まさかまた女子高生をやるなんて…嬉しいような懐かしいような、複雑な心境だった。
あたしってば、そんな回帰を希望してたのかなぁ。
「遥?大丈夫?」
一緒に歩いてきた女の子…小野寺藍が心配そうにあたしの顔を覗き込んでいる。
ここまで歩いてくる途中、何とか一緒に住んでいるメンバーの名前を聞き出した。
あたしを叩き起こした男の子は彼女の弟で、小野寺空。
一緒に食事していた夫婦は予想通り二人の両親で、父親は小野寺恵一、母親は小野寺泰美、でもってあたしは、どうやら彼女たちと家族ではないらしい。
「うん、大丈夫だよ」
「そう?今朝はいつもと様子が違うから」
「あー、うん…今朝、変な夢見ちゃって…」
つーか、多分今も夢の中だと思うだけど。
「夢?」
「うん、だから寝覚めが悪いって言うか…」
「編入組みで新しい環境で生活を始めるから、もしかしたら緊張しているのかもしれないね」
「編入組み?」
「そう…って、やっぱり変だよ?私達、飛鷹学園は高校からの編入組みじゃない」
「あー、うん、そうだね、そう言えば」
あはは…と、ごまかすように笑う。
うーん。
さっきから思っていたんだけど、あたしはまず自分の置かれている環境から知る必要があるみたい。
藍達はあたしの事を知っているし、当然のように話してくるんだから、あたしも彼女達を知らないと。
「あ!あそこにクラス分けが張り出されているみたいだよ!」
藍は新入生らしい人達でごったがえしている人込みの中に走って行った。
あたしも慌てて彼女を追いかける。
えーっと、名前はっと…。
あっ、ホントにあった!
1年B組、藤本遥。
いちねん?!
え?
ってことはあたし、今15歳?!
じゅうごさい…。
どうりで鏡に映る姿が幼いと思ったはずだよ。
高校生でも15と18じゃだいぶ違うもの…。
取り敢えず、名前は現実と同じなのね。
苗字は藤本のまま…一体、藍達とはどういう関係なんだろう?
現実では、あたしに家族はいない。
高校入る前に両親も、そして唯一の兄弟であった弟も亡くしている。
親戚はいたし、一緒に住もうと言ってくれた叔父さんや叔母さんはいたけど、迷惑をかけるのが嫌だった。
それに、両親が亡くなった時に受け取った保険金も結構な金額だったので、結局はそのお金で高校に行き、家族で住んでいた家を売りマンションで一人暮らしを始めた。
高校卒業後は勉強を兼ね三年間アメリカへ留学。
帰って来て、身に付けた英語を活用しホテル業界で働いている…はずなんだけど……。
あれ?
考え事をしていたら、いつの間にか藍の姿が見えなくなっていた。
人込みにまぎれて、見失っちゃったのかな?
まぁ、学校内にいるのは間違いないだろうし…あたしも移動するか。