20代ですけど高校生やることになりました act.2
着替えて一階に下りて行くと、起こしに来た男の子と制服を渡してくれた女の子、それから40代くらいの女性と男性が六人掛けのテーブルにつき食事をとっていた。
「遥ちゃんも、パンでいい?」
あたしの顔を見るなり、その女性が声をかけてきた。
返答に困っていると、男の子があたしの手を取り、座ってとイスを出してくれた。
座るなり、目の前にパン、ジャム、マーマレード、ミルク…次々と並べられていく。
「食べないと、昼まで辛いぞ」
そう言って、男性がそばに置いてあったカバンを取り立ち上がる。
「パパ、今日は遅いの?」
「多分なー、今日は大事な宴会が入っているから。お開きも遅いみたいだし、もし最終で帰れないようだったら電話する」
どうやらパパと呼ばれた男性と、あたしにパンで良いか聞いてきた女性は夫婦らしい。
それなら、この男の子と女の子は二人の子供なんだろう。
…まさか、あたしも?
学生服に着替えた後、姿見に映っている自分を見て気絶しそうになった。
大げさな表現かもしれないけど、ホントに。
だって自分の顔が、十年近く前の顔に戻っていたから。
記憶の彼方にあった顔がフラッシュバックのように目の前に現れたら、誰でもそうなると思う。
渡された制服も、多分高校生のだろう。
髪の毛も前下がりのボブのはずなのに、高校生の時と同じく腰近くまで伸びていた。
思わず当時していたように、二つに三つ編みしてしまったんだけど…。
そして当時かけていたのと全く同じ、縁無し眼鏡がパソコンデスクの上に置いてあった。
そこまで目は悪くないのだけど、乱視が入っているので、その補正用に作った眼鏡。
用意されていた制服のスカートは膝下。
眼鏡をかけて髪の毛を二つ編みした姿は、もしかしなくても近頃の女子高生にしてはかなり珍しい姿…イワユル『ダサい』オンナノコになっているだろう。
どうせ夢なんだから、自分の都合いいようにもっとこう…ぶっちぎりでカワイイ子とかになっていてくれれば…。
などと考えていると、
「あーっ!もうこんな時間?!遥、行くよっ!」
女の子が叫びながらいきなり立ち上がり、あたしの腕を掴んだ。
反対側の手には何故か食べかけのトーストを持ったまま。
「え?え???」
どうしたらいいかよく判らなかったけど、取り敢えず行ってきますと声をかけ、あたしは女の子と一緒に家を出る。
パンを咥えた女子高生に手を引かれ、お約束なんだか王道なんだかよく判らない状況のまま、あたしはついて行くしかなかった。