言おうか言うまいかそれが問題です act.2
例によって土曜日。
小野寺家をそっと出て、あたしは日向くんの家へと向かう。
何処かで一日時間割潰しても良いのだけど、何かあった時に自分を証明するものが無いというのはやっぱり心許ない。
となると、安全圏である彼の家にどうしても足が向いてしまう。
このままだと、毎週土曜日に日向くんの家に泊まることが習慣となりそうだ。
…マズいなー。
先週も同じように外泊しても、今度は連絡をちゃんと入れていたせいか、泰美さん達は何も言わなかったけど…問題は藍よね。
すっごく不審がっていたもの。
ただ、さり気なく一人暮らししたいって言ってみたけど、これには泰美さんも恵一さんも聞く耳持たず。
かと言って二人に真実を話すのも…。
どないするかね、ホント。
「蓮はどう思う?」
あたしが話し掛けると、日向くんは読んでいた本をパタンと閉じて、碧眼の瞳を向けた。
「小野寺には話していいんじゃないか?」
「藍に?」
「小野寺の家を出られないなら、家の中の人間を巻き込むしかない」
「巻き込むって…」
「アイツなら、きっと判ってくれる」
「うん…」
泰美さんや空くんに真実を話すのは躊躇いがあるけど、この世界のあたしは藍と良い関係を築いてきたらしく、彼女ならきっと、あたしのこの特異体質(?)も気持ち悪がらず判ってくれると思う。
それに、親身になって心配してくれるだろうということも予測できる。
あたしも藍に隠し続けるのは辛いし、やっぱり真実を話すべきか。
藍が事情を知ってくれれば、日向くんの家に泊まらなくても、何とか家の中で過ごすことができるかもしれない。
実際に一緒に住んでいても、泰美さん達と会わない時だってあるし。
それにしても、日向くんの藍に対するこの信頼感は何処から来ているんだろう?
あたしが思うならともかく、日向くんと藍って接点あったっけ?
「ねぇ、前もちょっと思ったんだけど」
「ん?」
「蓮って、藍のこと好きなの?」
単刀直入に聞いてみる。
「…どうしてそうなる」
「んー、だって、入学式の日、一緒に帰った時も藍のこと聞いていたし、学校ではあまり二人が話しているところ見たことないのに、藍のこと知っているようなそぶりだし」
「…勘違いするな」
「違うの?」
日向くんはため息をつくと、
「俺は、もう寝る」
そう言って、自分の部屋に行ってしまった。
…答えになってないじゃんかよー。
二人の関係が気にならないと言えば嘘になるけど、藍と日向くんが仲良くしてくれるのは嬉しい。
老婆心…からかもしれないけど、日向くんはもっといろんな人と絡むべきだと思う。
毎週、あたしに付き合って家に居てくれているのかと思ったけど、以前言っていたとおり、あたしが家に来る来ない関係なく、土日はモデルの仕事がない限り家に引き篭もっているらしい。
引き篭もりの美丈夫。
何だろう…凄く勿体無い!
人類の損失と言っても過言ではないぞ。
今度、またデートにでも誘ってみようかな。
あー、でも、面倒くさそうな顔しそう。
と言うかその前に、人の心配する前に自分の状況をどうにかしろって言われそう。
ここは日向くんの助言通り、藍に全部打ち明けてみるかな。
それでもどうにもならなかったら…その時はその時。
また次の行動を起こせば良い。
よし!
そう決意が固まると、少しだけ気分が浮上した。