この現象を検証してみる act.2
屋上を出て行く遥を見送って残された三人は、お互いの顔を見合わせる。
どうやら同じ事を考えているらしい。
「ねぇ。遥と日向って、いつの間に仲良くなったの?」
「うーん…それが、私にもよく判らないの」
「藍ちゃんも理由を聞いていないの?」
「聞いていないわけじゃないの。ショッピングモールで日向くんがファンに囲まれて困っているところを遥が助けて、それから意気投合したって言っていたけど…」
「日向の性格上、意気投合って言葉がアイツの中にあるとは思えないんだけどなー」
「んー。でも遥は、日向くんといると楽しいって言っていたけど」
「楽しい、ねぇ…」
そう言われてもしっくり来ないリツは首を傾げる。
屋上を出て一階に降り、日向くんと初めて出逢った教会へと向かう。
そこから更に校舎の裏側へ回り……あ、いた。
「蓮!…じゃなかった日向くん!」
校舎に寄りかかるように座っている彼に近づく。
…って、寝てるし。
授業中もよく寝ているけど、お昼休みになると大抵この場所で寝ている。
疲れているのかな…。
学業とモデル業、掛け持ちしてこなしているなんて、社会人やっていたあたしからしてみたら、凄いの一言。
体力的にだけでなく、精神的にもキツイだろうに。
あたしは寝ている彼の前にしゃがみ込み、寝顔を観察。
睫毛長いなー。
目鼻立ちは本当に整っているし、少し日本人離れした顔立ちしている。
碧眼だし、ハーフなのかな?
しかし…寝ている顔も綺麗ってどゆことよ。
ムカツクから、いたずら書きでもしてやろーかと半ば本気で考えていると、深い蒼があたしを見つめた。
「おまっ…いつからそこにいたんだ?」
日向くんが顔を赤くして狼狽えている。
おおっ。
珍しい。
「ひ・み・つ」
ニッコリ笑って言うと、日向くんが渋い顔をする。
「いいじゃない、別に。変な顔して寝ているわけじゃなかったんだし。それより、はい、これ」
日向くんにお弁当を渡す。
「ニンジンは入ってないから、安心して」
初めてお弁当を作って行った時、嫌いな食べ物があるかどうか聞いたんだけど、日向くん、ニンジンって言ってたんだよね。
妙なところで子供っぽいというか、可愛い。
「今日も作って来てくれたのか?」
「そ。日向くんには、お世話になったからね」
「そんなこと、気にするな」
「あたしが気にするの。迷惑じゃなかったら受け取って」
「…サンキュ」
「よし。おねーさんの言うことは、素直に聞いておくものさー」
「今は同じ年だろ」
「見た目はね」
ふふん、と笑うと、何か言いたそうな顔をしたけど、そこはスルーしておく。
「そう言えば、あれから元に戻ってないのか?」
「うん。戻ってないよ」
「不安…だろ?」
日向くんの心配そうな声。
毎朝確認しているとは言え、不安がないと言えば嘘になる。
また起こるかもしれないし、起こらないかもしれない。
土曜日は朝起きたら元の姿に戻っていたけど、いつどんな時に変化するなんて判らない。
学校生活の中でも、そして今この瞬間も、元に戻ってしまったらどうしようと思ってしまう。
かと言って引き籠もってしまっては、また小野寺家の皆を心配させ、不安がらせてしまうから…リスク有りきの上で、学校に来ているようなもの。
「まぁ、悩んでも仕方ないし。取り敢えず、何とかなると思ってる」
「ポジティブなのか、何も考えていないのか、よく判らない回答だな」
「失礼な!ポジティブでしょーよ!人間、前向きに諦めと引き際が肝心だから」
「前向きに諦める?」
「そそ。諦めるって言うと若干聞こえが悪いけど、『前向きに』って付けるだけであら不思議!ポジティブ〜…って、なに頭抱えてるの?」
「いや、別に…」
「と言う事で、今のところは平気だから。心配してくれてありがと」
つい嬉しくて、笑顔でお礼を言うと、日向くんは照れたように視線をそらした。
リツは、日向くんが普段何を考えているのか判らないって言っていたけど、時々こういう顔見せてくれるんだよね。
感情が表に出にくいだけで、ふつーのコだと思うのだけど。
…知らないなんて勿体無い。