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re: High School  作者: *kei
第一学年
12/17

この現象を検証してみる act.1

「遥、遅れてゴメン!」

リツが息を切らせながら駆け寄って来た。

「そんなに慌てなくても、ちゃんとリツの分もとってあるって」

あたしは苦笑しながら、爽やかな風が吹く屋上で朝早く起きて作ってきたお弁当を広げた。



あの怒涛の土曜日翌日、小野寺家に帰ってあたしを待っていたのは、当然ながら泰美さんと恵一さんからのお説教。

帰るのがもう少し遅かったら、警察に行くところだったらしい。

藍には心配したと泣かれ、空くんには今度同じことやったら一生口きいてやらないと怒られ、罰として今日は一日家族皆と一緒に過ごすってことになった。

どこが罰なんだろうと思ったのだけど、皆が終日あたしに寄り添ってくれていたのは、本当に心配させてしまったからだろう。

連絡もせずに何処にいたのか誤魔化すのが大変だったけど、今後は何があっても連絡しなさいと携帯電話を持たされた。

あたしのおかげで携帯電話を買って貰えたけど、理由が理由だから複雑って、藍は素直に喜べなかったようで、困った顔をしていた。


あれから何事もなく5日が経過。


また元の姿に戻ってしまうのではないかという恐れがあったため、小野寺家の誰よりも毎朝早起きをして自分の姿を確認しているんだけど、今のところあれから元に戻ったことはない。

早起きしても特にすることもないので、時間を持て余したあたしはお弁当作りを始めた。

一人分作るのも二人分作るのもそれほど大差はないので、翌日には藍の分も作るようになっていた。

今日はリツのリクエストにより、彼女の分も作製。


そして最近、定着しつつある風景。

ランチは校舎の屋上で、リツ、藍、博美の四人で食べるというもの。


2日ほど前から参加している、松嶋博美ちゃん。

おっとりとした話し方がこれまた可愛い女の子。

男だったら守ってあげたい!って思うタイプかもしれない。

リツとは中等部からの友達で、彼女曰く、内気でおとなしそうな雰囲気とは反対に、結構しっかりとしているらしい。

怒らせると怖いって言っていたけど、全然そんな雰囲気は無い。



「りっちゃん、今日はどうしたの?いつもは真っ先にご飯食べようって言うのに」

「あー、それがねー。ダンス部の先輩に呼ばれて…」


リツはダンス部に入部、藍は吹奏楽部に入ったようだった。

リツはもともと運動神経も良いみたいだし、藍も中学の時から吹奏楽に入っていたので、二人とも入学当初から所属したい部は決めていたみたい。

あたしはバイトに精を出したいと思っているので、部に入る予定はなし。

ただそのバイトも未だに見つかってないんだけど…。

その予定だった土曜日がアレだったし。


「部活、どう?」

「うん、順調、順調。今度大会に出るんだけど楽しみ~。あ、さっき先輩に呼ばれたのもその関係。もしかしたらアタシ、その大会に出るかもしれない!」

「え?一年でレギュラー?しかも入部したばかりじゃない?」

「へっへっへー。実はあたし、ダンス教室に通っていたことがあってね、自分で言うのもなんだけど、結構自信あるんだー。部の中でもかなり動ける方だし」

「りっちゃん、スゴイ!」

「うん、凄いよ!」


ダンス教室か。

そう言えば、あたしも踊ったりするのが好きでよくクラブやライブハウスに行っていたけど、ここにもあるんだろうか?

やっぱり、この年でそういうところに通ったりしたら停学?

あ、でも、元の姿に戻れたら平気か。


そんな事を考えていたら、

「なーんか、随分楽しそうじゃん」

突然上から声が降ってきた。


見上げると、少しロン毛の日に焼けた男の子が立っていた。

逆光でやけにキラキラしていると思ったら、髪の色は…金髪だ。


「あれ?翠?」

彼を見て、リツが声を掛けた。


「よう、藍ちゃん!」

みどりと呼ばれた彼は藍に向かって片手を上げた。

藍とも友達なのかと思ったけど、話掛けられて彼女はビックリしている。


「アンタ、いつの間に藍と知り合いになったのよ」

「たった今」

「えーっと…」

「最近、男子の間で噂になってるんだよね。可愛いなってさ。と言う事で藍ちゃん、今度オレとデートしない?」

「え?ええっ?」

慌てる藍の顔が真っ赤になる。


「コラ、翠。アンタはすぐそーやってモーション掛ける!」

「えー、可愛いコがいたら声掛けんのフツーだろ?」

「アンタの場合は節操が無いのよ!」

「博美ちゃん、助けて!リツがオレの恋路を邪魔する!」

「翠くんは少し自重した方が良いと思う」

「そうよ。どうしても藍を誘いたいなら、アタシと言う壁を越えてからにしなさい!」

リツが胸を張って藍の前に立つと、

「壁…確かに壁だ…」

と呟きながら、翠くんはリツの胸元を凝視している。

「ちょっ、アンタどこ見てんのよ!」

今度はリツの顔がみるみる赤くなる。


「ぷっ…あははっ」

いきなり吹きだしたあたしに、四人は振り向いた。


「ふふ。ごめん、ごめん。なんか…やりとりが面白くて…」

「えーっと」

翠くんは困ったようにあたしの顔を見た。


おや、あたしのことは知らないわけね。

まぁ、こんなジミーな感じの子は眼中にないんだろう。


本当は髪も切ってもう少し前髪上げて、眼鏡もコンタクトに変えて、制服のスカートも短くして…と、見た目を良くしようとイロイロ考えたのだけど、あたしはこの地味路線を貫き通すことにした。

何せ垢抜けてしまうと、本来の姿に近付いてしまうから。

万が一の事を考えて、本来の自分とはなるべく似通わないようにしておこうと。


「こっちは、藤本遥」

リツに紹介され、ヨロシクねと応えておく。


「遥ちゃん。うん、覚えた」

「翠。言っておくけど、遥に…」

「判ってるって、オマエの絶壁越えないとダメなんだろ」

「絶壁言うな!」

「ハイハイ。んーじゃ、皆またね~」

リツの怒りを軽く流すと、翠くんは屋上から出て行った。


「アイツ、何しに来たんだろ…?」

リツが可愛く首を傾げる。


「りっちゃんをからかいに来たとか?」

博美がそう言うと、

「なっ、そんなわけないって!」

リツがあからさまに動揺する。


おや?


「それより、藍。アイツにはダマされないよう、気をつけるんだよっ!」

「う、うん…」

戸惑っている様子の藍の頬もまだ少し赤い。


うーん、二人共判りやすい。

可愛い一面を発見。


なんかいいな、こういうの。

他愛のないことを言い合って、笑って、異性の一言にドキドキしたり、赤くなったり。

こういう気持ち、しばらく忘れてたなぁ…。


あ、そだ。

忘れていたで思い出した。


「ごめん、あたしちょっと席外すね」

包みを開けていないお弁当をひとつ持って、あたしは立ち上がる。


「日向のところ?」

「うん。今日はまだ渡していないから、行って来る」


行ってらっしゃーいというリツの声を背に、あたしはお弁当の包みを持って日向くんを探しに出た。



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