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re: High School  作者: *kei
第一学年
10/17

何故か元の姿に戻りました act.4

「ここが俺の家」


日向くんが指差した建物は、10階建の綺麗なマンションだった。

オートロック式で、入り口側に宅配便ボックスまで完備されている。

高校生の一人暮らしって言うから、いい部屋は想像していなかったんだけど、モデルってやっぱり儲かるんだろうか?


7階の一室の前で立ち止まり、日向くんはドアを開けた。

「何のお構いもできませんが…」

「ハイハイ」

「…飲み物くらい出してやる」

ちょっと照れたように言うのが、何だか可愛い。


玄関を入ると、大きなシューズボックスと収納スペースがあり、短い廊下の左にお風呂場とトイレがあるようだった。

リビング繋ぎのカウンターキッチンがあり、2部屋隣り合ってドアがあるってことは、2DKなんだろう。


通されたリビングは、テレビとそれを置く台、ガラステーブルに二人掛けのソファがあり、白を基調とした家具で統一され、良く言えば凄くシンプル。

悪く言えば殺風景とも言えるかもしれない。

一人暮らしにしては広すぎる気がするのと、あまり生活感が無いのがそう思わせるのかも。


「適当に座ってろ。今、コーヒーか何か淹れる」

「あっ、もしキッチン使ってもいいなら、あたしがやるよ。お邪魔している身だし…」


日向くんからコップを受け取り、お湯を沸かす。

何気なくキッチンを見回すと、ここにも生活感が余り無い。


「…なぁ、俺、風呂入って来ていいか?」

「え?お風呂?」

急な問に驚いて聞き返すと、

「…変なこと想像しているだろ」

呆れた表情が返って来た。


ぎくっ。

…スルドイ。


ちょっと意地悪したくなって、一緒に入った方が水道代の節約になるけどどうする?と言ったら、今度は冷めたような視線が返って来た。

美人の冷めた目はとても怖いと言う事を身をもって知りましたよ。

まぁ、良いよと言われたら言われたらで困るんだけど。


日向くんは何も言わずキッチンから出行こうとして……あたしは見逃さなかった。

耳が赤いでやんの。

…素直じゃないんだから。






コーヒー片手に部屋の中をウロウロしていると、ふわっと石鹸の匂いが漂った。

匂いのする方を見ると、お風呂上りの日向くんが立っていた。

…水も滴るいい男って言葉、彼のためにあるんじゃないかと思う。

少し上気した頬に、濡れた髪の毛。

お風呂上りの気だるい雰囲気をまとっている姿が…何とも色っぽい。


…はぁ……。

思わずため息が出る。


「どうした?」

「いーえ、自分が女性であることに自信を無くしそうになっただけ」

「何のことだ?」

「こっちの話。ね、あたしもお風呂に入ってもいい?それと、もしお願いができるのであれば、パジャマ、とは言わないけど、寝るときに着れるシャツか何かを貸して欲しいの」

「そう言うと思って、脱衣所に用意してある」

「ありがとーっ。このご恩は一生忘れません」

「忘れてくれていい…」

思いっきり笑顔で、心を込めて言ったのに、何故か疲れたような返事をされた。

そう簡単に忘れたりしないわよ。

失礼なっ。






お風呂に入り、用意されていたパジャマを着てみた。

うーん…やっぱり、ズボンの方はぶかぶかで大きい。

何より足の長さが違う!

足の長さの違いは、身長差と相手はモデルだからと言う事で自分を納得させる。

少し考えて、ズボンは穿かずにたたんでその場に置いておいた。

上だけでもちょっとしたワンピースくらいの長さになるし、まぁ、平気でしょ。


「蓮ー。上がったよー」

声を掛けながら部屋に戻ると、日向くんはお風呂から出てきたあたしを見て一瞬動きが止まった。


「どしたの?」

「イヤ、別に」

「変な蓮」

「それより、お前…」

「あーっ、またお前って言った。年上に向かってお前言わない。名前があるんだから、ちゃんと」

「…遥、今日はこの部屋を使え」

日向くんはそう言うと、彼の部屋の隣のドアを開けた。

客間になっているのか、その部屋にもベッドが置いてあった。


「ここで寝ていいの?」

「普段使ってないしな」

「ねぇ、聞こうと思っていたんだけど。あの…ご家族の方々は?」

「父親も母親も海外」

「仕事の関係?」

「ああ」

言って黙り込む。


両親は海外でマンションに一人暮らし。

家から余り出ないという割には、生活感の無い部屋。

少し気になったけど、聞かれたくないみたいだし、これ以上尋ねるのはやめよう。

言いたいくないことがあるのはお互い様。


「蓮?」

「ん?」

「何から何までありがとう」

「ああ。それじゃ、おやすみ」

「あっ、ちょっと待って」

部屋を出て行こうとした蓮を呼び止め、

「あたしが言うのも何だけど、普段あたしみたいな知らない人間、家に上げて面倒見たりするの?」

最後に、ずっと疑問に思っていたことを尋ねてみた。


「いや、今日が初めて」

「それじゃ、どうしてあたしのこと拾ってくれたの?」

彼は少し考え、

「どこかで会った気がしたから」

と答えた。

「え?」

「…初めて会った気がしなかったんだ」


それってもしかしなくても、十代のあたしを知っているからってことでは…?

さすがに同一人物だとは思ってないだろうけど、成長したら今のあたしになるんだから、似ているのは当たり前だし。

危ない、危ない。

ボロが出ないように気をつけないと。


「そう、ごめん、変なこと聞いて。それじゃ、おやすみ」

「ああ、おやすみ」


日向くんが部屋を出て行くのを見送って、あたしはベッドに入った。

それにしても、まさか日向くんの家に泊まることになるなんて。

藍や泰美さん達、心配しているだろうな。

でも、このままでは家に帰れないし。

明日からどうしよう。

月曜からまた普通に学校だってあるのに。

入学した早々、失踪ってことになるのかな?


それにしても皮肉だ。

元の姿の自分は、この世界では完全に『異端』扱い。

社会的には存在さえ認められていない。

存在するという何の証明も無い上に、友人や知り合いさえ居ない。


そう思うと、背中がゾクリとした。


あたしはこの世界で本当に生きていけるのだろうか…。

答えの出ない問題が頭の中をグルグルと回る。


そしていつの間にか、あたしは睡魔に身を委ねていた――――。


 


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