20代ですけど高校生やることになりました act.1
遥…。
……んー?
遥…。
……誰?
遥っ!
……うるさいなぁ。
今日は仕事もないし、久しぶりに……って、あれ?
一人暮らしのあたしの部屋に、何で他にも人がいるわけ…?
まさか…またやっちゃった?!
最近、そういうの無かったハズなのに!
重い瞼を開け、恐る恐る名前を呼んでいる人物を見上げた。
「やーっと、お目覚めか?早くしないと遅刻するぞっ!」
そう言って、あたしの名前を呼んでいた男の子は、呆れたようにあたしを見下ろしていた。
…そう、男の子。
どう見ても小学生くらいの。
……誰?
あたしはベッドから起き上がって、その子を見つめた。
「えーっと……」
昨日からの記憶をたどる。
飲みすぎて記憶がブッ飛ぶことも過去に何回かあった。
朝起きたら男が隣に寝ていたこともあった、ホテルにいたこともあったけど……流石に未成年の男の子を連れ込んだことはない。
そんなコトしたら、社会的に抹殺される。
それに昨日は残業で、そのまま帰宅してお酒は一滴も口にしてないはず。
「早く起きないと遅刻するぞ。初日から遅刻はマズイんじゃないか?」
そう言って、男の子は部屋から出て行った。
……はぁ?
あの男の子はあたしのことを知っているみたいだけど……それに初日って何?
遅刻する?
今日は仕事がないはずだし……何が何だか判らない。
あたしはベッドから抜け出し、あることに気付いた。
…ちょっと待て、ここはどこ?
どう見てもあたしの部屋ではなかった。
いや、あたしのモノらしいのもあるけど、どう見てもあたしが生活していた所じゃない。
何処ぞのホテルでもないみたいだし……。
?
???
?????
いよいよパニックに陥ってきた。
落ち着け。
落ち着くんだ。
こういうときは、まず深呼吸。
すぅー、はぁー。
すぅー、はぁー。
何度か繰り返すうちに、だんだんと落ち着いてきた。
よし!
改めて部屋の中を見回してみる。
ベッドは…あたしが昔から使ってきたモノと同じ。
鏡台もそうだ。
亡くなった母が残してくれたモノ。
鏡の上部に付いている、鈴蘭の形をしたランプがとても可愛くて気に入っている。
パソコンデスクとその上のラップトップも同じだし、テレビもBluetooth搭載したスピーカーも本棚も一緒だ。
でも、明らかに部屋が違う。
窓の位置も……窓?
勢いよくカーテンを開けると…。
そこには、見たこともない景色が広がっていた。
住宅街なんだろう、この家は坂の上部に建っているらしく、部屋からは家の前から続く下り坂が見えた。
遠くで光っているは、まさか海?
どこよ、ここ。
何であたし、こんな所にいるんだろう?
……あ、そか。
夢なんだ、きっと。
あたし、夢の中にいるんだ。
そう自分に納得させると、なぜだか笑いが込み上げてきた。
やけにリアルな夢だけど…まぁ、こういうリアルな夢は時々見るし、別に――――。
コンコンコン。
誰かが部屋のドアをノックしている。
「はい?」
答えると、制服を着た女の子が勢いよく入って来た。
髪の毛を肩下ぐらいまで伸ばし、目がクリッとしていてなかなか可愛い。
さっきの男の子と目元が似ているかも…。
「もう、遥ったら、まだパジャマのまま!?さっき空が起こしに来たでしょっ!早くしないと遅刻するよっ」
そう言って、クローゼットの扉にかかっていた服をつかみ、早く着替えてと差し出した。
学生服?
てか、制服?
どうやら目の前の女の子が着ているのと同じモノらしい。
躊躇っていると、その女の子は「ほら、早くっ!」と、あたしの方へ押し付ける。
「でもそれ、あたしが着たらちょっとまずいんじゃ…」
いくら何でも二十代後半にさしかかっている女が女子高生らしい制服を着るのは……。
「何言ってるの?制服着ないで学校へ行くつもり?」
女の子は呆れたようにあたしを見ている。
学校?
あたしは今日これから学校へ行くの?
考え込んでいると、女の子は早く早くと言いながら制服を差し出している。
仕方ない、着替えるか…。
まぁ、夢の中なら別に変態あつかいにはならないだろう。
と、妙なことを考えながら、あたしはその制服を手に取った。