閑話休題、たまには仲良く帰りましょう。
本筋に関係のない話です。
続き更新できずに申し訳ございません!
何気ない日のお話です。
「……旧校舎、があるだろう?」
桜塚学園は中高大一環の学びを売りにしているだけあって、その敷地面積はかなり広い。
さすがに大学は分校があるが、中高は近いところに校舎がある。そして何故か中高の間には忘れられた旧校舎が存在するのだ。
「昔、ピアノが好きな女生徒がいた。彼女はよく旧校舎の音楽室でピアノを弾いていた……雷の鳴る雨の日、事故でなくなるまでは」
その時、ピカッと雷が光る。
確か今日の天候は雷雨だとニュースで言っていたから、ついに降り出したのだろう。
「彼女はその日も新しい曲を練習してて、事故にあった日忘れた楽譜を取りに戻る途中だった……心残りだったんだろうね」
また雷が鳴る。
電気を消した教室は雨のせいか、まだ日が落ちてないはずの時間なのに薄暗い。
「未だにこんな雨の日になると探しているらしい……ひたっひたっと足音を響かせながら『私の楽譜を知らない?』と追いかけられるって……」
「……えぇっ!」
語り手の言い知れぬ恐怖を煽る微笑に背筋に嫌な汗が流れる。
ついにわたしは隣にいた玲奈の腕を片手でそっと掴む。玲奈もその手を握ってくれた。
「楽譜を持っていないとその代わりに……事故で失った綺麗な手を持って行かれるんだっ!」
語り手のフクちゃんが突然わたしの手を掴む。と同時に声にならない悲鳴をあげながらわたしは腰が抜けそうになった。
次の瞬間ぱっと教室の電灯がつけられる。
「みんな何やってるの?」
教室出入り口の所を見ると問いかけた榊君と聡里が不思議そうにこちらを見ていた。
び、びっくりした!
「みんなで暇つぶしに怪談話をしていたんだよ……怖かった?」
わたしは主に聞いてるだけでしたが。ていうか怖がっているの、私だけ?
聡里は何かを発見すると、徒歩とは思えない早さで近寄った。その動く早さ、 気持ち悪い……。
そして手をあげ、フクちゃんと繋がれたままの手をチョップ。
「痛っ!」
主に叩かれたのはフクちゃんなので、わたしは痛くない。
けど突然何するのよ!
「俺の瑞希に何触ってるんだ!」
「だれがアンタのだ!」
フクちゃんはちょっと困ったように笑っている。
本当に副委員長のフクちゃんは良い人だ。 因みにフクちゃんとは名字からのあだ名で、いつも人の良い笑みを浮かべている男の子だからよく合ってると思う
「鈴原さん、突然握っちゃってごめんね。一番良い反応していたからさ」
他にも女子は玲奈と委員長がいたけど、どうやら一番怖がっていたのはわたしみたいだ……。
だって話自体はありそうな怪談話だけど、語り手のフクちゃんの表情とか仕草とかが恐怖を煽るから。
「瑞希!怖かっただろ、俺に抱きついても良いぞ!」
ってもう抱きついてるし、そもそも抱きついくるな!
「離れてよ!それとフクちゃんは何も悪くないから謝りなさいよね!」
全力で腕で抵抗するけど、びくともしない。
離れろー!と、抵抗が行われている中聡里はまたフクちゃんに向き合った。
「……ごめん、悪かった」
「いいよ、気にしないで。俺もわざとだったから」
「へぇ……」
へっ?
ずっと後ろから抱きつかれているから聡里の表情は見れないけど、何だかぞくっとした。
前にいるフクちゃんはニコニコ笑顔のままだから気のせい……だよね?
冷や汗が流れる中、フクちゃんは耐えきれない様子で吹き出し笑う。
「冗談だよ。聡里でもそんな顔、するんだね」
可笑しそうに笑うフクちゃん。
気になって身をよじり聡里の表情を見ると、いつも通りの笑顔だ。
「まあな。フク、後で覚えてろよ」
「っていうか、放してよっ!」
一瞬の隙をねらい、聡里を思いっきり押して脱出。
名残惜しそうにしていたけど、そんなのは知らない。
「俺の瑞希はつれないな……まあそんなところも可愛いけど!」
何照れたように頬を赤くしているんだ。
可愛らしく頬に手を当てていても、正直見た目にギャップありすぎて気持ち悪いとしか思えない。
「ていうか、そもそもアンタを待っていから聞くはめになったんだから!」
そもそも暇つぶしにってことで話を聞いた。
聡里さえ待たなければ怖い思いはしなかった!ってちょっと見当外れかな…いやそんなこともないか。
「俺のことを待っていてくれたのか!」
「何感激してんのよ。聡里のお母さんからメールがあったからに決まってるでしょ!」
わたしの言葉に聡里は自分の鞄の中を探る。
そういえばいつもメールを見ないって、聡里のお母さん言ってたっけ。
そのくせ、いつもメールすると返信早いのが謎だ……何か電波を察知することができるのだろうか。
「今日は瑞希の家か」
メールを見た聡里が納得したように呟く。
うちと聡里の家は仲が良くて、夕食を一緒にする。
まあ別に一緒に帰る必要なんてないんだけど、おばさんが一緒に帰ってきてってメールするから待った。
聡里のお母さんって聡里を産んだだけあって可愛い系の美人なんだけど、笑顔のごり押しという隠れ技を持ってるんだよね……。
あの技に勝てるのは、私の母ぐらいしかいないのだ。
「んじゃ帰るか」
聡里の言葉に、みんなもそれぞれ帰り支度を始める。
玲奈は榊君と帰るみたいだし委員長とフクちゃんは職員室に寄るって言うから、みんなに別れを告げて聡里と並んで教室を出た。
放課後だからか、廊下の明かりは落とされている。
外は雨が降っててやや暗いから、廊下も暗い。
「みずきー?」
「なに……」
「いや、なにも」
……何よ、そのキモチワルイ笑みは。
それにしても、いつもなら日が射して暖かい廊下も今日は気味が悪い……やっぱりあんな話を聞くんじゃなかった。
更にまだ雷もなってるし……最悪だ。
「瑞希」
「な、なに?」
ピカッと光たびに内心ビクッとしてしまうけど、聡里に知られるわけにはいかない。
コイツのことだから、嫌な笑みを浮かべて更に怖がらせそうだし。
「いや、ほら」
いやほらって言われても……差し出された手をじっと見つめる。
聡里にからかいの色は見えない、ということはこの手はもしかして。
唖然としていると、聡里のほうからわたしの手を取って握り締めた。
「早く帰ろう」
そのままぐいっと引っ張って廊下を進む。
結構引きずられてるんですけど!
「ちょ、ちょっと!」
「大丈夫、誰も居ないって」
……そういう意味でもないんだけど。
まあ、いいか。と珍しく聡里の背中を見ているとそう思えてきた。
雷はまだ鳴っているけど、ビクッとはしなくなったし。
だけど、お礼は言わない。
学校の玄関でわたしの手を頬擦りしてきた聡里は、やっぱり変態だ!