6戦目、古典的パターンには慣れています。
文化祭も終わり、中間テストも近い今日この頃。
「……ちょっと」
「ん?」
「いつまでもくっついているのよっ!?」
ぐぐぐっと全身を使って、抱きついている変態を押し出そうとするけどびくともしない。
べったりくっ付いて鬱陶しいわっ!はーなーれーろっ!!
「まあまあ、鈴原さん。我慢してやってよ」
取り成してくるのは何故かクラスメート男子。玲奈は勿論、榊君もなにも言わないのに。
榊君に「助けて」と視線を送っても、眉を下げて困ったような微笑だ。
……あれは、言外に「ごめんね」と突き放している。玲奈は関わるのさえ嫌みたいだし、本当に親友なのだろか……。
って、そうじゃなくて。
「……どうして、聡里みたいな変態を庇うの?」
いつもは生暖かい目で見ているだけなのに。見てるなら助けてほしいのに。
しかも取り成す人、みんながみんな劇共演者ばっかりだ。ここまでくると文化祭の日何か合ったのかと疑う。
疑いのまなざしのわたしに、問われた男子はギクリと身体を強ばらせた。
「いや……そのっ……」
あからさまに焦ってしどろもどろ。視線を聡里に向けたかと思うと、その表情を青褪めさせたように見えた。
……いま、聡里はどんな表情をしているのだろう。後ろから抱きつかれているので見えないけど、見たいような見たくないような……。
うん、自分のために振り返るのは止めよう。心に固く誓う。
決心していたら聡里が益々ぎゅっとしてきて。ちょっとびくっとしてしまった。
「……瑞希ぃ〜」
「な、何よ」
「ちょっと胸育った?」
その瞬間場が凍ったのと同時に、わたしは聡里の顎下から拳を叩き込んだ。
「どこを触ってんだっ!この変態がっ!!!」
自分でいうのもあれだけど、今までで一番綺麗にキマった。お陰様で聡里はようやく離れ、床に尻餅ついている。
それなのに、聡里は痛そうな素振り一つ見せずに光悦と笑顔だ。
……マゾか、そっちの意味でも変態なのか……ひとまず本能的に後ずさりをして距離を取る。
「何で、さっきから引っ付いてくるのよ!」
文化祭が終わった翌日の一昨日から昨日といい今日までも!
昨日はまだよかった。
くっついても腕を回したりせず、ぴたっと文字通りくっついているだけだった。
……いや、よくよく考えても昨日の状態もアリエナイし。もしかして最近毒されてるの!?
新たに気付いた事実に、わたしは物凄く嫌そうな顔をしているだろう。周りは唖然と、引き気味だ。
だけど知ったこっちゃない。助けてくれない時点で周りも同罪だ!
「あ、あの……鈴原さん、どこいくの?」
踵を返し教室を出て行こうとするわたしに、クラスメートは恐る恐ると聞いてくる。
睨むように視線を向けると口を噤んだ。……わたしってそんなに目つき悪いかな。
「……トイレ!」
この変態が絶対に来れないところ。むしろ入ってきたら、警察に突きだしてやる!
勿論誰も止めることなく、見送るだけだ。
「…………ちょっと、いい?」
帰りたくないけど潔くトイレから出て教室に戻ろうとする途中、道を阻まれた。
そう言いたくなるでしょ、廊下に3人が並び立つと。他の人からも通行の邪魔じゃないのかな。
「鈴原さんに話があるんだけど」
話を切り出したのは向かって右の女子。あまり顔に見覚えないから他のクラスかな?と考える。
左側も同じくだけど、真ん中には見覚えある。
「成川さん?」
うちのクラスのアイドル、成川りり子さんだ。
わたしと身長同じぐらいなのに色白でか弱い感じが可愛い女の子。と暢気に思っている場合じゃない。
……このピリピリとした空気になんとなーく察してしまう。わたしには話なんて無いけどそういう訳にはいかないよね……。
「いいよ、場所移す?」
面倒になって諦めたわたしに、3人が先導して歩き出す。素直にわたしは後ろをついて行った。
この方向は特別教室があるところで、つまり人気の無いところ。その教室の一つに入ったら向き直った。
「話って……なに?」
大体予想つく。
さんざん慣れてしまった自分が悲しく、同時に元凶が憎い。
「あんた……聡里くんの弱みでも握ってるの?」
名前の知らない右側女子の言葉に、わたしは目を丸くしているだろう。
弱み……そんなの握った暁には、半径3メートル以内は絶対近寄らせないのに……。
予想通り聡里の話題、忘れがちだけどアイツ顔は良いんだ。
「大体りり子の方が可愛いのにどうしてこんな子が構われているの?」
今度は左側女子。そんなことわたしが聞きたい。
成川さんは相変わらず可愛い顔を歪めてこっちを睨んでいる。
正直ため息尽きたい。さっさと教室帰りたいのに。
「成川さんが可愛いのは確かだけど、どうして成川さん本人が言わないの?」
そもそもわたしに言うこと自体間違っているということに気付いていない。
だって、そうでしょう?わたしがいつ喜んでいたのって。そう見えているとしたら……最悪。
それでもわたしに一番文句が言いたいのは、成川さんのはずだ。でも成川さんは何も言わない。
「わたしが気に食わないんだよね。分かるよ、その気持ち」
理解は出来ない、と心の中で呟く。『分かる』と『解る』は違う。
わたしの言葉と平然な態度に、左右の女子たちは呆気に取られ成川さんは益々顔を歪ませた。
「……あんたがいるから、りり子のことを見てもらえないの!りり子の方が絶対に可愛いのに!」
成川さんは自分のことを名前呼びらしい。普通だったらアレだけど、成川さんなら許せるなぁ。
今にも泣きそうな成川さんを眺めながらそんなことを考える。ぼんやりしていたら、成川さんが手を振り上げた。
「あんたなんていなくなったらいいのに!」
今まで何度その言葉を言われただろう。
……そんなこと、一番わたしが解ってるのに。
手が振り下ろされるのを見て咄嗟に目を瞑り痛みに耐える。パンッと乾いた音がしたけど……痛くない。
肩に手が置かれたのに気付いて目を開けた。成川さんとわたしの間にいつの間にかに、いた。
「……さ、聡里君……」
「成川さん、さぁ」
叩かれた頬を気にせず、聡里は成川さんと向き合う。
今は後姿しか見えないけど、声からしてこれは……知らず知らず冷や汗が出た。
「俺は別に、いい。皆が望むならいくらでも優しくしてあげるよ……上辺だけど」
どこか愉快げで笑っているようなのに、こっちはワラエナイ。
こんな綺麗な顔の男に、微笑まれながら残酷な言葉を囁かれるなんて。
「でも俺の瑞希に手を出すなら……赦さない」
いつものあの変態っぷりはどこにいったんだろうか。と思えるぐらいに真剣な声。
ついに成川さんがぽろりとその大きな瞳から涙を零した。
次々と溢れる涙を手で隠しながら、教室を急いで出て行く。左右にいた女子はあまりのことに茫然としていたが、成川さんが出て行ったので追いかけるように後にした。
残されたのは当然ながら、わたしと聡里。人気がないので途端に静かになった、かと思えば。
「瑞希!大丈夫か!?」
「誰かさんが庇ってくれたお陰で……ていうか、あんたのモノになった憶えはない!」
思い出してイラッときて蹴ろうとしたけど、簡単に避けられた。
避けられたので、わたしはすぐに聡里と距離を置く。また抱きつかれでもしたら堪ったもんじゃない。
じりじりと間を詰めようとしたけど、結局聡里は近寄るのを諦めたのか近くの机に凭れ掛かってこちらを見る。
その表情は先程の微笑に似ている気がする、あの心底キレているような。
だから何だって言うのって感じだけど。
「……瑞希、避ける気なかっただろ」
避ける気、とは成川さんのことだろう。
それはそうだ、運動神経悪いし。というより、いつの間にかに居て尚且つ庇った聡里が驚きだ。
前から完璧だとは思っていたが、超人か……。
「それが何?」
「……別に」
きっぱりとしたわたしの答えに、何も言えなくなった聡里。それを見て内心ほくそえむ。
わざと聞きかえした。聡里が強く言えないのを知っているから。
それに何だかんだと幼馴染だから、聡里は『身内』には甘い。
対外的な優しさに騙されがちだけど、一度身内を害せば容赦ないのだ。……だったら最初から優しくしなければいいのに。
「本当性格悪いよね、聡里って」
まあ、わたしが言えた義理じゃないけどね。
聡里は苦笑を返すばかりだった。……どうやら自覚はあるらしい。
お読み頂きありがとうございます。
ヒロインがライバルに校舎の裏で〆られるのはお約束ですよね!
という感じのタイトルです。
解りにくくてすみません……。