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4.5戦目、傍観者からの攻防戦勃発です。


「でも、まさか委員長がああ言うとは思ってみなかった」

 今呼ばれている『委員長』とはモブキャラクター(背景の人物や群衆などの意味)に等しい私のことである。

 勿論名前ではないが、クラスメートが付けてくれた愛称みたいなものだから特に否定はしない。

 事実クラスの雑用……もとい委員長の任を請け負っている。

 それもこれも、あのいい加減な担任(24歳、独身)のせいだ。

 面倒くさがり屋の傍観者を自負している身としては腹立たしいが、それはまた別の話。

 今は、ホームルームの『金賞を取ったら焼肉』の話だ。

「そう?皆のやる気に火をつけるべく、ここは先生に太っ腹になってもらわなければ」

 それに実は知っている。

 金賞をとったクラスには賞金、更に先生にも色々『特典』があるらしい。

「そういえば鈴原さんはこれでよかった?」

 今話している相手、鈴原瑞希さんはきょとんとした目でこちらを見た。

 旗本君と関わらなければとても素直で良い子だと知ったのだけれど、少々自身関して疎いところがある。

 学力での成績は優秀だから、それが彼女の人柄なんだろうと推察。

「ジュリエット役譲っても良かったのかってことよ」

 察してくれた周防玲奈さんが口を挟む。

 周防さんの言葉で理解したのか、瞬時に冷めた表情を見せた。

 その冷めた表情はきっと私たちに対して、ではないだろう。

「委員長までそんなこと言うの?変態とわかっている相手のヒロイン役なんて……」

 想像しただけでも嫌なのか、彼女は悪寒が走ったように身を縮ませている。

 こんなに拒否られているのかと、少々同情が湧きそうだ。

 ……いや、彼の自業自得なところもあるか。

「それに、このドレスが似合う人は他にもいるでしょ」

 ちなみに私たちは衣装班である。先程から会話をしながらも針を縫う手は止めていない。

 まあ私は委員長なので一応総括的な立場にいるが、一番大変である衣装班に主に所属している。

 演技指導などの監督業は、全て演劇部員に任せた。

 なぜ都合良くクラスに演劇部員がいるのかというのは、ご都合主義なのだからご容赦願いたい。

「ていうかドレス出来上がるのかな……」

 ぽつりと弱音を言われ手元を見ると、ようやくドレスは形になってきている。

 今は袖口にフリルをつけているところだ。しかしここからが難解でややこしく面倒くさい。

 この衣装を着る予定の主役は、庇護欲のそそる笑顔で旗本君の隣にいる。

 仕草やら言葉使いやら全てにおいて乙女全開だけど、悲しいぐらいに彼には伝わっていない。

 気付いているのか気付いていないのか、彼は対人用の作り笑顔でかわしている。

「やっぱり、目の保養になるよね」

 特に感情をのせずに、彼女は呟く。

 確かに、相手役の成川りり子さんは可愛い。

 二人が並ぶとまるでドラマに出てくるようなカップル。

 でも気付いてないかな?彼の表情や仕草のの端々を。

 それに彼女も今どんな顔をしているのか、気付いていないでしょう。

 同じ思いなのか、周防さんと一瞬目が合って同じく苦笑い。

 私なんぞより付き合いの長い周防さんは、どうやら黙っておくようなので私も黙っておこう。

「さ、これが終わったら8割方完成するから急ごう」

 とりあえず、私には気を逸らすことぐらいしか出来ないだろう。

 二人も気を取り直したかのように集中して手を動かした。




 日が落ち暗くなり始めた頃、校内アナウンスが下校時間を知らせる。

 それに促されてうちのクラスも解散となった。

 私は委員長という任があるので、全員が教室をでたことを確認して施錠。

 あとは担任のところに行って報告して鍵を渡せば、私も帰宅できる。

 まったく、面倒なことだ。

「あれ、委員長まだ居たのか?」

 窓を閉めていると、ひょっこり顔を出したのは担任。

 職員室に行く手間が省けたと内心小さく喜ぶ。

「確認したら帰ります」

 すると担任は返事も曖昧に、教壇に放置されている台本を開き読み始めた。

 ちょっと、私は帰りたいんですが。 

「なあ、あの二人ってどう思う?」

 突然何を言い出すんだ、と思うが言葉は思いとどまった。

 あの二人、とは恐らく私も思い浮かんだ二人で間違いないだろう。

 だからといって、担任の考えは読めない。そんな少ない言葉じゃ解らず聞きなおす。

「……どう、って何ですか?」

「くっつくかってこと」

 ……ちょっと意外だ。

 やる気はなさそうだから無関心かと思えば。

 いや、これは楽しんでいるな。

「さあ、どうでしょうね」

「俺はあの二人くっつくような気がする」

「……そうでしょうか」

 そう簡単にいくだろうか。

 彼女の方は勿論、彼の方も中々本心を見せていないようなところがある。

 もしこのままだったら、間違いなくすれ違うだろう。

 そうならないことを願うが。

「だったら賭けてみるか?」

「は?」

「今年中にくっついたら、来年もお前が委員長だからな」

 二年生になればクラス替えがあるんですが。

 ていうかこの担任、人を雑用係にする気満々だな。

 しかも生徒を賭けの対象にするなんて…本当に教職者か。

 一方で考える。文化祭がある今月は9月で、今年はあと3ヶ月とちょっと。

「……では来年は他の人でも探して置いてください」

 正直難しいだろう、このままのペースでは。

 私はにっこりと嫌味のつもりで笑顔を向けると、担任は益々楽しそうに笑顔を作った。

 その笑顔、初めて見たときからイラッとくるのは秘めておこう。


 まずはクラスで金賞をとることが目標。

 賞金が出るといっても多少は自腹を切らねばならないだろう、決して少なくないクラスメートの分を。

 精々後悔すればいい。

 私はささやかな復讐を心に誓った。






委員長視点でした。

横道にそれて申し訳ございません。

次は5戦目に戻ると思います。

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