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4戦目、消化不良気味に次戦持ち越しです。


ふふふ!

私はこみ上げてくる喜びを抑えきれない。


「…瑞希、気持ち悪い笑みをやめなさい」


いくら親友玲奈が気持ち悪いモノに対する冷たい視線でもわたしの心は浮き立っていた。

だって、何たって!

「文化祭まではあの変態に付き合わなくてもいいなんて…!」


話は、一昨日に遡る。





「ウチのクラスの文化祭出し物は劇になりました」


 委員長がちょっと面倒くさそうに、黒板に決まっていることを箇条書きしていく。

 わたしのクラスの委員長は女の子ながらにサバサバした人で、時々見かねてあの変態から助けてくれるいい人だ。

 だからあのやる気のなさそうな担任に任命されても断れなかったのだろう…クラスの行き先が不安で。

 委員長のことを考えている内に、委員長は書き終わったのか手についてチョークを払う動作をしていた。

「この中から決めるのですが、先生から意見は……有るわけありませんか」

 一応先生を見るけど、やる気がなさそう…じゃなく、面白そうにニヤニヤしているだけだ。

 諦めたように一つため息を零す委員長、まあいつものやりとりなんだけど。

「と言うわけで、金賞を取ったら担任が焼き肉おごってくれます!」

 突然の委員長の言葉に全員が息をのみ、一瞬の間の後歓喜した。

 基本的にはみんな仲がいいクラスなんだよね。

 当の本人である担任は一瞬驚いたように委員長を見たが、にやりと笑った。

「だからお前ら絶対に金賞取れよ?」

 担任からもオッケーサインが出た。

 益々やる気になったのかクラスメートが挙手。

「ちなみに何の劇をやるんですか?」

委員長が改まうように咳を一つ。

皆が固唾を呑んで答えを待つと、委員長はにやっと笑って答えた。


「ずばりロミジュリです」

 それは古からの悲劇のロマンス。邦題『ロミオとジュリエット』

 女子があっという間に落ち着かない様子で色めきたった。

 ……そりゃあ、ね。

 ちらりと気付かれないように、隣の席を見る。

 と、目が合って超笑顔でこちらに手を振っている。いや隣の席なんだけど。


「珍しいわね」

 前の席の玲奈が後ろを向く。

 みんな興奮しているのか雑談が始まり全体的にざわざわしている。

 だからこうしていても咎める人はいない。

「めずらしい?」

「旗本君ってこういうの立候補しそうなのに。瑞希ヒロインで」

 最後の一言が余計だけど、確かに言い出しそうなのに何も言わない。

 まあ、正直うちのクラスのロミオ役は既に決まっているようなものだけど。

「だってこれ悲恋だろ?俺は瑞希を死なせたりしないし死なない。なんたって俺たちの愛は永遠だから!」

「誰が、俺『達』だって!?」

 勝手に纏めるな!

 すると聡里は演技っぽく悲しそうな表情をした。

 そのわざとらしさにイラッとする!


「あーお取り込み中悪いんだけど」


 パンパンと皆を落ち着かせるかのように委員長が手を叩く。

 いっせいに教室がシーンと静まる。

「劇は投票制で金賞が決定するのでヒーローは目をひく人でなくてはなりません」

 視線が、自然と一箇所に集まる。

 …忘れかけていたけど誰もが目を留める美形がいるんだった。

「旗本聡里君、ロミオ役で決定」

 委員長の采配は正しく、誰も異論を述べない。

 わたしだってそう思う、どんなに中身がアレだとしても。

 黙っていても黙っていなくとも人を惹きつける男だ。

「…まあ、いいけど」

 さすがに空気を読んだのか。

 特に反対することもなく頷いた。

 頭の回転が早いはずの聡里にしては珍しく戸惑っているみたい。

「さて、肝心のジュリエット役ですが」

 委員長と目が合い、わたしは咄嗟に勢いよく横にふった。

 冗談じゃない!わたしのような平凡な顔がヒロインだなんて!!

「…ここは公平にアミダクジで決めますか」

 紙に幾つも棒線を書いていく。

 何人かは辞退しているけど、なぜかわたしは『不公平になるから』強制参加らしい。

 当たりませんように、当たりませんように!!




 ……わたしの祈りは通じた!





 話は冒頭に戻り、わたしは教室の端から中心で練習をしている役者群を見る。

 聡里の隣に立っているのは、小柄で細い女子の成川りり子さん。

 成川さんは学年でも守ってあげたいランキングにも上位ではいるような可憐な人。

 お似合いで目の保養になるカップルだ。

 練習中はお互いの息を合わせるためにずっと一緒に居る。

 その為わたしにアイツが近寄ってくることはないし、むしろそんな暇もない。

 何て楽なの!やはり喜びが溢れてきて笑いが止まらない。


「…それでいいの?」

 見つめていたわたしに、呆れたように玲奈が言う。

 いいって…一体何が?

 玲奈の言葉にわたしは返さない。

 ……きっと返しちゃ駄目だ。

「……いいならいいけど」

 ため息交じりの玲奈の方が向けず、ずっと役者群の方を向いていた。

 すると目ざとく聡里はコチラに気付いて、気持ち悪いぐらいの笑顔で手を振ってくる。


 とりあえず、そっぽは向いておいた。




お読み頂きましてありごとうございます。

変な終わり方でごめんなさい!

一応この話からちょっと続きます。

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