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3戦目、第三者視点で状況を見つめます。

 私は、もし例えるならばクラスメートABCDという配役のどれかだ。

 つまり名前なんて必要のない背景のような存在である。




 私が通う桜塚学園は中高大一環の教育が売りだ。

 学力は上位に入るけれど厳しい進学校ではなく自由な校風が人気の一つ。

 今回は総生徒数がとてつもないこの学園で私がイケメンに遭遇した話をしよう。



「旗本聡里です。第一中学から来ました」

 変声期を終えた後の声にしても高すぎず低すぎないその声色は心地良い。

 お決まりの入学後の自己紹介で正直あまり興味がなかったが、その声に顔を上げた。

 目の前には、ありきたりな四文字熟語が似合いそうな文字通りイケメンがいた。

 そういえばこのイケメン、入学式の代表挨拶をしていたではないか。

 ここにいるということは同じクラスになったのだろう。

 女子は先程から言葉もなく見とれている。

 その目の形はハートだ。いや実際ハートの形ではないけれどね。

 そんな中視界の端にこのイケメンを見とれているどころか、親の敵のように恨めしい顔をしている女子が入った。

 不可解にも思ったがそれよりもイケメンから目が離せないので視線はすぐ戻る。


「趣味は読書と瑞希鑑賞です」


 自己紹介が続くイケメンの流れるような言葉に誰もが耳を疑った。

 みずき……?映画鑑賞などと聞き間違えをしたのだろうか。

 そうだ、きっとそうに違いない。


「あ、瑞希というのはマイスウィートハニーのことです」


 ……どうやら聞き間違いではないようだ。

 誰もが言葉を無くして固まる中、視界の端の例の女子が机に恥ずかしそうに突っ伏した。

 何となく、彼女が「瑞希」だろうと予想。

「あと瑞希が可愛いからって好きになっちゃ駄目だからな!」

 にこやかに微笑むイケメンを、私は初めて残念な気持ちで見つめた。

 神様はこのイケメンに沢山の才を授ける代わりにこのような人格にしたのだろうか。

 いやはや世の中とはうまく回っているものだ。


「ちなみに俺と瑞希は生まれたときからの恋人同士で……」

「勝手なこと言うな!この変態!」


 とうとう耐えきれなくなったのか、彼女は机を思いっきり叩いて立ち上がる。

 怒りに満ちた彼女がをイケメンはニヤリと笑った。…そう…確かに笑ったのを見てしまったのだ。

「そんなに照れることはないだろ、ハニー」

「だーれーがーっいつハニーになった!?」

「……忘れたのか、俺達は結婚を誓い合ったじゃないか!?」

「幼稚園の時の話をいつまでも引き合いに出すなぁ!」

 真っ赤になって怒鳴る彼女に対して、イケメンは至って余裕。

 ……今までの発言は冗談なのか、本気なのか判断しにくい。

 ああ、ついに彼女がイケメンの襟首を掴みギリギリと締め付けている。

 にも関わらずイケメンは苦しそうな顔を見せず、それどころか光悦とした表情を見せた。

 ……正直、キモ……いやいや。

 彼女と同じく感じたか、やはり彼女も顔をひきつらせながら手を離し距離を置いた。

 うん、いい判断だと思う。

「そんなに離れることないだろう」

 これまた何故か嬉しそうな表情でじりじりとイケメンは彼女を追い詰める。

 イケメンなのに異様な姿に恐れをなしたのか男子一同は引き気味で、女子一同はこの一連のショックから立ち直れていない。

 まあ私は今までに無かった展開なので楽しんでみているんだけど。

 今までも今も空気みたいな担任(24歳、独身男)は面白がっているのかニヤニヤしながら見守っている。

 教職者として如何なものかと思うけど、この際置いておこう。

 つまり彼女は孤立無援状態なのだ。


「……いい加減に席に着きなさい」


 ため息混じりで第三者の声が入る。

 声の方を見ると、これまたクール系美少女がいた。

 イケメンとは違う系統だけど間違いなく二人揃えば目の保養だな。

「玲奈っ!」

 追い詰められていた彼女の方は天の助けと言わんばかりに感激した表情を見せたのに対し。

 イケメンは一瞬冷めたような表情を見せた後困ったようにため息をついた。

「仕方がない。今日はここまでにする」

 今日は?

 いつもはもっとスゴいのか!?

 奇しくもクラスの心が限りなく一つになった瞬間でもあった。

「でも俺の心はハニーに囚われたままだからな!」

「うるさい黙れ!」

 イケメンの言葉に彼女は突っかかる。が美少女の一瞥に気まずそうに黙った。

 さすがに空気を呼んだのか……いや面倒になったのか、担任が手を叩き次の自己紹介を促す。

 ともあれ、この強烈な後に自己紹介をするのは不憫だと同情するが。





 その後は言わずともかな。

 私は所詮クラスメートABCDのどれか。

 物語の端っこで物語の顛末を眺めている。

 まあお陰で退屈することはなくなったけどね。




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