2戦目、強がりはほどほどにしましょう。
「…なぁ、辰巳」
「何、聡里」
「チアガールというのは破壊兵器並みの威力を持っていると思わないか?」
「うん。とりあえず、鼻血を拭きなよ」
「…うっわ、あの変態こっちみてる」
「そうね」
わたしの視線に気付いたのか、笑顔で手を振ってくる。
はっきり言ってキショクワルイ。
あの笑顔がすごくキモい。鳥肌ものだ。
「…瑞希、とりあえず応援するのが私達の役目だと思うけど」
うう…玲奈はあきれている…。
たしかにそうだけど…。
わたしは自分の格好を見下ろす。
膝上のプリーツのスカート、おへそがギリギリ見えないノースリーブのシャツ。
おまけに手にはオレンジ色の服に合わせて、オレンジ色のポンポン。
所謂、王道チアガール。
わたしだって、好きでチアガールなんかしてる訳じゃない!
「…わたしも試合出たかったのに」
「仕方がないじゃない。クラスで決めたことなんだから」
そう…。
今日の学年クラス別対抗球技大会にあろうことかあの変態バカは、わたしをチアガールに推薦した。
勿論、わたしは猛反対したのに。
「…ていうか、アレ脅しじゃん」
今思い出してもムカムカする!
アイツはわたしがチアをしなければ自分は試合に出ないと、しれっとぬかした。
このスポーツ万能男を抜いて優勝なんて出来るわけもなく…。
「みんな騙されてる!」
「はいはい。分かったから」
クラスメイトと、更に先生にまでに言われたらやらないわけにはいかなくなった。
本気で風邪で休んでやろうと思ったが、昔から健康優良のわたしは風邪をひいたりしない。
ああ、わたしの人権ってどこに…。
「ほら、応援しないと旗本君が本気出さないから行くわよ」
アイツの応援なんかしたくもない。
でもクラスの視線が痛いので、精一杯の笑顔を貼り付けて声援を送る。
今行われているバスケの試合はうちのクラスが優勢だった。
正直、聡里が本気出したら勝負は見えている。
だからとんとん拍子に決勝戦だ。
「……わたしが応援する必要ないじゃん…」
いっそのこと悔しいから負けて欲しい。
何て言ったらクラスの皆を敵に回す羽目になるから心でこっそり思う。
でも負けるよりは勝って欲しいというのも本音だ。
「ああっ!!」
よそ見をしていたら、同じクラスのチアをやってる女子達が悲鳴を上げた。
その視線の先には聡里が居る。
「旗本君、大丈夫!?」
試合に出てる男子や応援している女子たちがうずくまる聡里の周りを囲む。
どうやら、相手のクラスに反則で攻撃を受けてしまったらしい。
笑っているけど、顔を顰めてる。
わたしの場所から離れていたから遠くで眺めただけだけど。
「…痛そう」
「そうね。でも続けるみたいよ?」
試合が再開された時のアイツの表情は真剣そのもので。
誰も止めなかった。
:
:
:
:
:
結局試合は圧勝。
聡里と榊くんのコンビがかなり活躍してた。
喜ぶクラスの皆に揉みくちゃにされて、その中心で笑ってる。
わたしはその輪に入らなかった。
少し離れて、それを見てる。
「行かなくていいの?」
「…何でわたしが」
玲奈は苦笑気味に肩を竦めた。
…別に私はアイツの彼女でも何でもないし、周りには沢山女の子いるし、そもそも関係ないし!
「マイスイートハニー!俺の活躍は見てくれたかい!?」
うわ!いつの間に!?
取り巻いていた人たちから離れ、聡里は目の前に現れて抱きついてくる。
「聡里、あんた」
「君の応援のお陰で、勝てたんだ!君は僕の女神様さ!」
うわー、よくもまあペラペラとそんなにも言えたものね…。
わたしは聡里以外の誰にも聞こえないように声をひそめて言う。
「…あんた怪我してるでしょう?」
多分みんなに知られたくないから、わたしの傍にきた。
わたしなら誤魔化せるとでも思ったのだろうか。
聡里は一瞬息を呑んだかと思うと笑みを益々深めた。
「…何のことだい?」
「いいから行くよ。この際わたしが怪我をしたということにしてもいいから」
腕を引っ張り体育館からでる。
幸い誰にも見られてないし、聞かれていない。
遠目がちのクラスメート何となく不思議そうな表情をしているが、別に変わった組み合わせでもないから笑って見送る。
「大体、痛いなら正直に言いなさいよね!」
「ハニーに良いとこ見せたかったんだよ」
はいはい、それだけ言えるなら元気ね。
わたしはわざと怪我をしているところを触れてやった。