1戦目、結局大人にはなれませんでした。
「……ちょっと、何しているのよ」
「なにって?」
そんな見てるんじゃないわよ!!
やりにくいったらありゃしない
「いやー、瑞希何してるのかな?って思って」
「……見て分からないの?」
怒鳴りたい衝動を抑える。
今は自習の時間だ。
まだ多くのクラスメートが課題のプリントに励んでいるから騒いではだめ。
ここは百万歩譲って相手の言い分も聞こうじゃない。
そうしたらわたしは少し大人になれるかもしれない!
「分かるとも!瑞希のことなら何でも分かるさ!たとえば今日の下着の色はぴ……」
色を言いかけたところで、わたしは机ごとあの変態に投げつけた。
周りは「ああ、またか」と生暖かい目で見つめる。
だけどそんなことは構っていられない。
ちょっと待て。
「なんで、そんなことを知っているのよ!!!?」
ストーカーに覗きか、貴様は!!
ま、まさか……盗撮とかしてるんじゃ!!?
「瑞希の愛はいつも痛いな…いやそんな瑞希も愛してるが☆」
んなことは聞いてない!
首をぎりぎり絞めつける。
こいつが死のうがわたしには関係ない、むしろ逝ってしまえ!
「み、瑞希、さすがに殺人は不味いわ」
そういう周りによって止められたけど。
結構本気でシメたのに、この変態はへらりと笑っている。
その嬉しそうな顔、いらいらする!
ぎりぎりと睨みつけると、聡里はわたしの耳元に口を寄せた。
「瑞希……風が強い日は気をつけなきゃな」
ぼそっと耳打ちをされてようやく理解した。
まあ、見たのは俺だけだったけど。と奴はにんまり笑う。
今朝、玄関を出たとき突風が吹いていたのを思い出した。
誰も見ていないって思ったのに!
「瑞希、そんなのより早くやらないと」
冷静な玲奈の一言でようやく我に返る。
そうだ、とりあえずコレをやらないと。提出用のプリント。
「瑞希、ここ間違い」
聡里はプリントを指でとんとんと突付く。
見かえすと、確かに式が間違っている。
道理で答えが出ないわけだ……って。
「アンタ、自分の課題は?」
「そんなもの、ハニィとの時間のためなら瞬時に終わらせるとも」
つまり、自分は終わって暇だから。
ちょっかいをかけて暇を潰したいと。
その思考に至って、ぶちっと何かが切れる音がした。
「もう、構わないで!」
「それは無理。俺のこの溢れるばかりの愛を伝えたいからな」
さらに怒鳴ろうとしたわたしの口を聡里が制した。
そして時計を指差す。
「あと10分だけど終わるかな?瑞希ちゃん」
残るは一番難しい問題。
みんな答えに四苦八苦している。
実は課題が一問でも空欄だった場合は、次の授業の特別指名フルコース(簡単な問題から難しい問題まで全部指名される)が待っているのだ。
「うそ!」
「ほんとー、さて、ここにー解き終わった問題があります」
じっと、睨むと聡里はますます嬉しそうな顔をした。
うう、マゾなのかサドなのかはっきりしろ!
「今日から一週間登下校のエスコートちゃんとさせてくれたら……いいけど?」
結果、わたしは変態に屈した。




