8戦目、それは終わりへの予感かもしれません。
HRも終わって、部活動に行く人もいれば、帰る人もいて教室内は落ち着かない。
帰る支度が終わったのか、玲奈がきょろっと辺りを見回した。
「……瑞希、旗本君はもういないの?」
「うん、最近委員会とか生徒会とかで引っ張られているみたいだよ」
普段の言動が著しく変態に見えても、学年トップの成績を誇る奴だったりする。
しかも運動神経も良いから、入学当時から運動部系の勧誘も最初はすごかったっけ。
だけどあのバカはよりによって、「瑞希がマネージャーをするなら」って条件を出した。
そのせいでわたしまで、部勧誘がひどかった……マネージャーとしてだけど。
まあ断固拒否っていい加減にキレたり、聡里の変人ぶりを見ていたらそれも落ち着いた。
そもそも成績優秀に運動神経抜群って、存在がもう嫌味だよね。
ひたすら心の中で2位の人を応援しているけど……残念ながら今のところ、聡里が負けているところは見たことがない。
「そうじゃなくて……一人になっていいの?」
無表情だけど心配そうにわたしを見る玲奈に、苦笑するしかない。
この間の『呼び出し事件』から、玲奈は妙に過保護というかなんというか。
確かに中学時代も心配かけたけどさぁ……もうあんなふうにはならないって。
それに!聡里に守ってもらうなんて冗談じゃない、むしろ奴は元凶だ!!
「いいのいいの。それより玲奈、時間なくなっちゃうよ?折角委員長に掃除当番変わってもらったのに」
玲奈の家はお父さんが特殊な仕事のためか単身赴任をしている。
お母さんも働いているっていっていたから家族全員が集まる機会はすごく少ない。
だから半年に一度は全員が予定を合わせてご飯を食べに行くというのが、玲奈のお家のルールだ。
今回運悪く掃除当番に引っ掛かってしまったため、委員長に頼んで交代してもらった。
でもわたしは普通に当番だから、一緒には帰れない。それが気になっているみたい。
玲奈は携帯電話をちらっと見る……キャンセルって思ったってそうはいきません。
「ほらほら、早く!大丈夫だって」
まだ躊躇う玲奈の背中を押す。
本当は楽しみにしているの知っているから、わたしのためにキャンセルさせたくない。
わたしの気持ちが伝わったのか、玲奈は渋々鞄を持って教室を出た。
「分かった、委員長に一言謝っておいてくれる?」
「うん、まかせといて」
「ありがと、瑞希も気を付けてね」
もう、本当に心配性だな。
まだ名残惜しそうにしていたけど、ちゃんと見送った。
今度は知っている人でもついていかないようにするって。
「……やけに心配しているよね」
「わっ!委員長!?脅かさないでよー!」
一体、いつの間に!?
ちょっと用があって教室からいなかった委員長は気付いたら、わたしの後ろに立っていた。
からかっているのか、時々妙に脅かしてくるよね!
委員長はおかしそうに笑っていて、ついでのように謝った。
おそらく全然やめる気がないんだろうな……。
「何時の間にいたの?玲奈、ついさっき出て行ったばかりだよ」
「うん、入れ違いに。でも周防さん、結構ぎりぎりまでいたね」
本当は授業終わったら速攻でなきゃ、支度に時間がかかるもんね……。
それなのに残ってキャンセルしようとしたのは。
「わたしのせい、かな。心配かけちゃって」
「そっか。私でよければ力になるよ。何かあったら言ってね」
だって委員長だし、と続けて言う委員長はいつも頼もしく見える。
なんだかんだと面倒くさいとぼやいているけど、本当は委員長って面倒見が良い人だからなぁ。
理由も聞かない……もしかしたら頭にいい委員長なら悟っているのかもしれないけど。
それでも何も言わないのがありがたい。
「うん、ありがと!」
「それじゃあ、とっとと終わらせて帰ろうか」
ああ、そういえば中庭の掃除があったんだった……。
ようやく思い出して、委員長とふたりで歩き出した。
人が通る道だけ落ち葉を集めて、ごみ袋に入れる。
同じ掃除当番の子は中庭をぐるりと一周回ってゴミ拾いだから、落ち葉集めぐらいは委員長と二人でもすぐに終わる。
大体みんなが終わるぐらいになって集まってから解散する。
これが掃除当番の流れだ。
「じゃあ、ごみ捨てておくね」
中には部活動の人だっているので、比較的暇なわたしと委員長がごみ捨てを請け負う。
大分寒い季節になったから落ちていたごみはほとんどなかったし、落ち葉も簡単に持てるぐらいに軽い。
それを合図に、他の人は解散ということで散らばっていく。
「あ、そういえば裏門で鈴原さんを待っている人がいるって伝言があったよ」
部活組の男子が思い出したように言う。
中庭を通ったほうが部室が近い部活もあるから、そういえばさっき同じ部活の人が通りかかっていたっけ?
「待ってる人って……誰だろう?」
「他校の女子らしいけど。用事がすんだらきてほしいってさ」
ううーん?心当たりはないなぁ……。
仲良かった友達だったら普通はまずメールのはずだし。
伝言の伝言のせいか、誰か分からないし予想もつかない。
とりあえずこの部活組の男子は、部活があるため引き留めずに見送った。
「ごみ捨て場の近くだしとりあえず行ってみようか」
「それもそうだね」
委員長とならんで一袋ずつ抱えながら歩き出す。
裏門が見えるほど近いところにごみ捨て場があって、ごみを捨ててそのまま前を通れば裏門だ。
家は正門を使った方が早いためほとんど裏門は利用しない。
というか、か。
「……あいつ関連じゃないといいけど」
はあっと深いため息をつくと、隣の委員長は可笑しそうに笑う。
いやもー笑い事じゃないんだよ?
恨めしそうなジト目で見たせいか、委員長は笑い声は引っ込めた。
「だいぶ苦労しているね」
「そうだよ。謂れの無いこと言われまくりだし。そもそも私にだって選ぶ権利があるでしょ」
選べる立場かどうかは置いといたとしても!
そりゃ平凡だからモテないとは思うけど、聡里のせいでチャンスを逃している感は否めないはず。
そして周りの友達は最初から何故か聡里押しだし!
「まあ、旗本くん以上の人は中々いないしね」
「……委員長までそんなこと言うの?」
「あくまで一般的に見てはそう思うよ。でも鈴原さんが嫌なら仕方がないんじゃない?」
今まで、聡里のどこが嫌なのか聞いてくる人はいたけど。
委員長は絶対にすすめるようなこともしないし、どうしてかも聞いてくるようなこともしない。
「まだまだ二人の駆け引きを見ている方が楽しいしね」
希少な存在かと思ったら、それが本音かあぁっ!!
委員長って、絶対に委員長の立場を楽しんでいるよね……心から。
どっと脱力感に襲われた。
どうしてこう周りは癖のある人ばかりなんだ……。
「委員長に恋話ができたら、絶対にからかってやる……」
「はいはい。ごみ袋貸して。裏門で誰か待っているんじゃなかったっけ?」
委員長がごみを入れているコンテナの蓋を開けて放り込んでくれた。
って、そうだった。
誰か分からないけど待っているんだった!
と、ふりかえるより一瞬だけ早かった。
「……瑞希?」
後ろから掛けられたやや高めの声に聞き覚えはあった。
あったけど、そんなはずはない。
信じられない思いで、怖くてわたしは後ろ振り向けずにいた。
だけど目の前には、怪訝そうな委員長。
覚悟を決めて、ゆっくりと振りかえる。
どうか、どうか違っていればいいのにと無駄な悪あがきをしながら。
「やっぱり、瑞希だ!」
嬉しそうに笑うあの子は、中学生の時より綺麗で可愛くなっていた。
見慣れない高校の制服を着こなし、髪型もメイクも完璧で、あの時より洗練されている。
……久しぶりなのに、わたしはちゃんと覚えている。
あの時も、ずっと可愛いままだった。
「美月ちゃん……」
わたしは、呆然とあの子の名前を呼ぶことしか出来ない。
委員長からしたら、さぞ奇妙な表情をしていただろう。
それでも、ただ頭に過るのはあの時の感情だけだった。
二年近くの放置、大変申し訳ございません。
今年中に完結できればとは思いますが……頑張ります。




