第2章 風が残した足跡、交わす声
第二幕
【少女と歩む過去の足音】
第2章
『風が残した足跡、交わす声』
どうぞ、お楽しみください
予約投稿2025/7 /31 19:00
ーーーチリン……。
風が吹いたわけでもないのに、風鈴がひとつ、やさしく鳴った。
町を包む静けさは今日も変わらず、けれどその静けさに、少しずつ慣れてきている自分がいた。
「こっち……だったよね」
おとはが前を歩きながら、時折振り返る。
私は頷き、昨日案内された道の記憶を辿るように、ゆっくりと歩を進めた。
石畳の欠けた小道、道ばたに咲く小さな白い花、そして……あの、夕暮れの気配を纏った細い路地。
「たしか……この辺りだった気がする」
「うん、合ってるよ。昨日、ゆうとが少し立ち止まった場所だよね」
「覚えてたんだ」
「うん。ゆうとの歩き方って、わかりやすいんだよ?何か気になると、すぐ振り返るし、目が止まるから」
「……なんか、恥ずかしいな」
おとははくすっと笑った。
「でもね、それが悪いことじゃないって思うよ。気になったってことは、きっと“なにか”があるんだよ」
路地の入口は、古びた木の柵に囲まれていた。
かつて誰かの家だったのか、朽ちかけて読めなくなった表札がかろうじて、人の住んでいた家という印象をとどめている。
「入ってみても……大丈夫かな」
「うん。大丈夫。ここ、もう誰も住んでないの。ずっと前から」
「そっか……」
私は木の柵をゆっくりと開け、足を踏み入れた。
わずかに草の香りが漂う。踏み石の並ぶ細道が奥へと続いていた。
「……なんとなく、見覚えがある気がする」
「懐かしい感じ?」
「ううん、なんていうか……忘れちゃいけない感じ、かな」
「ふうん……」
おとははそう言って、隣に立ち、私と同じ景色を見つめた。
「ここ、昔誰かが暮らしてたのかな」
「たぶん。もしかしたら、ゆうとも来たことがあるのかもよ」
「うん……。たとえば、親戚の家とか、友達の家とか」
「それか、――自分の家だったりして」
「それは……ないと思う」
思わず苦笑いしながら否定する。でも、その言葉の裏に、なぜだか少しの自信も持てなかった。
思い出せないくせに、「違う」と言い切れるのも、なんだかおかしい。
「でもね」
おとはが、小さく言葉を重ねた。
「この町って、来た人の記憶が混ざり合うことがあるんだって。ほんとうかどうかはわかんないけど……誰かの記憶が、風になって町の中をさまようみたいに」
「記憶が、風に?」
「うん。たとえば……忘れてしまった夏の夕暮れとか、大切だった人の声とか。そういうのが、風鈴の音にまじって響いてくるんだって」
「……それって、おとはが思ってること?」
「ううん。おばあちゃんが言ってた。あたし、まだ小さかった頃に聞いた話だけど、なぜかずっと覚えてるの」
「そうなんだ……」
路地の奥に、木造の小屋のような建物があった。
屋根はすこし崩れかけていて、でも周囲には風鈴がひとつ、まだ吊るされていた。
「……あれ、鳴ってるね」
「うん。風、ないのにね」
ふたりで近づいていくと、かすかに、風鈴がまた鳴った。
ーーーチリン……
「……この音」
私はふと足を止めた。
「どうしたの?」
「なんでもない。……でも、すごく懐かしい気がする」
「そっか……」
おとはは、私の顔をじっと見つめた。
まるで、私が何かを思い出すのを、ずっと待ってくれているような目だった。
「ねぇ、ゆうと」
「なに?」
「思い出せないことって、悲しい?」
「うーん……わかんない。でも……思い出せたら、たぶん少しだけ寂しくなるかもしれない」
「どうして?」
「……思い出したら、ここにいる理由がなくなる気がして」
おとはは、小さく目を伏せた。
「でもね、ゆうと。もし思い出したとしても、すぐにどこかに行っちゃうなんて言わないで」
「……うん」
私はうなずいた。
その約束に、理由なんてなかった。
ただ、そう言ってあげたいと思った。
風鈴がまた、ふたりの間の沈黙をそっと撫でるように、音を鳴らした。
その音は、まるでふたりの心をつなぐように、やさしく――けれど確かに響いていた。
ーーーチリン……。
そして、夏の日のまぶしさのなかを、ふたりの影が並んで揺れていた。
この場面、少しわかりにくい。
ここ、少し変じゃない?
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モチベがぐぐっと上がるので




