第1章 目覚めと、うつろな朝にささやく風
第二幕
【少女と歩む過去の足音】
第1章
『目覚めと、うつろな朝にささやく風』
どうぞ、お楽しみください
予約投稿2025/7/30 23:00
ーーーチリン……。
やわらかな朝の空気に溶けるように、風鈴が小さく鳴った。
薄く差し込む陽の光が、障子越しに滲んでいる。
私はまどろみのなかでその音に耳を傾けながら、ゆっくりと目を開けた。
見慣れた天井。
畳の匂い。
縁側から微かに吹き込む空気が、肌に心地よい。
……ここは、あの風鈴の家。
おとはと出会ってから、もう三日目の朝になる。
昨日は、おとはに町のいくつかを案内された。
かつて子どもたちが集まっていたという公園、
今は閉まってしまった駄菓子屋の前、
色あせた看板のある写真館跡や、
町役場の古い建物、
小さな用水路と石橋、
路地裏にひっそり残された社など、
どれも懐かしいようで、けれど記憶からは抜け落ちている場所ばかりだった。
おとはは、まるで町そのものの声を代弁するように、静かに、柔らかく案内してくれた。
「おはよう、ゆうと」
障子の向こうから声がした。
おとはだった。
私は返事をしようとして、少しだけ寝ぼけた声になる。
「……ああ。おはよう、おとは」
障子が静かに開いて、おとはが顔をのぞかせる。
白いワンピースは、昨日と同じかもしれない。
けれど、どうしてだろう。
何度見ても、まるで最初からこの町の一部だったような不思議な感覚がある。
「今日はね、予定ないんだ。どこに行くってわけでもないけど……」
「うん、なんとなく。そんな気がしてた」
おとははくすっと笑って、縁側の柱にもたれた。
「じゃあさ、今日はゆうとの“行きたいところ”にしようよ。……この町で、もし気になる場所があったら」
「俺の……?」
思わず問い返す。
「うん。昨日、一緒に歩いたとき、ゆうとが何度か後ろを振り返ってた。……きっと、何か引っかかってる場所があるんだと思うよ」
おとはの言葉に、胸の奥がかすかにざわめいた。
確かに、昨日見た景色の中に、いくつか妙に気になる場所があった気がする。
風鈴の音、木の香り、そして――
夕暮れの気配を纏った、細い路地の入り口。
「……じゃあ、もう一度だけ、あの通りを歩いてみたい」
「うん、いいよ。……きっと何か見つかると思う」
おとはがそう言ったとき、また風鈴が優しく鳴った。
ーーーチリン……。
まるで、それが今日の答えを静かに肯定してくれるかのように。
そして私たちは、また歩き出す。
音に導かれながら、止まった記憶の続きを探すように。
この場面、少しわかりにくい。
ここ、少し変じゃない?
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モチベがぐぐっと上がるので




