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あの日聞こえた風鈴  作者: なとせ
第一幕 風鈴導く再会の音
6/15

第5章 止まった時間とふたりの午後

第一幕


【風鈴導く再会の音】


第5章


『止まった時間とふたりの午後』


どうぞ、お楽しみください


予約投稿2025/7/26 15:00


ーーーチリン……。


風鈴の音が、静寂の中でやわらかく響く。


縁側に並んで腰を掛けたまま、私とおとははしばらく黙って空を眺めていた。

雲の流れはゆっくりで、まるでこの町の時間にひきずられているかのようだった。


「ねぇ、ゆうと」


おとはが口を開いたのはそれからしばらく経ってからだった。


「なに?」


「そろそろね、日が暮れてくると思うんだけど、その前に…少しだけお散歩、行ってみない?」


「……お散歩?」


「うん。見せたい場所があるの」


そういって立ち上がるおとはの横顔は、どこか嬉しそうで、けれどほんの少し寂しそうにも見えた。


私は頷いた。

そこに理由はない。

ただ、彼女についていきたいと思った。

ーーーそれだけだから。


靴を履いて、ふたりで縁側を降りる。

風のない町は、相変わらず静かだった。

けれど、おとはの足音が、私の前をゆっくりと導いてくれる。


「こっちだよ」


曲がり角のたびに振り返って、笑うおとは(・・・)

私もそれに応えるように歩く。


舗装が剝がれかけた細い道。

小さな川の音。

傾きかけた木造の橋。

そして、草の香りと風鈴の音。


この町は、どこを歩いても”音”だけが、確かに存在している気がした。


やがて、おとはが足を止めた。

そこは古びた神社の前だった。


石段をのぼると、こぢんまりとした社がひとつ、ポツンと建っている。


「ここ……?」


「うん。……この神社だけは、ずっと昔から変わってないの」


おとはがそういった瞬間、ふわりと風が吹いた。

さっきまで動かなかった木々の葉が揺れ、

どこかからまた風鈴の音が聴こえてきた。


「……風?」


「うん。神様が、来てくれたのかも」


そう言って、おとはは手を合わせた。

私も見よう見まねで目を閉じ、同じように手を合わせる。


何を願ったかは、もう思い出せない。


けれど、胸の奥に小さなあたたかさが灯ったような気がした。


「ありがと、ゆうと」


「え?」


「いっしょに来てくれて」


そう呟いたおとはの声が、静かな午後の空気にやさしく溶けていった。


***************



 


夜が、静かに町を包んでいた。


薄く灯る行灯の光が、縁側の柱をゆらゆらと照らしている。

虫の声がかすかに響き、風鈴の音はもう、ほとんど聞こえなかった。


「……今日は、ありがとね」


布団に入りながら、おとはがぽつりと呟く。


私はその隣に敷かれた布団の中で、天井を見上げていた。


「こっちこそ。……なんだか、不思議な一日だったな」


「ふふ……まだ、始まったばっかりだよ」


「そうかな」


「うん。ゆうとがここにいるってことは、きっと、まだ“なにか”が残ってるってことだから」


その“なにか”が何なのか、まだわからない。


でも、この町の空気の中で、ほんの少しずつ思い出せそうな気がする。


「……おやすみ、ゆうと」


「おやすみ、おとは」


最後にまた、風鈴が、ひとつ鳴ったような気がした。


ーーーチリン……。


そして夜は、そっと明けていった。


 


*************** 


 


朝の光が、やわらかく障子を照らす。


私はぼんやりと目を開け、隣を見る。

おとははすでに起きていて、柱にもたれながら、外を見つめていた。


「おはよう、ゆうと」


振り返った彼女の笑顔が、朝の風のように、透き通って見えた。


ーーーまた、今日が始まる。


それだけのことが、どうしてこんなにも静かで、愛おしいのだろう。



この場面、少しわかりにくい。


ここ、少し変じゃない?


ってところありましたら、ぜひ、コメントお願いいたします。




いいなと思ったら☆評価もいただけたら幸いです。


モチベがぐぐっと上がるので



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