第3章 風のない町と悠かに響く音
第一幕
【風鈴導く再会の音】
第3章
『風のない町と悠かに響く音』
どうぞ、お楽しみください
予約投稿2025/7/20 15:00
「ここ……昔から変わってない気がする」
ぽつりとつぶやいた言葉に、
少女がきょとんと目を丸くした。
「え?来たことあるの?」
「……うーん。わからない。でも……なんとなくそんな気がするだけ」
少女はふふっと笑う。
「へんなの……。でも、わかるかも。……ここ、時間が止まっているみたいだもんね」
「うん、そうかも」
止まった時間。
その言葉が、妙にしっくりくる。
この町には風もなく、人の気配もなく、
ただ時折響く風鈴の音だけが、
時間の流れを知らせてくれる。
「ねえ、あなたの名前は?」
少女が、ふいにそんなことを聞いてきた。
私は少し間をおいてから、笑いながら答える。
「ゆうと、だよ」
「ゆうと……?……ゆぅと、……ゅうと……」
少女が小さく口の中で繰り返したあと、
ぱぁっと花が咲くように笑った。
「うん!…なんか、似合ってる!」
「そう?」
「うん。……音がきれい。やさしい風みたいで」
「それは、名前のこと?それとも俺のこと?」
冗談めかして聞いてみると、少女はくすりと笑いながら、
いたずらっぽく首をかしげた。
「どっちだと思う?」
答えに困って笑ってしまう。
そのやり取りが、なぜかとても懐かしく感じた。
ーーーチリン。
また、風鈴がひとつ、音を鳴らす。
少女は麦茶に口をつけながら、ぽつりとつぶやいた。
「……ねぇ、ゆうとって……今、どこから来たの?」
「……駅。気づいたら、電車に乗ってて。……なんでかこの町の駅で降りてた。」
「ふぅん、じゃあ、帰り道もわかんない?」
「……そうだね。……ていうか、帰らなきゃいけない場所が、どこだったかも……あやふやでさ」
「変なの」
「うん。自分でも、そう思うよ。」
少女は笑った。
けれど、その笑顔の奥には、
ほんの少しだけ、言葉にできない寂しさのようなものが混じって見えた。
「ここ、ずっと静かなんだよ……」
少女は言う。
「風が吹かないのに、風鈴だけは鳴る。誰もいないのに、音だけはずっと残ってる」
「……うん。さっきから、ずっと気になってた」
「……あたしは、この音が好き。さみしくなくなるから」
私が何かを返そうとした瞬間、
風鈴がまた、チリンと鳴った。
まるで、その言葉に応えるかのように。
少女はまた笑った。
今度は少し、柔らかく。
「ゆうとく……、ぅぅん。ゆうとも、しばらくここにいればいいよ」
少女の申し出に少し驚く。
そして、この目の前の少女に、呼び捨てで呼ばれることに、どこか懐かしく、馴染んでいた。
「……いいの?」
「うん。あたし、ひとりだったし。ふたりなら、もっと静かじゃなくなるかも」
私はその言葉に、小さく頷いた。
理由なんてなかった。
ただ、その提案が自然で、心地よく感じられた。
ーー風のない町。
あたかも時間が止まってしまったかに感じられる、そんな町。
けれど、風鈴は優しく音を奏でている。
ーーチリン、チリン……
その音が鳴るたびに、
少しずつ、心の奥に積もった記憶の霧が、晴れていくような気がした。
この場面、少しわかりにくい。
ここ、少し変じゃない?
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モチベがぐぐっと上がるので