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あの日聞こえた風鈴  作者: なとせ
第一幕 風鈴導く再会の音
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第2章 風のようなまなざし

第一幕


【風鈴導く再会の音】


第2章


『風のようなまなざし』


どうぞ、お楽しみください


予約投稿2025/7/19 17:00

「……迷子?」


少女の問いに、言葉が詰まった。


どう答えればいいのかわからない。

迷っているのかと聞かれれば、確かにその通りかもしれない。


でも、それは”道”ではなくて、”時間”か”記憶”の中で迷っているような、そんな気がした。


「……うん、まあ……そんなところかな」


曖昧な私の返事に、少女はまたふわりと微笑む。


その笑みは、風のように軽くて、どこか遠く感じた。


「じゃあ、ちょっと休んでく?」


「……え?」


「だって、暑いでしょ?……見た感じ、のどもかわいてそうだし」


少女はそう言って、ゆっくりと上体を起こし、立ち上がる。


縁側の方から見える庭には、陽炎が揺れていた。


私は戸惑いながらも、頷いていた。


……他に行くあてもなかったし、何よりこの子の言葉に、抗う理由も見つからなかった。


「ほら、こっち。あがってきて?」


少女に促されるまま、靴を脱ぎ、軒先で軽く足を払ってから、縁側にあがる。

昔ながらの畳敷きの居間に、ちゃぶ台が置かれており、少女に座らされる。

畳の感触が、やけに懐かしくて、心の奥がじんわりと熱くなる。


「冷たい麦茶、あるよ」


少女は私の返事も待たぬまま、奥へと歩いていき、

小さな足音が家に中に吸い込まれていく。


その後ろ姿を、私はじっと見つめていた。

ワンピースのすそがふわりと揺れて、光の中に溶けていきそうだった。



ほんの数分後、彼女は小さなトレイに二つのコップを載せて戻ってきた。


「はい、どーぞ」


……カラン


差し出されたコップを受け取ると、薄い氷の音が涼しげに鳴った。


「……ありがとう」


「えへへ…、どういたしまして」


少女はそのまま、私の隣にちょこんと腰を下ろす。

そして、まるでずっと昔からこうしていたかのように、静かに麦茶を飲み始めた。


ーー風鈴が、チリンと短く鳴った。


この不思議な町の中で、こうして知らない誰かと並んで座っているのが、なんだか妙に心地よかった。


「ここ……一人で住んでるの?」


ふと、聞いてみると、少女はこくんと頷いた。


「うん、でも寂しくないよ。……この町、静かだから」


その”静か”という言葉が、どこか妙に引っかかった。


「……そうなんだ」


「それに、風鈴の音があるし」


風鈴が、まるでその言葉に応えるようにまた鳴った。


「風鈴の音……ずっと聞こえてた?」


「うん。あたし、ずっとここにいるから」


その言葉に、心に小さな波紋を残した。


この町にずっと?どういう意味だろう……。


少女は笑っていた。

何もかも、わかっているような顔で。


けれど私はまだ、何も思い出せていない。


でも……あの笑顔だけは……

どこかで……確かに……


風鈴がまた、優しく鳴った。


まるで、「大丈夫」とでも言うように



チリン、と音が鳴るたびに、

忘れていた何かが、少しずつ、

確かな形になっていくーー

そんな気がしていた。


ある程度書きつつ、予約投稿のタイミングを模索中


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