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あの日聞こえた風鈴  作者: なとせ
第二幕 少女と歩む過去の足音

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24/24

幕間 鳴ってしまった音

第二幕




【少女と歩む過去の足音】




幕間




『鳴ってしまった音』




どうぞ、お楽しみください




予約投稿2025/1/12 16:00

朝とも昼ともつかない光が、家々の屋根をなぞり、

石畳の隙間に落ちている影を、曖昧に溶かしている。


風はない。

それなのに、空気は微かに動いていた。


誰も歩いていない道。

誰も座っていない縁側。

閉じられた障子の向こうにも、人の気配はない。


それでも町は、確かに“起きて”いた。


音がない。

虫の声も、鳥の羽音も、遠くの話し声も。

町が生きている証みたいなものが、すべて削ぎ落とされている。


代わりに残っているのは、

――待っている、という感覚だけだった。


待っている、と言っても、

何かを望んでいるわけではない。


期待でも、祈りでもない。


ただ、起きるべきことが、

まだ起ききっていない。


その“途中”に、町全体が置き去りにされている。


動く準備は、もう整っている。

けれど、踏み出すきっかけだけが、足りない。


だから町は、静かだった。


息を潜めるような静けさではない。

耳を澄ませるための、静けさだった。


古い家の軒先に、風鈴が吊るされている。


昨日までは、なかったはずのもの。

あるいは、見えていなかっただけのもの。


小さく、色の褪せた硝子。

紐は少し擦り切れていて、長い時間を耐えてきたことが分かる。


風は、吹かない。


それでも。


――チリン。


はっきりと、音が鳴った。


町のどこかではない。

誰かの耳元でもない。


町そのものが、鳴らした音だった。


音は広がらない。

反響もしない。

余韻だけが、静かに残る。


その余韻は、

空気を震わせるものではなかった。


記憶の奥に、

そっと指を差し入れるような感触。


気づいた者だけが、

「今、何かが変わった」と理解する。


理解してしまった時点で、

もう、変化の外側には戻れない。


それは、呼びかけではない。

警告でもない。


ただの――確認だった。


思い出されつつあるものが、

まだ、ここに在るということ。


古い井戸の水面が、わずかに揺れる。

誰も覗いていないのに。


祠の前の石段に、月の名残のような光が落ちる。

昼のはずなのに。


空き地だった場所には、何もない。

けれど、何かが“失われた跡”だけが、残っている。


そこには、確かに“あった”。


名前も、用途も、

正確には思い出せない何かが。


思い出せない、ということ自体が、

失われた証拠だった。


忘れられたのではない。

思い出される前に、削られただけだ。


町は、保たれている。


だが、それは安定ではない。


何かが、まだこの町を留めている。

見えない枠組みが、かろうじて形を保っていた。


それでも、音が鳴った。


――鳴ってしまった。


思い出は、ひとりの中だけに留まるものじゃない。

いったん外に触れてしまえば、元の場所には戻らない。


町は知っている。


この町は、

人よりもずっと長く、

思い出と付き合ってきた。


思い出が町を形作り、

町が思い出を閉じ込める。


その循環が、

今、歪み始めていることも。


次に音が鳴るとき、

それは“始まり”ではなく、“進行”になるということを。


そして、もう一度鳴ったなら――

今度こそ、戻れない。


風鈴は揺れない。

紐も、硝子も、動かない。


ただ、確かにそこに在って、

まだ鳴っていない音を抱えたまま。


誰かが、思い出しきってしまう――

その瞬間を。

この場面、少しわかりにくい。


ここ、少し変じゃない?


ってところありましたら、ぜひ、コメントお願いいたします。


いいなと思ったら☆評価もいただけたら幸いです。


モチベがぐぐっと上がるので



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