第14章 場所を持たない音
第二幕
【少女と歩む過去の足音】
第14章
『場所を持たない音』
どうぞ、お楽しみください
予約投稿2026/1/10 16:00
夕暮れは、いつの間にか町に染み込んでいた。
昼と夜の境目が曖昧なこの町では、
空の色が変わることだけが、時間の合図になる。
縁側に腰を下ろすと、木の板が小さく鳴った。
それだけで、今日が確かに積み重なっていることが分かる。
ゆうとは、膝の上で指を組み直した。
何かを考えていたわけじゃない。
ただ、考えないといけないことが、
もう近くまで来ている気がしていた。
風はない。
庭の草も動かない。
それなのに――
ーーーチリン……。
確かに、音がした。
耳元ではない。
町のどこか、でもない。
「……今の」
声に出した瞬間、音は消えた。
最初から鳴っていなかったかのように。
縁側の端に、影が揺れる。
そこに、おとはが立っていた。
「聞こえた?」
問いかけると、彼女は少し考えるようにしてから、首を振る。
「ううん」
即答ではなかった。
でも、迷い切った否定でもない。
「……最近、そういうこと増えてるね」
そう言って、隣に座る。
二人の間に、指一本分の隙間。
近いのに、触れられない距離。
「町の音じゃないんだと思う」
ゆうとが言うと、おとはは視線を落とした。
「うん」
否定しない。
「でも、完全にゆうとの音でもない」
「じゃあ、何なんだよ」
問いは、少しだけ強くなった。
おとはは、しばらく黙っていた。
夕暮れの色が、彼女の輪郭を溶かしていく。
「……間の音」
「間?」
「思い出と、今のあいだ」
言葉を探すように、ゆっくり続ける。
「まだ形になってないけど、
もう、戻れなくなってる音」
それは、答えになっていないはずなのに、
不思議と胸の奥に収まった。
沈黙が落ちる。
町は、相変わらず静かだ。
誰かの生活音も、遠くの声もない。
それでも、
「何も起きていない」とは、言えなかった。
「……なあ」
ゆうとは、空を見上げたまま言う。
「俺、ここに来る前のこと、
全部思い出さなくてもいい気がしてきた」
おとはが、ゆっくり顔を上げる。
「どうして?」
「思い出したら、
たぶん、今のままじゃいられない」
視線が、交わる。
「それって、怖い?」
「怖いよ」
即答だった。
「でも」
言葉を継ぐ。
「怖いからって、止まれる感じでもない」
おとはは、小さく息を吐いた。
「……ゆうとらしいね」
「そうか?」
「うん」
ほんの少し、笑う。
その表情は、安心と寂しさが、
同じ比率で混ざっていた。
ーーーチリン……。
今度は、二人とも、はっきりと感じた。
音は鳴った。
けれど、どこからかは分からない。
「……今のは」
「聞こえた」
おとはが、珍しく即答する。
「外じゃない」
「内?」
「うん。でも、独り占めできる音でもない」
夕暮れが、夜に傾き始める。
町は、何も言わない。
けれど、確実に次の段階へ向かっている。
ゆうとは、風鈴のない空を見つめた。
鳴らないはずの音が、
これからも消えずにいることを、なぜか知っていた。
それは、別れの合図ではない。
けれど、始まりとも言い切れない。
――境目に立つための、音。
この場面、少しわかりにくい。
ここ、少し変じゃない?
ってところありましたら、ぜひ、コメントお願いいたします。
いいなと思ったら☆評価もいただけたら幸いです。
モチベがぐぐっと上がるので




