表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あの日聞こえた風鈴  作者: なとせ
第二幕 少女と歩む過去の足音
11/15

第4章 記憶の縁と、重なる音

第二幕


【少女と歩む過去の足音】


第4章


『記憶の縁と、重なる音』


どうぞ、お楽しみください


予約投稿2025/8/4 19:00

ーーーチリン……。


午後の光が斜めに差し込み、風鈴がふたたび、静かに音を鳴らした。


歩き疲れた私たちは、小さな公園のベンチでひと休みしていた。

近くには誰もいない。

聞こえるのは、蝉の声と遠くで流れる水の音だけ。

そして、時おり風に乗って届く、

どこかの家の軒先の風鈴の音。


「……風が、ちょっと出てきたね」


おとはがそう言いながら、髪を押さえて微笑んだ。


「うん。夕方が近いのかもな」


私はその笑顔を見ながら、胸の奥にひとつの問いが浮かぶ。


それは、ここに来てからずっと抱えていたもの。


「なあ、おとは」


「ん?」


「おとはは……自分のこと、覚えてる?」


おとはは、少し驚いたように私を見つめた。


けれど、すぐに目を伏せて、小さく笑う。


「……覚えてるよ。ちゃんと、自分の名前も、生まれた場所も」


「そっか……」


「でも、全部が全部ってわけじゃないよ。

 わたしにも、思い出せない時間があるの。……急に、すうっと消えちゃったみたいに」


私はその言葉に、息をのんだ。


「もしかして、それって……この町に来る前?」


おとはは頷いた。


「うん。わたしがここにいるのは、その“消えた時間”を探してるから、なのかも」


「……同じだ」


ぽつりと、言葉がこぼれた。


「俺も、何かを思い出したくて、ここに来たんだと思う。でも、それが何か、まだ全然わからなくて……」


「でもね、ゆうと」


おとはがそっと私の手の甲に、自分の指先を重ねた。


「思い出すことだけが、ここにいる理由じゃないと思うの」


「……どういうこと?」


「たとえば……こうやって、誰かと一緒に歩いてること。

 それだって、ちゃんと今を生きてるってことじゃない?」


その言葉は、まるで夏の午後の光のようにやわらかく、私の胸に降りてきた。


「……そっか」


私はうなずいた。

心が、少しだけ軽くなった気がした。


* * *


そのあと、私たちは再び歩き出した。

日が傾きかけた町を抜け、ゆるやかな坂をのぼると、小さな神社の裏手に出た。


「ここ、裏から入るとこんな道なんだな」


「うん。昔はね、裏参道って呼ばれてたんだって」


おとはが、石段を登りながら言った。


「そういえば……」


私は思い出したように口を開いた。


「昨日、最初にここに来たとき。

 なんでだか急に、胸が痛くなったんだ。……何もしてないのに」


「うん。覚えてる」


おとはは立ち止まり、振り返る。


「ゆうとの顔、すごく真剣だった」


「……あのときも、何かを思い出しかけたのかもしれない」


「じゃあ、今日はもう少し、近づけるかもね」


そう言って、おとはは本殿の脇にある古びた絵馬掛けの前に立った。


風が吹き、風鈴がひとつ、やさしく鳴る。


私はその音に背を押されるようにして、絵馬のひとつに手を伸ばした。

そこに書かれていた文字は、もうすっかり薄れていて読めなかった。


「……何が書かれてたんだろうな」


「願い事、だったのかも。……もしかしたら、ゆうとの字だったりして」


「それは、さすがに……」


言いながら笑うけれど、どこか胸がざわめいた。


私は静かに目を閉じた。


その瞬間、風がすこしだけ強く吹いた気がした。

そして、どこか遠くで、誰かが私の名前を呼ぶような、そんな気配が――。


「……ゆうと?」


おとはの声がして、私は目を開けた。


「ごめん、ちょっと……ふらっとしただけ」


「大丈夫?」


「ああ、うん」


本当は、なにかを見た気がした。

でもそれが何かは、うまく言葉にできなかった。


けれど――今の風の音と風鈴の響きは、

たしかに記憶のどこかに触れた。


そんな気がしてならなかった。


「……また来よう。この場所に」


「うん。そうしよう」


私たちは、もう一度風鈴の音に耳を傾けてから、神社をあとにした。


その帰り道、夕暮れのなかで――

おとはがそっと私の袖を、ほんのすこしだけ、つまんでいた。


気づいていないふりをしながら、私はそのまま歩いた。


そして風鈴が、今日最後の音を鳴らす。


ーーーチリン……。


その音が、少しずつつながり始めた記憶の糸を、そっと結ぶように聞こえた。

この場面、少しわかりにくい。


ここ、少し変じゃない?


ってところありましたら、ぜひ、コメントお願いいたします。


いいなと思ったら☆評価もいただけたら幸いです。


モチベがぐぐっと上がるので



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ