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あの日聞こえた風鈴  作者: なとせ
第二幕 少女と歩む過去の足音
10/15

第3章 さざめく音と、胸に満ちゆく夏の気配

第二幕


【少女と歩む過去の足音】


第3章


『さざめく音と、胸に満ちゆく夏の気配』


どうぞ、お楽しみください


予約投稿2025/8/3 19:00

ーーーチリン……。


夕暮れの風が、風鈴をそっと揺らした。

ひととき止まったかのように思えた町の空気が、ふたたび流れ出すような音だった。


石畳の路地を並んで歩きながら、私はその音に耳を傾けていた。

西の空は茜色に染まり、家々の影が長く伸びている。


「……なんだか、今日はいろんなことがあった気がするね」


おとはがぽつりと呟いた。

私は頷きながら、ふと空を見上げる。


「うん。でも、不思議と疲れてないんだ」


「それはきっと、ゆうとがたくさん思い出に近づいたからだよ」


「……近づけてるのかな」


「うん。ちゃんと、進んでる」


おとはのその言葉には、さりげないやさしさがあった。

私の歩幅に合わせるように、おとははいつも半歩だけ前を歩いている。


今日もまた、そうだった。


気づけば、行き先も決めずに歩き続けていた道が、

元の町並みに戻ってきていた。

錆びた公園のすべり台、

ひび割れたブロック塀の向こうに咲くひまわり、

そして、小さな用水路をまたぐ石橋。


「ねえ、おとは」


「なに?」


「……この町って、たしかに現実のどこかにあるんだよね?」


おとはは、少しだけ立ち止まって笑った。


「ふふ。……たぶん、あるよ。でもね、誰にでも見えるわけじゃないの」


「え?」


「たとえば、心のどこかで“思い出したい”って願ってる人とか……

 “忘れたくなかったもの”を、ちゃんと抱えてる人とか。

 そういう人だけが、きっとこの町にたどり着けるんだと思う」


私は、何も言えなくなった。


その言葉が、まるで自分の中にある何かを見透かされたように思えたからだ。


「……じゃあ、俺は。思い出したくて、ここに来たのかな」


「そうかもしれないね」


おとはは、どこか寂しげな微笑を浮かべた。


「……でもね、きっとそれだけじゃない。ゆうとには、この町で見つけてもらいたいものがあるの」


「それって……」


「……ふふっーーそれは、まだ秘密」


おとははそう言って、ふわりと歩き出した。


私は慌ててそのあとを追いながら、気づけば彼女の背中をずっと見つめていた。


やがて、小さな坂道に差しかかる。

帰り道にしては、少し遠回りだった。


「この道、初めて通るね」


「うん。……でも、夕暮れの時間はね、こういう静かな道のほうがいいの」


坂の途中、ふとおとはが足を止めた。


そして、指先を伸ばし、電柱の陰にかかっていた風鈴をそっと押した。


ーーーチリン……


「この音、さっきのと似てる」


「うん。……似てるけど、ちょっとだけ違う」


「違う?」


「ほら、響き方が。こっちは、ちょっとやわらかい」


言われてみれば、たしかに。

音の余韻が、どこかまろやかで、少しだけ寂しげでもある。


「風鈴って、不思議だよね。同じ形に見えても、鳴らす人や風の強さで、響きが変わる」


「……そうだね」


私は風鈴を見上げながら、また心のどこかが、少しだけ揺れた気がした。


「きっと、町の音も、そうなんだよ」


おとははそっと言った。


「歩く人が違えば、響く音も違う。だから、同じ場所を歩いても、感じ方は人それぞれ……」


彼女の言葉は、風のようにやわらかく、そして深く染み込んでくる。


私は胸の奥で、その響きを確かに覚えた。


そして、ゆっくりと、また歩き出す。

二人の影が、だんだん長くなっていくのを感じながら。


やがて、ふたりの背中に町の灯りがぽつりと灯り始めた。


空には星がまだ遠く、けれどその余白には、

今日という一日が静かに折り重なっていた。


ーーーチリン……


その音が、今日という夏の記憶をそっと閉じ込めるように、やさしく揺れていた。

この場面、少しわかりにくい。


ここ、少し変じゃない?


ってところありましたら、ぜひ、コメントお願いいたします。


いいなと思ったら☆評価もいただけたら幸いです。


モチベがぐぐっと上がるので



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