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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ヒロインが猫だった件について〜悪役令嬢と元飼い猫の恋は王太子に邪魔されてます〜


 目が覚めた瞬間、「やば」と声が出た。

 なにここ、シャンデリアきらっきらだし、ベッドふっかふかすぎるし。ってかレースの天蓋とか、ガチでお姫様じゃん。夢? まさかの異世界系??


 「……ウケる。いや、ウケてる場合じゃないか」


 私――**美波みなみ**は、都内の高校に通うごく普通(?)のギャル。髪はゆる巻き、メイクばっちり、JKライフ満喫中。恋バナよりネコ動画派。

 でもそんな私が、まさかこんなテンプレみたいな異世界にぶち込まれるなんて、思ってもなかった。


 体を起こした瞬間、視界に入ったのは見慣れないドレスの袖と、やたらと白くて細い手。

 ふと鏡に目を向ければ、そこには――金髪巻き髪、青い目、お高くとまった顔立ちのお嬢様が立っていた。


 「……うわ、これ、クラリスじゃん」


 知ってる。これは私がガチでやりこんだ乙女ゲーム『ロゼと運命の輪』の悪役令嬢、クラリス・フォン・レーヴェンシュタイン。全ルートに出てきて、ヒロインの邪魔して、最後は断罪されるヤツ。


 「うっそ、私、クラリスに転生したの……?」


 ふと、記憶がぶわっとよみがえる。


 ――ニャーニャ。

 白黒のハチワレ猫。私のいっちばん大事な家族。


 あの日、ベランダの手すりに登っちゃって、下を見て震えてたニャーニャを助けようとした私。手を伸ばして、バランス崩して――


 ……落ちた。


 「ニャーニャ……」


 呟いたけど、返事はない。

 あの子は、きっと、私と一緒には来てない。


 


 そう思いながら、私はクラリスとしての生活を始めた。

 王立魔法学院――いわゆる乙女ゲームの舞台。やば、マジで世界観ガチだし。


 そして、彼女に出会った。


 ヒロイン。ミルフィーナ・サンドラル。


 銀髪で、笑うとぱっと花が咲いたみたいで、誰にでもフレンドリー。

 ふわふわしてて、なんかこう……ニャーニャみが強い。


 「似てる……けど、まさかね。そんなわけないし」


 そう自分に言い聞かせる。だって、人間だし。喋ってるし。

 それでも、彼女が困ってると、つい声かけちゃうのはクセみたいなもんで。


 気づいてないふりをしてた。

 本当は、心のどこかで願ってたのかもしれない。


ーーーーーーーーーーー


初登校。……って言っても制服じゃなくて、フリフリのドレスで、靴もヒールだし、マジ歩きにくいんだけど。


 王立魔法学院って、思ってたより全然ガチ。校舎はお城だし、授業も魔法理論とか歴史とか、漢字のテストの方がマシってくらいムズいし。


 しかも、クラリスは貴族のトップ層のひとりで、王太子セシルの婚約者ってポジ。つまり、原作的には**「敵キャラ」確定**。ちょっとでも動き間違えたら断罪エンドまっしぐら。


 「……詰んでない?これ」


 そんな私が、今日初めて話しかけられたのが――ミルフィーナだった。


 


 「クラリスさまっ、あのっ、えっと……これ、落とされました……!」


 小さな手が、ハンカチを差し出してくる。

 顔を上げたその瞬間、あまりの“ニャーニャ感”に私は固まった。


 銀色のふわふわの髪、ぱっちりした目、声もちょっと高めで、話し方がどこか甘えたような、ゆるい感じ。


 しかも、至近距離でじーっと見つめてくる。……あのときと同じ、私がごはん忘れてたときの、あの顔。


 「え、あ、ありがと……う。どこかで会ったっけ?」


 「いえ、初めてです。でも、なんだか……お会いしたことある気がして……その……」


 「……っ!」


 その言い方。

 なんかこう、胸の奥がギュッとなった。


 いやいやいや、落ち着け。そんなはずない。猫が人間になってるとか、メルヘンすぎるし、マンガでも難易度S級。


 「そっか。……ありがと。ハンカチ」


 「あっ、はいっ!」


 にこっと笑って、しっぽが見えそうなくらい喜んで。

 その笑顔が、ほんっと、ニャーニャにそっくりで。


 ……いや、だからって、まさかね?


 


 でもその日から、私は彼女のことが気になって仕方なくなった。


 授業中にこっそり教科書を覗いてきたり、パンくず落として鳩と戯れてたり、人のひざの上でうっかり寝そうになったり。


 天然で、やばくて、でも――かわいくて。


 気づいたら、困ってるとすぐ助けに行ってるし。

 クラリスのキャラとか、悪役とか、正直どうでもよくなってきた。


 あの子が笑っててくれたら、それでいいって思っちゃうの、なんなん。


 


 ――でも私はまだ、知らなかった。

 その子が、本当に“あの子”だってことを。

ーーーーーーーーーーーーーーー

「クラリス。調子はどうだ?」


 そう言って、私の前に現れたのは、王太子――セシル・グラヴィア。

 イケメン度、ステータスMAX。金髪碧眼、モデル体型、完璧すぎるスマイル。


 原作の“攻略対象No.1”であり、乙女ゲームの真ルートを司る、最重要人物。


 そして、原作では私=クラリスの断罪イベのトリガー。


 ……つまるところ、一番ヤバいやつ。


 「……おかげさまで、学院生活には慣れつつありますわ」


 一応、お嬢様風の口調で返すけど、内心はめっちゃビビってる。

 ってかこの人、見た目は神、性格は腹黒サタンだからね。クラリスがちょっとでも気に入らない行動したら、すーぐ断罪シナリオ突入。


 「そうか。それはよかった。最近、学院で可愛らしい生徒を見かけると評判でね。……ミルフィーナ・サンドラル。知っているか?」


 ピクリ。


 知ってる。てか、毎日見てる。てか、超見てる。


 「もちろんですわ。彼女は……少し風変わりなところがありますが、憎めない子ですの」


 「ふふ、君らしくない。もっと辛辣な評価が返ってくるかと思ったよ」


 ……うっざ。


 内心、舌打ちしそうになるのを我慢して微笑む。

 この人、ぜったいクラリスがミルのこと気に入ってるって気づいてる。で、そこをつついてくる感じ、ガチで性格わっるい。


 


 昼休み、ミルがパンくわえて走ってきた。


 「クラリスさまーっ! いっしょに食べませんかっ!」


 「あんた、また走って……転ぶよ?」


 「だって、はやく会いたかったんですもん!」


 ――うそでしょこの子、どこまでピュアなん?


 ああもう、かわいい。

 でも、ちょっと後ろから見てる男がいるのが気になる。


 


 ちらっと見ると、案の定――セシルがミルを見てた。


 優しげな顔。でも、その瞳の奥はぜんぜん笑ってない。

 あれは“欲しい”ものを見つけたときの目。まるで、手に入れるまでじわじわ追い詰めてくるみたいな。


 「……やめとけって」


 思わずつぶやいたその言葉は、自分に向けてでもあった。


 ――だって、これ、ゲームのルートなんかじゃない。

 私にとっては、世界でいちばん大事だった子にそっくりなヒロインとの、大事な今なんだから。


ーーーーーーーーーーーーー


放課後、魔法演習の授業が終わったあと。


 「……ふー、疲れた〜……」


 ぐったりしてた私の制服(じゃなくて貴族の制服ドレス)に、いきなりミルが顔を突っ込んできた。


 「え、ちょ、近い。ミル?」


 「クラリスさま、今日の香水、ちょっと変えました? なんか、すごく安心する匂い……」


 「いや、普通のラベンダーだけど……あんた、鼻よすぎじゃない?」


 甘えるようにスリスリしてくるその動きが、もう完全にアレ。

 ニャーニャが私のパーカーに顔突っ込んでた時とまったく一緒。


 ――ってか、なにこれ、デジャヴ??


 


 しかも、その後。


 昼休みに持ってきたランチを一緒に食べようとしたら――


 「ミル、そっちの白身魚もらっていい?」


 「だ、だめですっ、それは……特別なやつです……っ」


 「……え、そんなに?」


 「はい……ミル、白身魚は……なんていうか、好きというか……落ち着くというか……」


 言ってから「はっ」として、頬を染めるミル。

 いやいやいや、魚好きすぎん?? 完全に“あの子”やん。


 


 極めつけは、読書中のミル。


 図書室の窓際で、日だまりに包まれてすやすや寝てるんだけど……なぜか、私のひざの上で。


 「……ちょ、なんでそこ選んだの」


 「だって、クラリスさまのところが、いちばん落ち着くんですもん……」


 そのまま、ごろーんと丸まって、おなかまで見せてくる始末。

 無防備すぎるし、その寝相、完全にニャーニャ。


 


 「……いやいや、ないないない。人間だし、喋ってるし、まさかって」


 って、何回言い聞かせたら気が済むの私。


 でも、もしかしたら。

 本当に、ありえないけど――そうだったら。


 そのとき、ちょうど通りかかったセシル王太子が、ミルの寝顔を見て微笑んだ。


 でも、その目は――冷たい獣の目をしてた。


 


 「ミルフィーナ嬢、学院の中でも特に注目されているようだね」


 「……はあ、そうですか」


 「君の隣にいると、彼女が輝くように見える。クラリス、君はいい引き立て役だ」


 ――あっ、これ、本性見えた。


 断罪ルートの前兆。王太子の“悪役令嬢化計画”、始まったっぽい。


 


 「……私、そんな役まわりのつもりないんで」


 「そうか? でも物語は、そう簡単に変えられないよ」


 


 ああ、ほんっと、やな予感しかない。


 でも――ミルは今、幸せそうに私のひざの上で寝てる。


 その寝顔を見てたら、私、誓うしかなかった。


 こんなやつに、この子は渡さないって。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


 夕暮れの学園庭園。


 日が傾きはじめた中、私はミルを探して歩いてた。

 さっきの魔法演習でちょっとケガしたって言ってたのに、「大丈夫です」って笑って、どっか行っちゃって。


 あの子、強がりすぎなんだよね。前からそう。


 ……前って、いつの話?


 そんなの、言うまでもないじゃん。


 


 あの、白黒のふわふわの毛。小さい足音。夜中にベッドに忍び込んできて、ゴロゴロ鳴らしてた。

 朝起きたら、お腹の上に乗っかって寝てたあの感覚。


 私の――ニャーニャ。


 


 「クラリスさま……こっちです……!」


 ミルの声がして、見ればベンチに座っていた彼女が、私を見上げて微笑んでいた。


 「もう、心配したんだけど。傷、ちゃんと見せて?」


 「……あの、今日、お話ししたいことがあって……でも、ちゃんと話すの、ちょっと、こわくて……」


 「……ん?」


 ミルが、おそるおそる私の手を取って、そっと膝の上に置いた。


 「クラリスさまの手、やっぱりあったかい。前と同じ……」


 「え、まえ……?」


 「ねぇ、美波ちゃん――」


 その瞬間、時が止まった気がした。


 


 「えっ、ちょ、なんでその名前知って――」


 「わたし、ニャーニャだよ」


 


 頭が真っ白になる。心臓が、ドクンって、飛び跳ねる。


 「……ウソ。だって、あんた、人間だし、喋ってるし……」


 「でも、ベランダで落ちたとき、いっしょだった。だから……きっと、来られたんだと思う」


 「うそ……まじで……ニャーニャ……なの……?」


 「うん。あのとき、美波ちゃんが、必死に手を伸ばしてくれたこと、ちゃんと覚えてる。こわかったけど、うれしかったよ」


 


 涙が勝手にあふれて、止まらなかった。


 だって、もう会えないと思ってたのに。

 毎日、違うふりしてたのに。

 本当は、ずっと、ずっと、気づいてたのに。


 「バカじゃん、私……ずっと一緒にいたのに、気づかないとか……」


 「ふふ……でも、またこうして、なでてもらえて、幸せ」


 「うわ、やば……ほんと、ニャーニャだわ……」


 ミルの髪を、そっとなでる。あのときの毛並みとは違うけど、安心する温度は同じだった。


 


 そして、私は気づく。


 この子はもう、ただの“飼い猫”じゃない。

 私は、今、ひとりの女の子に、恋してる。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


その日、学院の講堂に全生徒が集められた。

 空気は妙に張り詰めてて、みんなの視線が一カ所に集まってる。


 そこには、王太子セシル。そして、そのすぐ隣には――私。


 「クラリス・フォン・レーヴェンシュタイン。君にはこの場で、正式に問いたださねばならない」


 ……あー、きたわ。断罪イベント。


 乙女ゲーム『ロゼと運命の輪』、クラリスルートの定番シナリオ。

 ヒロインに嫉妬して、陰湿な嫌がらせを重ねた末、公開処刑のように糾弾されるってやつ。


 もちろん私はやってないし、むしろミルの味方し続けてきたんだけど――セシルはそうはさせてくれないらしい。


 


 「ミルフィーナ嬢に対する度重なる誹謗中傷、魔法実習での事故、書庫の破損、そして今朝方の盗難事件。すべて、君の関与が疑われている」


 「……証拠は?」


 「証言がある。複数の生徒が、君が現場付近にいたと主張している」


 それ、たぶん買収されたか誘導されたかのどっちかでしょ。

 王太子の口からそんなセリフが出てくるとか、ゲームでも見たけど、現実でやられるとマジでムカつく。


 周囲の視線がじわじわと痛くなってくる。誰も助けてくれない。

 ……いや、ひとりだけいた。


 


 「それ、ぜんぶ……違いますっ!!」


 講堂に響き渡った、ミルの声。


 「クラリスさまは、私に優しくしてくれました。いじめなんて一度もない。困ったときはいつも助けてくれて……そんな人が、私を傷つけるはずないんです!」


 会場がざわつく。

 ミルの言葉は、誰よりも純粋で、まっすぐだった。


 


 「おや、ミルフィーナ嬢。君は彼女をかばっているつもりかもしれないが、感情に流されるのは良くないよ」


 セシルが、いつものやさしい仮面のまま冷たく言い放つ。


 「それでも……私は、信じてます」


 「……へえ。なら、君は彼女の味方だというのか?」


 「はい。ずっと、ずっと前から」


 


 ああもう、泣くわこんなん。


 その目は、本物だった。

 あのときも、今も、これからも――私のニャーニャは、ずっと私の味方でいてくれる。


 


 「……もう、いい加減にしてくれない?」


 私は一歩、セシルの前に出た。


 「私が何をしたって言うの? 王太子って肩書きで、言ったもん勝ちしようとしてるだけじゃん。人のこと引きずり下ろして、自分が正しいふりして……。マジで、最低」


 「君は、自ら罪を認めるのか?」


 「違うって言ってんでしょ。……証拠もないのに断罪とか、何様なの? 王子ってだけで好き勝手して、もううんざり」


 


 観客席から、少しずつざわめきが広がる。

 「おかしいよな……」「クラリスさま、普通に優しかったぞ……」と、声が上がり始める。


 


 「……ミル、行こ。こんな茶番、付き合ってらんないし」


 「……うん!」


 ミルの手を取って、私はその場をあとにした。


 


 ――でも、これで終わりじゃない。


 セシルの裏の顔、全部暴いてやる。

 今度こそ、ざまぁされるのはそっちだからな、王子。

ーーーーーーーーーーーーー


 セシル王子がやらかしてた全部、バッチリ暴かれて、マジで今めっちゃ平和。

 いやほんと、悪役令嬢転生とか、こっちがざまぁしてやる側になるとか、想像してなかったんだけど?


 「……クラリスさま、じゃなくて、美波ちゃん」


 「なに?」


 「わたし、この世界で……ずっと、美波ちゃんのそばにいたい」


 その声、いつものミルの声なんだけど――ちょっとだけ、いつもより真剣で。


 「もう猫じゃないけど、ちゃんと、自分の気持ちで、あなたのことが好きって言えるから」


 うわ、かわいすぎか。


 ふと、手を取られて、ぎゅってされた。


 「ねぇ、美波ちゃんは? この世界にいたい? それとも……」


 「いるし。もう決まってるし。てか、選択肢それしかなくない?」


 「……えっ?」


 「ニャーニャがいて、私のこと見ててくれて、私もそれが嬉しくて、守りたくて。

  もうそれ、恋じゃん? って思ったから」


 ミルが目ぱちぱちさせて、それから――ふにゃって、笑った。


 「うぅ〜……うれしすぎて、ゴロゴロ言いそう……!」


 「もう猫やないで、ゴロゴロはやめなさい。マジで」


 


 でもね、そう言いながら、私の中でなにかがふわってほどけた気がした。


 ギャルの人生、まさか猫と一緒に異世界転生とか、やばすぎでしょ?

 でも今――めっちゃしあわせなんだけど。


 


 「ミル」


 「なあに?」


 「世界一かわいい彼女って、ずるいんだけど。覚悟してよね?」


 「ふふっ、美波ちゃんこそ♡」


 


 手と手をつないで歩く、異世界の帰り道。

 制服もプリクラもないけど、あんたがいれば、それでいーじゃん。


 


 “ヒロインが猫だった件”――

 それってつまり、私の恋、最初から運命だったってコト♡


 


 *** THE☆END ***


飼ってる猫と異世界転生したい!って書き始めたら、気付いたら百合展開になっていました。。。

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