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第九話 清算

証拠を掴み翌日、俺は無実を証明するため三井を屋上に呼び出した。





放課後の静けさの中、風がシャツの裾を揺らしていた。



「で、話って何? またあんたキモイことするつもり?」


「話は簡単さ、あの話だよ、それだけで分かるだろ?」


「ええ、てか何被害者ぶって口答えしてるの笑 あんな事しといでおいて、さっさと自主退学しなさいよ!」


いくらこいつにムカついていてもやっぱりあの事があるからこそ怖い、イジメを受けた側は一生の傷になるというのはこのことか、


頑張って声を絞り出す。


「お前がやったんだろ、三井」


俺は、スマホの画面を突きつけた。そこには三井が先輩と俺をはめるやりとりや証拠の動画を見せた。



「なんで、あんたがそれを、」




三井は舌打ちをして、不敵に笑った。そして、ポケットから一枚の写真を取り出す。


「でもさぁ、こんなもんがあったら、お前の言葉の信憑性も下がるんじゃね?」



その写真は俺が三井の下着を手にしているものだった。


やられた、こんなもの俺がやった記憶がない完全作り物だが、これを証明できる証拠がない、



「これ、いつの間に……!」



顔が引きつる。完全なる証拠を持っていたはずの俺が、今は追い詰められている。そんな状況だった。



三井は余裕の表情で笑う。



その時だった。

「……それ、三年の金剛先輩が作ったものでしょ、」


屋上のドアが開き、風に乗って現れたのは――如月そして、その後ろにもうひとり、見慣れない男が立っていた。


「証拠なら、こっちにもあるよ」

謎の男――石垣真斗(いしがき まさと)は、冷静な声でそう言うと、タブレットを差し出した。


画面には、写真の加工履歴。メタデータには三井の自宅Wi-Fi名が記録され、編集ソフトのログまでもが克明に残されていた。


「この写真、完全なフェイク。しかも、作成者はお前だ――三井」


「なっ……」


「君のパソコンから抽出したファイルもある。……それと、」


石垣は淡々と、しかし冷酷なまでに論理的に、三井の嘘を暴いていった。



「……誰なんだよ、お前……!」



「俺? 颯の知り合い……というより、如月に頼まれてな」



「てか、如月?あんたなんで裏切ってんのよ!私達友達でしょ!ぶさけんじゃないわよ!」




真斗は少し笑ってみせると、俺のほうを見た。


「これで借りは返したよ。……あとは自分でケリをつけろ、颯」



??、颯はその男のことは知らなかったがとにかく証拠のピースは揃った。


――形勢は、完全に逆転した。


俺は一歩、三井ににじり寄った。


「お前は終わりだ、」


俺は今すぐにでも罵倒や殴りたい気持ちはあったものもあんな奴にはなりたくないと思い堪えた。










次の日、全校集会が開かれ、俺の無実が完全に証明された。


三井はというと、あれから必死に友達や石井に弁明をしていたが、誰にも信じてもらえず、今度は彼女自身がいじめの標的となっていた。そして、いつからか学校から三井の姿は消えていた。


とりあえず、“平穏”とは言えないまでも、最低限の日常は戻ってきた――けれど、俺にはまだやるべきことが山ほどある。







――話は、あの日の集会に戻る。


「尚、写真は偽造であることが判明しました」


「……え、うそ……でしょ……?」



生徒たちの間にどよめきが走る。驚きや安堵、そして動揺。そんな中、ひとりだけ、明らかに顔面蒼白で崩れ落ちそうな少女がいた。



近藤雫。



「でも……たしかに、見たのに……。あれ、偽造なの……?


 うそ……うそだ……うそだ……!


 だとしたら、あの日私は――


 何もしてない颯に、あんなことを……!」


うっ、と喉を押さえてうずくまり、その場にしゃがみ込む。あの日の記憶が鮮明に蘇るたび、雫は吐き気を催し、ついには友達に付き添われて保健室へと運ばれていった。






目を覚ましたとき、そこには颯がいた。



「颯……なんで、ここに……?」


「近藤が倒れたって聞いたから。それと……話したいことがあって」



「……そう、なんだ。あの……ごめんなさい! あのことが嘘だったなんて、私、知らなくて……最初は信じてなかったんだよ、颯がそんなことするなんて。でも、直接三井さんに聞いたら、あの写真を見せられて……。あの時は加工されてるなんて思わなくて……。で、あの日の放課後……颯が悪いことしたって思ったし、それをさせた私にも責任があるって思ったから……だから叩かれて、おあいこ、みたいにしたくて……悪気があったわけじゃ――」


「もういいよ」


俺は静かに、でもはっきりと言葉を挟んだ。



「怒ってるわけじゃない。でも……話したいことってのは、そのことなんだ。――これからは、もう俺に関わらないでくれ」



「え……うそ……だよね?」


雫の声が震える。けれど、俺はうなずきもしなかった。


「嘘って言ってよ!」




「俺は昔、雫に憧れてた。何度もいじめられて、それでも雫が俺を守ってくれた。ヒーローみたいで、かっこよくて……でも、年を重ねるにつれて、男子が女子に守られるのは“変”だって思うようになったんだ。だから、今度は俺が雫を守りたいって思った。でも、雫はそれを拒んだ。俺に守られるのが嫌なんだって、そう思った。そして、自信もなくなった」


少し、間を置いてから言葉を続ける。


「でも――ある人に出会って、俺は変われた。自信もついたし、ここまで強くなれた。だから、もう過去に縛られたくないんだ。これは俺にとっての“清算”なんだ。……だからもう、俺に関わらないでくれ」



「そ、そんな……やだよ! お願い、あのことのせいで怒ってるんでしょ? 謝るから! 縁を切るとか、やめてよ! ……私、颯のこと、好きなんだよ?」



「怒ってるわけじゃないよ。……でも、“今さら好き”とか、冗談やめてくれないか」



俺は、軽蔑のまなざしで雫を見た。



「なんで……なんでよ……! 昔は私に憧れてたんでしょ!? なら、いいじゃない! 別に――」


「ごめん、もう行くよ」



「待って! お願い、颯! 置いていかないでよ

っ!」


――どこで選択を間違えたのか。


いいや、私はきっと、最初からずっと間違ってばかりだった。


後悔してからじゃ、遅いんだ。


どれだけ泣いても、颯が流してきた涙の痛みに比べれば、それはきっと、ほんのわずかだ。


 


「……あの日の放課後に戻りたい。……いいや、颯と出会った、あの日から……やり直したい」





















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