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第四話 初デート


ここは、市内でも“最も何でも揃う”と評判の大型ショッピングモール。


ファッションからフード、雑貨、ゲームセンターまで揃ったこの場所は今の自分に最適だ。



「まずは髪型ね!」



如月が指をピンと立てながら言う。



「せっかく輪郭もシュッとしてて整ってるのに、その髪の長さじゃ“誰?”って感じで損してる。ちゃんと予約してるから、美容室に行きましょう!」



「……髪は、如月の好みでいいのか?」



「うん! 全部任せて! 絶対に似合うようにするから!」



「……あー、如月の好みなら……間違いないだろうな」



その何気ない一言に、如月の顔がほんのりと赤く染まる。





「んー……私的には、襟足ありで横はスッキリ刈り上げ。全体的にガラッとイメチェンさせたいから、少し短めのセンターパートにしようか!」



美容師さんに説明すると、「任せてください!カッコよく仕上げますよ!」と頼もしい笑顔で答えてくれる。



カットが進むにつれ、鏡の中に映る“自分”が、少しずつ“知らない誰か”に変わっていく感覚――



そして、完成。


「……これ、本当に俺か?」


「ね、言ったでしょ? 私の目に狂いはないって!」


その言葉に、俺は思わず笑ってしまった。


夏休み前の自分が、少し可哀想に思えてくる。


「……あの時、疑って悪かったな」


俺がそう言うと、如月はなぜかぎこちない笑みを浮かべながら視線を逸らす。


(なんか、目が合わないな……)




「じゃ、次は眉毛整えて、そのあとスタイリング剤も見に行こっか! 髪型変えたし、ワックスも大事だから!」


「おう」


その後、コスメショップで眉用のアイテムを購入し、少し眉を整えてもらうと、顔全体がさらに引き締まって見えた。



「すごく雰囲気出てきたよ! あとは、これ!」


如月が手に取ったワックスを見せながら、俺の髪に軽く手を伸ばす。


「ちょっと髪借りるよ〜」


女の子に触られるなんて、生まれて初めてかもしれない。心臓がバクバクしてるけど、それを顔に出すのは絶対マズい。全力で“無”の表情を作る。


「そういえば……如月って女子なのに、なんで男子のヘアセットまで詳しいんだ?」


「ふふん、それはね――」


如月はドヤ顔で、言った。


「夏、あんただけが努力するのは不公平でしょ? 私も、少しは力になりたいと思ったから、動画とか見て勉強してたのよ。全部、今日のためにね」


……そんなこと、考えてもいなかった。


(“力になりたい”……か)


その言葉が、胸の奥にやさしく響く。





時刻は夕方を過ぎ、気づけば夜。

懐かしき“ふれあい公園”に、二人で戻っていた。



ベンチに座ると、夜風が心地よく吹き抜ける。


「――ついに、明日だね」



「ああ。……多少は変われたと思う。でも、やっぱり……怖いよ。あの日のことがあるから」


つい先月まで俺は死のうとしてた。だが一人の女性がきっかけでここまで変われたこと。





頭では分かっている。“変わった”ことも、努力してきたことも。

だけど、心のどこかに、まだ消えない恐怖がある。





「颯くんならきっとその恐怖も乗り越えて幸せな高校生活が送れると信じてるよ。


それと、明日から放課後は物理講義室に集合ね!」



「お、おう……またいきなりだな。分かった、じゃあまた明日」


「うん!またね!」





そして――二学期初日。



朝、制服に身を包み、俺はいつも通りの時間に登校した。

ただ、ひとつ違ったのは……俺に向けられる視線の数だった。



「ん? なんか……見られてる?」




「えっ、あの人……うちの高校の生徒?」


「ちょーイケメンなんだけど……!」


「え、俳優さん……?」


ざわめきが耳に入ってくる。けど俺は、自然に歩き続けた。


(まあ、そりゃそうだよな。夏休み前、あんな騒動があったんだから)




教室のドアを開け、席に着く。


「え……えええっ!!?」


「嘘でしょ!? あれって結城くん!?」


「完全に別人なんだけど……」


教室中が、まるでコンサート会場みたいにざわついた。


(そりゃ驚くよな……)


そのとき――俺の視界に、奴が入った。


三井。俺を貶めた張本人。


機嫌が悪そうな顔で、こっちにズカズカと近づいてくる。


「……あんた、まさか……あのデブ野郎?」


「そうだけど?」


「ふーん……別に興味ないし」


……悔しそうに、そう言い残して三井は背を向けた。




「なんだよ、お前から話しかけてきたくせに……」


でも――不思議と、気分は悪くない。


チャイムが鳴り、HRが終わると――


「ねえ!結城くん、なんでそんなに変わったの!?」


「彼女いるの?」


「やっぱ近くで見てもイケメンすぎるっ!」


女子たちが次々に声をかけてくる。

あの事件のことなんて、まるでなかったかのように。


「ちょっと、こっち来て」


そう言って、俺の手を掴んだのは――如月だった。


そのまま廊下に連れ出される。


「助かった、如月。ありがとな」


「お礼を言われるほどのことじゃないよ。頑張ったのは颯くんなんだから」


その笑顔は、太陽みたいに眩しくて。


「で、どう?感想は?」


「正直……嬉しい。何より、あの悔しそうな三井の顔が見れてさ」


「でしょ~? でも、目標のまだ2割くらいだよ。これから、もっともっと楽しくなるからね!」


「……ああ、よろしく頼むよ」


「じゃ、授業始まるから。またあとでね~!」





そして、放課後。


「よし……帰るか」


周囲の女子たちの視線を感じながら、足早に廊下を歩いていると――


「――待って! はーくんっ!」


聞き慣れた、けれどもう遠い過去に置いてきた“声”。


そして、その呼び方。


「……みーちゃ……」


いや、もう違う。


「牧野さん」


俺は忘れていない。あの出来事を。

彼女の――裏切りを。




そして、胸の奥に眠らせていた“怒り”が、静かに目を覚ます。













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