第二十二話 ヤンデレ化
12月も中旬、文化祭も終わり、寒さも日々増していき、
ふと一年を振り返ると、本当にあっという間だったと思う。いろんなことがあったな、なんて感慨にふけりつつ、同時にある種の“懐かしさ”すら感じる。
これからは、好きなことをして、好きな生き方をしていこう。
俺は、昔からそういう考え方が好きだった。
……でも、今そんな悠長なことを考えてる場合じゃない!
なぜなら――
「俺、今、めちゃくちゃピンチなんだが!?」
なにをやらかしたのかすら思い出せない。
誰か、誰か助けてくれ……!
「――あのー、如月さん?なにか……しましたか、俺……」
腕に絡みついたまま一向に離れてくれない如月紫苑が、鋭い眼差しで俺を睨んでいる。
「じーーーーーーーーーーっ……ふんっ!」
ため息が自然と漏れる。これはまずい。相当に怒ってるやつだ。
「……もし何かしたなら謝るから、頼む、ちゃんと話してくれないか?」
「きのう……のことだよっ!」
「ん?」
「昨日の……あの先輩と!なにしてたの!?」
「えっ、あー……後夜祭、一緒にまわっただけだよ」
「じゃあ、あのキスは何!?カップルダンスのあれは!?」
――バレてたのか。いや、見られてたのか……?
「いや、でも、如月に責められる筋合いは――」
ばしっ。
「……いてっ」
「この鈍感男!」
如月は俺を思いきり押し倒し、そのまま駆け出していってしまった。
「如月……」
一方その頃
如月は教室の外れでひとり、拳を握りしめていた。
「……いつの間に、関係が進んでる……? そんな、そんなはずない……。ここ最近、毎日颯と一緒にいたのに、私の見てないところで……?」
彼女の目が、静かに、だが確実に狂気の色を帯びていく。
「そんなの……許せるわけないよ。 最初に、、、、、 なったのは私なのに、」
六時間目・終了後
「ふぁ~……やっと終わった……」
「はーくん、午後の授業ずっと寝てたじゃん(笑)」
「なんか昼後からやけに眠くてさ。文化祭の疲れもあるんだろうな、多分……」
「ちゃんと休みなよ?また倒れたりしたら困るんだからね」
「ああ……」
「じゃ、また明日。あ、日直よろしくね」
「おっけー……」
……やばい、真斗には言えなかったが、午後からずっと目がチカチカしてる。身体も重い……力が、入ら、、、な、、、い、
*
「薬がきいたみたいね、」
「……ん、ここ……どこだ? って、見えない!?」
目隠しされてる!? それに、手も足も――縛られてる!?
雫「やっと起きた?」
美羅「おはよ♡ はーくん」
「その声……美羅? それと雫もか?」
美羅「ピンポーン♡」
「な、なにしてるんだよ!? とりあえず、これ解いてくれ、暗いのは苦手なんだ!怖い!!」
美羅「だーめぇ♡ 昨日のこと、見ちゃったからね~」
「えっ……お前らも見てたのか!?」
雫「颯、ちゃんと答えて? 先輩と、どういう関係なの?」
「付き合ってない!! 本当に!!」
雫「じゃあ、あのキスは? それにあれカップルしか踊らないやつじゃん」
「ち、違う! あれは雰囲気で……!決してやましい気持ちはない、」
雫「嘘だよ」
「嘘じゃないってば!」
雫「嘘つくと汗かく体質、昔から変わってないね?♡」
「ごめん、本当に悪かった、許してくれ――」
美羅「ダメ♡」
「……えっ?」
美羅「ちゃんと、既成事実を作らないと……♡」
「え、あの、美羅さん……なんか柔らかいものが当たってるんですが……」
美羅「当たってるんじゃなくて、“当ててる”んだよ?♡」
今更ながら思い出した。……美羅はスイッチが入ると手が付けられない。昔、転んで覆い被さったときも、勘違いして抱きしめられて――いや、それ以上は思い出したくない。
「おい、雫! 見てないで助けてくれ!」
雫「……ずるい。美羅だけ……ずるい……」
「ちょ、雫!? く、苦しいって! 」
雫「だめ!颯は私のものだもん!」
今確信した。雫はいつもツンツンしてるが、本当は……超・デレデレなんだ、
* 過去
「なぁ、雫」
「なに」
「……本当は、俺のこと嫌いなんだろ?」
「……なんで、そんなこと言うの?」
「俺にだけ当たり強いし、いつもキツイ目で見てくるから、別に俺のことが嫌いなら関わらなくていいぞ?なんならもう、」
「ちが……ちがう! 捨てないでっ!お願い、なんでもするから!」
「……え?」
「……嘘だよっ!? 冗談に乗ってあげただけだから!あんまり調子乗らないでよね、」
(あのとき、少しだけ違和感を覚えたけど、雫が俺に関心があるとは思わなかったが、まさか、本気だとは……)
「だ、誰か……ほんとに誰か助けて……!」
――ガラガラッ!!
「颯っ!!!」
その声は――如月!
「助けてくれ!」
*
救出後。
「……おい、お前ら。ちょっと調子に乗りすぎじゃないか?」
「ご、ごめん、はーくん……」
「ごめんなさい……颯……」
俺は、三人を静かに見回し、口を開いた。
「今、ここでハッキリ言う。今まで気になる人はいたが好きなったことはまだ一度もなく好きというものが分からないだから、先輩のこともまだ完全に好きとかそういうのは断言できない、だから今は、誰とも付き合うつもりはない」
三人の表情が、少しだけ安堵に変わる。
……が、次の瞬間。
「じゃあ、最初に“落とした”人が勝ちってことで、いいよね♡」
これは、地獄の始まりなのかもしれない。
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