第二十一話 文化祭3 文化祭はエモく美化される。
文化祭2日目 一般公開。
「おいおい、このままじゃ食品全部完売にできるぞ、」
「まあそりゃそうだよねなんて言ってもこの有様じゃ、」
「こちらになります!」
「いらっしゃいませ!四名様で!」
「ちょっとー、オムライスまだー?」
「ありがとうございました!チェキの方はこちらに並んでください!」
C組は颯のおかげで大繁盛もいいところ、男女問わずチェキのために、大勢が押し寄せている。
「神城さん次でラストです。」
「本当?分かったー!」
「すみませんもう食品の方が終わりなので締め切ります!」
「えー、写真撮りたかったのに、あんな美人な子見たことない、」
「すみません!」
「ハヤテくんもうあがっていいよ!片付けは私たちでやっとくから、流石に朝からずっと出てるからあとはミスコンに集中して!」
「分かりました。」
***
文化祭 二日目の午後
体育館ステージ裏。緞帳の向こうでは、観客のざわめきが響いていた。
「結城準備はいい?」
「……はい、如月さん」
「そうそう、そのキャラのままでいなきゃダメだよ? “お嬢様”」
「ごきげんよう、如月くん。あら、蝶ネクタイが歪んでいるわよ。直してあげますわ」
「うん……それそれ! 完璧! いやもう、やばい、私がドキドキしてるんだけど……」
「役になりきってるだけですわ」
「でもほんと、颯って……“演じる”の上手いよね」
「昔俳優に憧れていたんだ、だけど」
そのとき、ステージMCの放送が入った。
『続いては1年C組から結城颯くんと如月紫苑さんより、エントリー番号7番! テーマは“許されざる恋――メイドと執事の禁断の物語”! どうぞ!』
「……いくぞ」
「うん、“颯お嬢様”」
**ステージ上**
颯「なぜ、こんなにも……胸が苦しいのかしら……あなたを見ていると、心が張り裂けそうになるの……!」
如月「お嬢様、それは恋です。許されなくとも、私はあなたの隣にいられるなら、それだけで……」
(あれ、みんな静かすぎない……?)
観客の目は釘付けだった。
女子たちの目はうるうる、男子たちの目はギラギラ。
そして、ラストシーン。
颯「この愛が、咎であるなら……いっそ、すべてを捨てて、あなたと……」
如月「永遠を誓います……あなたに……」
──静寂のあと、
「うおおおおおおお!!」
「尊い!!!」
「男女どっちもいけるの最高!!」
「ていうかマジで結城くんなの? いや“さん”か!?」
「如月さんの男姿、いつみても、いい、」
体育館が爆発するような歓声に包まれた。
***
控室
「……如月。おつかれ」
「はー……すっごい緊張した……!でも、すっごく楽しかった……!」
「俺も、なんか…… 達成感はあるな」
数十分後先生が飛び込んできた。
「お前らぁぁぁぁ!!! やったぞぉぉぉ!!」
「え?」
「優勝!!! ミスコン優勝だ!! 30万ゲットぉぉぉ!!」
「……マジか」
「商品券だから! クラスで山分けな!」
「あれ? 先生、やけに正当……」
「……と思ったか? 私の分は別途10%抜かせてもらうからな」
「……なんでだよ」
***
そして、文化祭も終盤。
みんなが出し物の片付けを始める中、颯はふと、ある視線を感じた。
振り返ると、そこには――
「海先輩……?」
黒髪ストレートに凛とした佇まい、制服の上に淡いブルーのカーディガンを羽織った彼女が、口元に微笑を浮かべて立っていた。
「やっほー、会いにきちゃった笑 せっかくだから、一緒に回らない? 文化祭、まだ少し残ってるよね?」
「いいですよ。」
***
「メイド服、似合ってたよ。……正直、二度見したもの」
「……ありがとうございます」
「ふふっ、照れてるの? 可愛いね笑……女の子として」
「からかわないでください」
「じゃあ、男子として扱えばいいの?」
「……う、うーん……」
先輩は、すっと指を伸ばして俺の髪に触れる。メイド姿から普段着に着替えたはずなのに、なぜかまだペースを握られている気がする。
「文化祭って、なんだか浮き足立つわよね。普段言えないことが、言えてしまいそうになる」
「海先輩……何か言いたいことが?」
「大好き。」
「……え?」
「あのかっこいい演技見たら好きから大好きになっちゃった。ミスコンの演技なんて、普通の男子じゃ無理よ」
「……演技ですから」
「でも、私にだけは“本音”も見せてほしいな」
風がそっと吹いて、先輩の髪が頬にかかる。彼女はそれを押さえることなく、視線を逸らさずに続ける。
「このあとの後夜祭、誘われてたりする?」
「……いえ、まだ」
「じゃあ、私と行ってくれる?」
「いいですよ、」
「よかった。ふふ……楽しみにしてる」
文化祭も終わりを迎え、校庭には無数のライトと、揺れるランタンが灯されていた。
クラスごとに並んだキャンプファイヤー、中央ステージではアコースティックギターの音が穏やかに流れている。
颯は、薄く汗ばんだ手のひらを制服のズボンでそっと拭った。
「待った?」
「……さっききたとこです。」
静かに現れた海先輩は、昼間とは違う、私服姿だった。
白いノースリーブのワンピースに、肩から薄手のカーディガンを羽織っている。まるで夜風に舞う一輪の花のように、儚げで美しかった。
「その格好……似合ってます」
「ふふ、ありがとう。あなたも、制服だけど……ちょっと大人っぽく見えるわね」
「……そ、そうですか?」
(なんでこんなに緊張してるんだ、俺……)
火の粉がぱちぱちと弾け、周囲ではクラスメイトたちが談笑していた。
そのとき、ステージからアナウンスが響く。
『それでは、後夜祭最後のイベント──ペアダンス、始めます! 意中の相手を誘って、ステージ下に集まってください!』
「……ダンス?」
「ふふ、知らなかった? うちの伝統行事なのよ」
「いや、知ってましたけど……あれって、付き合ってる人同士が……」
「関係ないわ。気持ちが少しでもあれば、それで十分よ」
そう言うと、先輩は軽く手を差し出した。
「はやてくん、エスコートしてくれる?」
「……はい。」
自然と手を取ると、ほんの少しだけ、彼女の指が震えていたのがわかった。
(先輩も……緊張してるんだ)
ふたりはステージの前へと歩いていく。
ギターの音が、優しく夜を包む。
***
「……ねぇ、はやてくん」
「はい?」
「今日、あなたがミスコンで見せた姿、忘れられそうにないの。誰かの“ために”何かをする強さが、そこにあった」
「昔憧れていた人に近づきたく、でも ……俺なんて、まだまだで……正直、怖かったです」
「その“怖さ”を越えて誰かに向き合えるあなたは……とても素敵だと思う」
ふたりの距離が、音楽に合わせて近づく。
「私ね、いままで“完璧”じゃなきゃダメだって、ずっと思ってた。でも、今日……あなたを見て少し考えが変わったの」
「海先輩……」
「だから、今夜だけは少しだけ、わがまま言っていい?」
「はい」
「目を瞑って。」
そう言い俺は目を閉じ、先輩は俺の口にキスをした。
「海先輩、」
「ごめんなさい、こういうのは本来付き合ってからするのに、我慢できなかったの、」
ふと、視線が合う。
ほんの一瞬だけ、夜の空気が溶ける音がした気がした。
──そして。
「花火、上がるよー!!!」
空に、ドーンと大輪の花が咲いた。
色とりどりの光が校庭を包み、先輩の横顔を淡く染めていく。
彼女は、小さく笑って──
「ねぇはやてくん……来年の文化祭も、一緒に回ってくれる?」
「……はい、」
思わず即答してしまった。
火薬の匂いと、甘い風。
青春の1ページに、忘れられない記憶
しかし
この光景をたまたま見てしまった3人がいた。
「なにあれ、」
美羅「はーくん、」
雫「颯、」
如月「颯?」
恋愛が加速するのをまだ颯は知らない。
次回ヤンデレ回
念願の1万pv!泣 見てくれた方ありがとうございます!