第二十話 文化祭2 文化祭という出会いの場
先生に無茶振りされた俺らは今、放課後ショッピングモールに来ている。
…男装と女装の衣装を買うために。
「なんか、懐かしいね」
「そうだな。あの日以来だな」
※仮デートで訪れたショッピングモール(第4話参照)。
「で、服どうする?」
「うーん。先生のシナリオ通りにするには颯は、上品かつ色気のある、お嬢様風でいこう!」
……そんな格好で、みんなの前に立たせないでくれ。
「じゃあ如月は?」
「私かー。颯は、私にはどんな格好が似合って、かっこいいと思う?」
「……俺に合わせるには、お嬢様に仕える執事。ジェントルマン路線が良いんじゃないか?」
「ふふっ、案外ノリ気じゃん」
「俺はただ、衣装を提示しただけだが……」
「よし、衣装も無事に買えたし、帰るか」
「颯?」
「あっ、母さん……」
「いや~、放課後デートだなんて……母さん、嬉しいけどちょっと寂しいわ」
「違うって。文化祭の準備だよ」
「あら、そうなの? って、あの時の子じゃない! お名前は?」
「この前はどうも。私は如月紫苑と申します」
「この前はごめんなさい! でもあなたのおかげで、息子との関係が良くなったの」
「いえいえ。親子は仲良くあるべきですから」
「あなた、まるで女神様ね。ところで、結城家に嫁ぐのはどう? 如月ちゃんだったら大歓迎!」
「えっ……」
「母さん、如月が困ってるだろ……」
「そう? そうには見えないけど」
母さんの視線の先では、如月が真っ赤に頬を染めていた。
「でもやっぱりダメ! 颯は私のものだから!」
そう言って母さんは、なぜか俺の顔に自分の大きい胸を押しつけてきた。
「ちょっ……!」
「だめ! 颯は母さんの可愛い宝物!」
「いやいや、何して……っ」
「なら、私も!」
今度は如月が反撃するように、自分の巨乳を押し当ててくる。
「あかん……意識が……でも、なぜか心地いい……」
***
「はやて? 大丈夫?」
「あぁ、母さん……」
「ごめんなさいね、鼻血出して気絶しちゃったから、お家まで連れて帰ったわよ」
「……まぁ、衣装も無事買えたし、いいか」
あのときの感触がふと脳裏をよぎる。如月……いい匂いしてたな。
それから文化祭当日までは、ミスコンの準備とクラスの出し物に全力を注いだ。
文化祭一日目 ――校内公開
ピンポンパンポーン。
『みなさん、おはようございます。生徒会長の南雲乙羽です。本日は記念すべき第100回ハルガサキ祭です。節目となる今日、生徒一人一人が本校の顔であることを自覚し、責任ある行動を――それでいて楽しい文化祭にしましょう。それでは――ハルガサキ祭、開始です!』
「もう、100回目なのか……」
「ハヤテくん! そろそろ衣装に着替えてもらっていい?」
言われるがままに、メイド服に着替えると――クラス中の視線が俺に映る。
「え、あれ結城?」
「まじ? 全然アリじゃね?」
「俺はいける!なんならいこうかな笑」
「ってかなんか……エロくね?笑」
「男子まじきもー」
「でも、かわいいのはガチ」
……騒がしい
「俺、そんなに浮いてるか……?」
「違うよ! 可愛すぎて、みんな見惚れてるの!」
神城のやつ、ニヤニヤしながら俺の肩をポンポンと叩いてくる。
「それとこれから言葉遣いはメイドらしく!」
「わかった、じゃなくて、かしこまりました。」
「そうそう、なんか襲いたくなっちゃう笑じゃなくてじゃあ早速宣伝してきて! 如月ちゃんと二人で!」
「……かしこまりました」
「いいね、その返事!」
さっきからずっと神城が変な目で俺を見てくる。男からいやらしい目で見られる女子の気持ちが分かった気がする。
「一年C組、コスプレ喫茶やってまーす! ご主人様、お待ちしてまーす!」
「あのーすいません、連絡先聞いてもいいですか?」
「え、あの、ちょっと……」
人生初の逆ナン。断り方がわからない。
「その子、男の子だよ」
「えぇ!? マジ?」
俺は小さく頷いた。
「でも構わない! せめて写真だけでも!」
「それなら……」
「さすが颯だね」
「如月も、十分モテてるだろ」
現に今もナンパされている。
「ほら、宣伝するぞ、」
「ちょ、颯! 手が大きい……」
「ん? 何か言ったか?」
「い、いや!…なんでもない!」
「はーくんー!」
「おー美羅か。どうした?」
「やっぱり近くで見ても可愛い! それでね、うちのクラス、お化け屋敷やってるんだけど、来ない?」
「今は宣伝中だし、なー、しかもお化け屋敷かー」
「お願い!」
目をうるうるしながら見つめてくる。
「まあ休憩ってことで、いいよ、」
「ほんと? やったー!」
「待ちなさい!」
「どうしたの如月さん?」
「まさか、颯と二人で行く気じゃないでしょうね?」
「当然です! はーくんを一人にするなんて、鬼畜!」
「なんで、私が除外されているのやら、じゃあ私も行くわ」
「如月さんは宣伝しててください!」
「それ、颯にも言えるよね?」
「颯は休憩中だから!」
……この二人、本当に仲悪いのか、良すぎるのか分からない。
「わかった、わかった! 3人で行こう。これでいいだろ?」
「……わかりました。ふん! ふん!」
いつも息はぴったりなんだけどなー。
*お化け屋敷
「これ……思った以上にガチなやつだな……」
この2人は知っている"颯は超”がつくほどビビリだということを
バァンッ!
「うわっ!」
「はーくん……大胆♡」
気づけば、美羅の胸にダイブしていた。
「ごめん、美羅!」
「全然いいよ? むしろこのままでいたい♡」
「如月、お前は幽霊とか平気だろ?」
「全然無理!!」
「誰か、先頭行ってくれ……」
バァン! バァン!!
「うわっ! いってぇ!」
顔面が、如月の……あそこに、!
「本当にごめん!!」
その瞬間、背後から追っかけてくる音。
「ごめん、俺もう無理だーーっ!」
「はーくん! 待ってぇ!」
「颯ーーっ!!」
颯は、二人を置き去りにしてクラスに戻った。
「勢いで逃げてきちゃったけど……まぁ、あの二人なら大丈夫だろ。さて、って店番の時間!」
「遅いよー! あと “ご主人様”って言うんだからね!」
「はいはい……」
「いらっしゃいませ、ご主人様。――って、雫か」
「ここではコンセプト通りにお願い。しっかり“キャラ”演じてね?」
なんだか、嫌な予感しかしない。
「メニューはどうなさいますか?」
「うーん、じゃあオムライスと……この“ご奉仕”ってやつで」
「!? なんだそれ……」
「神城ー! “ご奉仕”って何だよ!?」
「あーそれね、お客様の命令をなんでも聞くっていう裏メニューだよ!」
「な、何してくるかわかんない相手に、そんなの断れないのか?」
「一位取りたくないの? 先生の期待もあるし!」
(……ないと思うけどな)
「はい! オムライス持っていってねー!」
「こちら、オムライスになります。……それで、“ご奉仕”とは……?」
「うん、じゃあまず語尾に“にゃん”をつけて、愛情ケチャップやって♡」
……帰りたい。
「か、かしこまりましたにゃん……ぴゅわぴゅわもえもえ、にゃんにゃん♡ おいしくな〜れ♡ あなたのハートに、ずっきゅんにゃん♡」
「うおおおおおおおおお!!!」
周囲の男子、全員が立ち上がった。怖い。怖すぎる。
「失礼します……」
「お疲れー! どうだった?」
「……お願いします!勘弁してください。神城様もう悪行は一切やらないのでどうか、助けてください!」
「分かった分かった笑、じゃあ、もう接客はいいから! 今度はチェキ係ね! お客さんが食べたら颯くんと写真撮れるって特典つけてるから!」
「……了解です」
こうして“看板娘”の効果は絶大で――
文化祭一日目、C組の売り上げはダントツ一位を記録した。
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