第十九話 文化祭1 文化祭は準備期間が一番楽しい。
「おはよ。」
「はーくん、おはよう!」
「……見る感じ、仲直りはできたんだね?」
「ああ。おかげさまでな。」
「石川くんは、あれから僕たちのこと避けてるけど……どうするの?」
「もう少し手がかりが掴めたら、話そうと思ってる。」
「わかった。こっちでも調べておくね!」
「助かる。」
「それより、今日って文化祭の出し物決めだよね?」
「もう文化祭か……ついこの間、体育祭だったばっかりだろ。」
「ホント、あっという間だね。」
そのとき、教室に先生が入ってきた。
「お前らー静かにしろー。先週も言ったが、今日は文化祭の出し物についてだ。案があるやつはこの一週間でこの箱に入れとけって言ったよな?もう締め切るぞー。さて、
一番多かったのは……コスプレ喫茶だな。」
「ええ~!? マジ!? お化け屋敷がよかったのに~!」
「最初に言ったよな? 一度決まったことに文句は厳禁だー!」
おそらく、女子の圧倒的票数で決まったのは間違いない。男子の大半は、正直やる気がない。
「先生、俺たちは何やるんですかー?」
「ん? 全員コスプレするんじゃないのか?」
「えっ、マジで?」
「女子だけじゃないの!?」
「そこは話し合いだなー。とりあえず、話し合いスタート!」
*
「はーくんは、どうするの?」
「うーん……あんまり目立たない格好がいいかな。」
「僕も、そうだね。」
今のクラスの“主導権”は、三井が消えた今、神城が握ってる。石井はというと、悪事がまだ表沙汰になってないから、俺たちを避けてるものの、相変わらず“陽キャぶり”を発揮している。
「みんな、静かに注目~! やりたくない人もいると思うから、コスプレしたくない人はしなくていいよ!それに予算のこともあるからコスプレは必要最低人数にするね、全体の3分の1くらいは必要かな。それ以外は裏方でお願い。まずはそれを決めよう!」
「……で、どうする?」
「俺、他のクラスの出し物も見たいし、裏方に回ろっかな~。」
「俺も~。」
男子は──というか、全員が裏方志望。
「はーくんも、裏方?」
「ああ、その方が気楽そうだしな。」
「女子はもう決まったけど、男子は誰もやりたがらないの? せめて1人は欲しいな~!」
「お前、いけよ!」
「いやだよ! じゃあお前が!」
教室に、微妙な空気が流れ始めたその時──
「颯はどう?」
如月が、にっこりと悪意のある笑顔で言い放った。
「たしかに……ちょっと中性的な顔してるし、女装似合うかも~?」
「結城、いけよー!」
「なぁ!たしかに!」
──断りづらい。
如月……あとで覚えてろよ……
「で、颯くん。クラスのために、やってくれない?」
神城がキラキラした目で俺を見てくる。あの目を振り切ったら、後でどんな視線を浴びるか……この光景前にもみたぞ、
「……わかった、やるよ。」
「ほんと!? ありがとー! 男子1人でもやってくれるなら、心強いよ!」
「はーくん、本当にいいの?」
「しかたない。あとで如月に何か奢ってもらう。」
「それじゃあ、みんな座って~。内容が決まったところで、放課後から文化祭の準備に入ってね~!」
「はーい!」
*
放課後
「颯くん! コスプレの件なんだけど!」
「ああ、何か決まったのか?」
「女子で話し合ってね、颯くんにはメイド服着てもらうことになったよ!」
「……メイド? マジか……」
「イヤ?」
神城が上目遣いで俺を見てくる。ズルい、そういうの。
「いや……じゃない。」
「よしっ! やったー! 紫苑ちゃんも絶対似合うって言ってたんだよ! 想像したら私もそう思ったの!」
如月、よりにもよって、目立つものを、
「コスプレ衣装とかウィッグは、こっちで準備するから安心して。あとはメイクだけかな。それ終わったら裏方作業も手伝っていいよ!」
「了解。」
メイクアップ・タイム
「それじゃあ! 颯くんの変身、いっくよー!」
「はやく終わらせてくれ……」
「何、緊張してるの? かわい~」
如月がニヤニヤしながら言ってくる。
「はい! メイク完了ー!」
神城と如月が今までにみたことのない顔をしている。
「……うそ、」
「これは……予想以上。」
「なに、そんなにひどいのか?」
「違う違う! 激カワなんだけど!」
「うんうん! やっぱり私の言った通りね! ねえ、写真撮らせて! これ……家に飾るからっ!」
「……ん?」
「なんでもない! 忘れて!」
俺は鏡の前にたった。
「まじか、ほんとに女の子みたいだな……」
「かわいいし、ちょっと……セクシーさもあるし……いかんいかん、かわいいよ!」
「次はウィッグと、メイド服と、あとパッドね!」
「パッド!? いや、それは別にいらなくないか?」
「ダメダメ! 売上で一位取りたいでしょ?」
「まあ、取れるなら……」
「取るには看板娘が必要なの! 男子高校生って、顔・胸・尻しか見てないから!」
「それは……否定できねぇ。」
「じゃあ早速、試着!」
⸻
ガラッ
教室のドアが開いたと同時に、先生が駆け込んできた。
「颯ぁぁぁ! 一生のお願いだ!」
「え、どうしたんですか?」
「ミスコン! 出てくれえぇぇぇぇ!」
「……え?」
「頼む、この通りだあああ!」
「先生、土下座しなくても話くらい──」
「クラスから2人出さなきゃいけないのに、1人もいないんだ! このままじゃ……評価が下がるー!!」
「そんなことで下がるんですか……?」
「如月と神城が出ればいいじゃないですか。」
「私は生徒会あるから無理~」
神城は一年生にもかかわらず副会長を務めている。
「如月は?」
「出てもいいけど、1人じゃ成立しないからね~。颯が出てくれたら、出てあげる。」
「……策士か。」
「なあ、颯! 如月も言ってるし、頼むー!」
今日の朝目立ちたくないっていったばかりなのに、でも先生からの頼みを断るわけにもいかない、
「……分かりましたよ。でも男子でもいいんですか?」
「バレなきゃいいんだよ! しかもな、一位になると賞金30万なんだよ!」
「先生、それが本命ですね。」
「コンセプトは“2人の恋”だ!」
「え、それはまた急に……」
「颯は女装、紫苑は男装! で、ラブストーリーを演じてもらう! シナリオは私が用意したから! 任せろ!」
この文化祭、波乱の予感しかしない。