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第十七話 幼馴染


とりあえずは、乾杯――!


「いぇーい!」


「かんぱーい!」


 グラスが軽やかに触れ合い。ファミレスの片隅。夕暮れに染まりはじめた空の下、俺たち三人だけの、ささやかな打ち上げが始まった。




「はーくん、クラスの打ち上げ行かなくてよかったの?」


 

「うん。今日はこっちの方が大事だから」



「せっかく行ったらよかったのに、今日のMVPだったんだから! 絶対、褒められてモテモテだったって!」



「駄目!もし行ってたら、女子たちがここぞとばかりに颯を狙い始めるでしょ。全力で止めるよ、私は」



「でも、三人で頑張ってきたんだから。三人で打ち上げするのが一番だよな」



「うん、これが一番だよ」



「それにしても、今日は疲れたね。嬉しいことも、嫌なことも、いろいろあってさ」


「うん、ほんとにね」


 俺たちはそれぞれのグラスを手に取り、もう一度静かに乾杯した。







「でさ、やっぱり話したいことがある。石井のこと」


 俺が切り出すと、空気が少しだけ引き締まった。



「……うん、聞きたい」


「私も。あいつのこと、ずっと気になってた」


「みんなは、何か心当たりあるか?」


「私はない。というか、ずっと嫌いだったし。今さら馴れ馴れしくしてくるのが不自然だったんだよね」



「俺も同じ。よく考えれば、クラスリレーで俺が三回も走ることになったのも、石井の仕組んだことだったんだな。俺を疲れさせるために、」



「しかも、金剛先輩と裏で繋がってたなんてね……信じられないよ」



 そのとき、黙っていた真斗がふと真剣な顔で口を開いた。



「実はさ、そろそろ話してもいいかなって思ってたことがあるんだ」


「……?」


「ほら、前に颯が“まだやることがある”って言って、あの事件の真相を保留にしたこと、あったでしょ?」


「ああ、あったな」


「それ、もう向き合ってもいい時期だと思うんだ」


「何か、心当たりが?」





「うん……石井蓮って、実は僕たちと同じ小学校だったんだ」


「??」


「本当なの?!」


「卒アルにも載ってたし、小学校の友達にも確認した。完全に一致してる。少し見た目が変わっていたから、単に僕たちが彼の存在を忘れていただけだ」


「まじか、」


「颯は特に、入学当初から石井に異常なほど執着されてたよな。あれには理由があると思うんだ」



 真斗の言葉に、胸の奥がざわつく。



「それにもう一つ。どうして颯は、如月や僕のことを忘れていたのか。逆に、牧野さんや近藤さんとは“昔から仲が良かった”って記憶があるのか。そこが一番おかしい」


 言われてみれば、確かに……記憶にズレがある。



「転校生として紹介されてないなら、小学校高学年の時点で颯がいたら、私が気づかないはずがないよ」



「だからこそ、真実を明らかにしよう」





 昨日の疲労が残っていたのか、起きたのは昼過ぎだった。重たいまぶたをこすりながら、指定の時間に合わせて準備を済ませる。


 向かったのは、あの懐かしい“ふれあい公園”。


 そして、そこには――


「久しぶり」


「はーくん……」


「颯……」


 牧野と雫が、静かに待っていた。





「今日呼んだのは、理由がある。俺たちの“過去”のことを……聞かせてくれないか」




 しばしの沈黙。そして、ぽつりと口を開いたのは雫だった。



「颯、本当に覚悟はできてるの?」


「ああ。今なら、全部受け止められる」


「颯……強くなったんだね……」


 牧野が、少し目を潤ませた。



「でも、ごめん。あの事件の“犯人”については……私たちにも分からないの」


「そうか……」


「だけど、それと同じくらい大事な話がある。どうして颯が、如月さんたちを忘れてるのか」


「それは……やっぱり、記憶喪失なのか?」


「そう。ただ、少し違うの」


「違う?」



「ここからは、私が話すね、この話、本当はお母さん――紗栄子さんに口止めされてた。しーちゃんだけに罪被らせたくないこれで私も共犯」


 


「“完全な記憶喪失”じゃなくて、“記憶の改変”と“一部欠損”だったの。小学校四年のとき、颯はあの出来事でそれ以降の三年間、ずっと入院してた」


「入院……?」


「うん。その間の記憶もごっそり抜けてる。そして、その記憶を補うように、私たちと中学で出会ったことが“昔からの付き合い”にすり替わってるの」


「それで、如月たちのことを忘れて……逆に俺が覚えてた牧野たちの“昔”は、改変された記憶だったんだな」


「……うん。詳しいことは、紗栄子さんから直接聞いたほうがいいと思う」







「今日はありがとうな。色々知れてよかったよ」


「待って!」


 雫と美羅が同時に小さく叫んだ。



「……やっぱり、私たちからまた謝らせてほしいの」




「あの日のこと、ずっと悔やんでる。颯の言葉に、ちゃんと耳を傾けてあげられなかった、今なら分かる。あの時は颯に対して色々な気持ちがあった、でもまずは真っ先に颯の言うことを聞いてあげることだった!


私は昔から颯が好き。」




「守ってあげたかったのに、いざ言葉と行動にしようとしても怖くて、何もできなかった……あんなに颯が追い込まれているとは知らずに、影ですらも助けになれなかった、もう同じ失敗は繰り返さない!何があっても助けると誓う、


私も出会った時から颯が好きだよ。」








 ふたりは、ぴたりと息を合わせて言った。



「一番辛くて、怖かったのは颯だよね。本当に、本当にごめん……!」




颯の返答に緊張が走る。




「……もういいよ、別に怒ってないし。だから、そんなに泣くなよ、な?」


「……ほんとに?」


 涙で濡れた目で、美羅と雫が俺を見上げた。


「ああ。美羅、あの時のことは、もし立場が逆だったら、俺だって怖くて何もできなかったと思う。雫も、最初は俺のために情報集めてくれてたんだよな、だけどみんな俺がやったと言い。それに三井に証拠を突きつけられたら……誰だって信じたくなくても、信じてしまう。



それに実は如月から聞いたんだ、俺との決別からずっと裏で助けてくれたこと、まだ俺のことを恨んでいる奴らが裏で物を無くしたり、変な噂を立てたりしているのを二人が止めてくれたんだよな、金剛先輩との一件も助かった。二人ともありがとう。



俺は深くお辞儀をした。





 ――颯、はーくん、あなたは、どこまでも優しい。だから、私たちは――




      好きにならずにいられなかった。




 美羅と雫は、泣きながら笑顔になり、そして――颯に、飛びついた。









































































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