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第十六話 体育祭3


体育祭当日


 

「えっさ!えっさ!あげあげほいほい! もっともっと! 赤組ファイトーッ!!」



「テンション上げてー!もっとー! せーのっ、テンショテンショテンショ白組ー!!」


 


今年の体育祭も、例年通り、いや例年以上の盛り上げを見せていた。



天気は快晴、雲一つすらない青空、グラウンドには各色の旗が立っており、応援団の掛け声が熱風と共に響かせる。


 


「次は綱引きか……」


 

「いくよ!はーくん、」



「あ、あ」


「颯頑張ってー!」


背中から元気いっぱいの声をかけてきたのは如月。リボンを結び直しながら、やる気に満ちた目でこちらを見ている。


綱引きはクラス男子対抗。なにげに力の入る競技だ。全身の筋肉を使うから、後の種目に地味に響く。


(本当は体力温存したいんだけどな……)



綱引きのロープが設置され、各クラスの男が緊張の面持ちで立っていた。


 


 


* 


 


午前の部のクライマックス、それは――クラス対抗リレー。


クラス全員が一人ずつバトンを繋ぐ、まさに団結力と脚力の総決算とも言える競技だ。そしてこの種目、得点も高いぶん、勝敗の行方を大きく左右する。


今のところ、俺たち赤組は劣勢。ここで巻き返さなければ、優勝は遠のく。


 


「結城!」


 


呼び止められた声に振り返ると、そこにはクラスの陽キャ代表、石井が駆け寄ってきた。




「ん? どうした?」


「頼む! 急遽、二人が足を怪我しちゃって出場できなくなったんだ! 代わりに……結城、二人分走ってくれないか!?」



「……つまり、三回走るってことか?」



「そう。マジで他に頼めるやつがいないんだ……! 結城しかいない!」

 


――嫌な予感はしていた。



「俺以外にも走れる人はいるだろ? 体力には自信ないんだ、」


「他の奴らみんなダメって言われた! 足の速さならお前が一番って、みんな期待してるんだ! 頼むよ、結城!」


(そんなこと言われたら……断れないだろ)


俺が走らなきゃ、またクラス内で陰口の対象か……。色別リレーに全力を注ぐつもりだったけど、こっちも重要な試合だ。



「……わかった、いいよ」



「マジで!? さっすが結城、イケメンは中身も違うなぁ~!」






「第一走者はレーンに並んでください!」



 

「ちなみに、一人目はお前な!」



「……え、マジで?」


 


さっきから心臓の鼓動が一向に落ち着かない。




「落ち着け、集中だ。」




 


「位置について―――――――――よーい……ドン!!」


 


「いけいけ赤組ー!!」


「おせおせ白組ー!!」


 


一瞬で、俺の世界が加速した。


 


風を切る音が耳に張りつく。身体が軽い。俺はただ、バトンを握って真っすぐ走った。


 


「ちょ、誰!? めっちゃ速くない!?」


「え、イケメン! 誰あれ!?」


「きゃー! あれが結城颯くん!?」


 


名前が次々に観客の口から漏れる。俺のことなんか誰も知らなかったはずなのに


今、この走りで初めて『俺』という存在がみんなの視界に入った気がした。


 


そのまま、トップでバトンを繋いだ。


「はー……はー……あと二回か……」



その後のリレーは無事成功し、俺たち赤組は午前の部を一位で締めくくることができた。


「はー……はー……マジで……きつ……」


体力はかなり削られたが、今までの練習の積み重ねがあってこその結果だろう。



そんな俺の元に、次々と女子が群がってきた



「すみません、結城颯くんだよね!?」


「写真撮ってくださいっ!」


「速すぎてヤバかったです!」


「イケメンすぎでしょ……」





 わーっと押し寄せてくる上級生たち。囲まれ、カメラを向けられ、次々に言葉を投げかけられる。



(駄目だ、疲れすぎて……声が出ない……)


 

「こっち!」


 


視界の端から現れた手が、俺を引っ張ってくれた。


 


「……如月」


「まったく……ちょっと目を離したら、すぐ女に囲まれるんだから」



「……助かったよ。ありがとう」


 


どこか拗ねたような、でも嬉しそうな如月の表情が、やけに胸に残った。


 


「とりあえず、午前の部は終了だな」



「うん! お疲れ様! あの……」


 


如月は何かを言いかけ、照れたように目を逸らす。


 


「……すごく、かっこよかったよ」


 


(うわ、なんだそれ、可愛すぎるだろ……)


「……あ、ありがとう」


 


「さ、午後に備えてお昼食べよっ!」


「……おう」


 


* 


午後。体育祭の最大の山場であり締めまくる大トリ、色別対抗リレー。


俺は赤組アンカー。相手は――金剛先輩。陸上部の絶対的エース。


まさに、格上の存在との一騎打ちだった。



*放送

それでは色別リレーの選手が入場します。拍手でお迎えください。


 


「はーくん頑張って!」


「はやてくん、全力でいこう!」



(真斗に先輩、俺を応援してくれてる)


 「はーくん! 颯! 頑張れ!」


あいつら(雫と美羅)も応援してくれるのか、




「お前が……結城颯か」


「……金剛先輩ですね」


(こいつ……まだ俺が三井と手を組んでたことに気づいてない……好都合だ)


 


「悪いが、このリレーでお前の人気、地に落ちるぞ。せいぜい足掻けよ?」


「……変わらずクズな兄弟ですね」


「ふん、あいつとは違う。俺は“完成された存在”なんだよ」


 


いよいよ、始まる。


 


――位置について。よーい……ドン!


 


トップバッターの神城が爆走する。さすが全国陸上経験者。次に如月。2年の先輩も力強く走り抜けて、勝負はいよいよ終盤へ。


 


「きゃー! 石井くーん!」


「いけー! かっこいいぞー!」


 


石井がバトンを持って走る。流石の陽キャ、ちゃんと足も速い、走っている姿もさまになっている。そして


 



*放送


「いよいよアンカーです! 勝負の行方は――!?」


 


――ガチャン。


「おっと!? バトンミスです!!」


 


(ウソだろ……!?)






俺は今までの体育祭練習の中で石井とのバトンパスは失敗したことがないむしろ完璧だったと言える、だからこそ分かる、石井のバトンパスは、意図的なズレだった。つまりわざとだ。



(でも、今はそれを考えている場合じゃない……けど……)


 


――過去の記憶が蘇る。



「最悪……このリレー勝ってたら優勝だったのに」


「誰のせい? ……あの豚男でしょ?笑」


「ねえ笑 聞こえるって笑」



(……また、俺のせいで……またあの目で見られるのか……)


 


しかし――


 


「頑張れ!颯!!」


「はーくん頑張れ!」


「はやてくん!諦めないで!!」


「颯!ヒーローになるんでしょ!!」


 


わちゃわちゃしている歓声の中でもみんなの声が重なり、俺の胸に響いた。


(……まだ、負けてない)


 


俺は、バトンを再び握り直す。


 



「いけーーーーーっ!!」


 赤組全員が応援する。



アンカーの俺が、爆走する。距離はある。だが200m。まだ、間に合う!


 


(如月とのトレーニング、真斗のフォーム解析……全てが、今に繋がっている!)


この時俺は気づいていなかった、ゾーンに入っていること。

 


おそらく50mは5秒台だっただろう。風が割れ、地面が遠ざかる。


 



「よし、これで一位は確定だ笑、石井はよくやってくれたよ笑、後は俺が勝ちあいつのイメージを下げ俺がイメージを上げ、絶望の顔を見てやる笑」



 


*放送


「赤組速いぞ! 白組との差がどんどん縮まる!!」


 

「は?」



「なんで……!? バトンミスしたのに、なんで後ろから来るんだよ……!



くそがぁ!!」


 





パァン!!


 


ゴールの銃声が、空に響く。


 

「うおおおおおおおぉぉぉぉ!!」


 


逆転ーーー!!


 


「颯!すげぇ!!」


「かっこよすぎる!! 颯くん最高ー!!」


 

俺はゴールと同時に、真っ先に如月と真斗へ駆け寄り、勝利の拳をぶつけた。



 


その背後で――


「金剛先輩、1年に負けたってマジ? 陸上部エースでしょ?」


「いつも調子に乗ってるからだよ笑」


「自分過信しすぎだったね、ザマァww」


 


会場は騒然としながらも、熱狂に包まれていた。


 


    俺は今、たしかに“ヒーロー"だった。









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