第一話 ターニングポイント
春ヶ崎高校 1年C組――
きっと、ほとんどの高校一年生は入学早々、友達ができるか不安になったり、勉強の難しさに戸惑ったり、部活への期待で胸を躍らせているんだと思う。
でも――この俺、結城颯は、そうは思わなかった。
なぜなら、生まれた時点で人生の勝敗は決まっているからだ。
親が金持ちなら、金に困らない。
運動ができれば、周囲にチヤホヤされてスポーツの道を歩める。
勉強ができれば、いい大学に進学していい会社に就職できる。
顔が良ければ、人生の選択肢は無限に広がる。
……俺は、そのどれにも当てはまらない。
片親で母親は俺に無関心。
昔からずっとデブで、ブサイクで、勉強もできない毎回赤点ギリギリ、もちろんスポーツだってできやしない。
ルックスのせいで自信も持てず、話したことのある人間は片手で数えるほど。
コミュ障で陰キャ――それが、俺という存在だ。
*
入学初日、最初のホームルームが終わったあとの休み時間。
クラスのあちこちで会話が弾み、グループができはじめる。
小中で身につけたコミュ力で、新たな友達を作ろうとするクラスメイトたち。
その光景を、俺はただ、教室の隅から眺めていた。
……情けない。本当に情けない。
*
あっという間に一ヶ月が過ぎ、クラスには明確なカーストが出来上がっていた。
誰もが一目で分かる“陽キャ”の一軍グループ。
それに群がる、キャピキャピしたギャルたち。
そして二軍、三軍と続いていく。
当然、俺はどこにも属さない“ぼっち”で“陰キャ”だ。
小中学校の頃は、いじめの対象にならないように、できるだけ影に徹して生きてきた。
でも、高校ではそんな姑息な手も通用しなかった。
今では、陰口にさらされる毎日。
「キモ男ランキング」「ブスランキング」なんてものが陽キャ女子の間で作られて、俺はその両方で堂々の第一位だ。
なかでも最も悪質で、俺が心から嫌悪しているのが――C組のトップカップル。
石井 蓮と三井 美幸だ。
石井は勉強こそできないが、高身長イケメンでスポーツ万能。
裏ではファンクラブまである人気者。
性格は特別と言って悪くはないが、“正義感”という名の暴力で俺を苦しめている。
三井が「颯くんが私を変な目で見てくる」などと嘘を吹き込めば、石井はそれを鵜呑みにして俺をクラス中の笑いものにした。
いつの間にか、俺は「変態」や「ストーカー」扱いされ、教科書や私物が消えたり、歩くだけで陰口が飛んできたりするようになった。
三井は、校則破りの巻き髪のロングヘアに、教師にも食ってかかる気の強さ。
入学して二週間で石井と付き合い始め、いまや“学年のマドンナ”。
……反論できない自分が、本当に腹立たしい。
*
そして――夏休み前日。
「今日もどうせ、憂鬱な一日になる。でも、明日からは夏休み。少しはあいつらから解放されるはずだ」
そう思いながら、教室に入ったその瞬間――異様な雰囲気を感じた。
俺の席の周囲がざわついている。
視線が、俺に突き刺さる。
「……なんだ?」
近づくと、自分の机の上に――“女性用の下着”が置かれていた。
その隣で、三井が目を真っ赤にして泣いている。
何が起こっているのか分からないまま、教室中の視線が一斉に俺に向けられた。
「てめぇ、なにしてんだよ?」
怒声と共に、石井が俺の胸ぐらを掴んできた。
殴られそうな勢いに、言葉が喉で詰まる。
「黙ってるってことは、認めたってことだよな?」
「ち、違う……!」
「だったら証拠はあるのか? やってないっていう証拠がよ!」
絶望してた時、ふと思い出した「俺には数少ない二人の友達がいるしかも幼馴染だ。昔よく家が近く小さい頃遊んでいた」
「私将来絶対にはやてくんが困っていたら助けてその恩返しにはやてくんと結婚していい家庭築くのが夢なんだよねー」「私だってはやてくんが困っていたら絶対に助けるもん!もちろん結婚も!!」
その一人の幼馴染の牧野美羅通称みーちゃんがこのクラスにはいる!みーちゃんは顔はもちろん髪の長さに合うスタイルはモデル級によく、性格はおしとやかでそんな俺は密かにみーちゃんに憧れていた。
俺はみーちゃんに目を当てたが、そこには気まずそうに周りの人間に合わせて俺をゴミを見るような目で見ていた。
その時俺は心の底から絶望というものを感じた。
「こんな見た目だけど俺のことをよく知ってるみーちゃんならと大丈夫かなと」
何度も自分が嫌になる時にうっすら考えていたがこの瞬間を待って自分の中で何かが崩れた。
「もうどうだっていい」
石井が再び発する。
「てめー認めるのか?」
「俺が何か言ったらみんなは信じてくれるのか?」
信じてもらえるはずがない。
「誰が、あのキモデブ男の言うことなんて信じるかよ」
そんな声が、あちこちから聞こえてくる。
そう、この世界は弱肉強食。
力のない者は、声すら届かない。
俺は――完全に孤立していた。
*
放課後、職員室に呼び出された。
先生は一応話を聞いてくれたが、俺が「やってません」と言っても、納得した様子はない。
証拠がないから処罰はされなかったが、疑いの目を向けられているのは明らかだった。
下駄箱へ向かうと、そこに見覚えのある姿が立っていた。
――もう一人の幼馴染、近藤 雫
通称“しーちゃん”。
中学では疎遠になっていたけれど、小学校までは仲良く遊んでいた友達だ。しーちゃんは昔からの憧れだった。きっとしーちゃんなら信じてくれるはず。
「しーちゃん! 久しぶ――」
パァンッ!
乾いた音が廊下に響いた。
左の頬に火が走る。
目の前には、怒りを露わにした彼女がいた。
「あんた、何してんの!? 自分がやったこと、どれだけヤバいかわかってんの?」
「しーちゃん、俺やってない濡れ衣を着せられたんだ……信じて?……」
「信じるわけないでしょ。その見た目で」
朝での光景が脳裏に浮かぶ。
……また、裏切られた。
「あー、そっか。君も、そっち側だったんだな」
「ちょ、待ちなさいよ! まだ言いたいことが――」
その声を振り切って、俺はその場から逃げるように走った。
涙が止まらなかった。
誰か一人でも信じてくれたら、違ったかもしれない。
でも、俺には何の才能もなかった。
*
家に帰ると、待ち構えていたのは――母、結城 佐恵子。
「ちょっと、来なさい。先生から話は聞いたわ。で? 何か言うことある?」
昔は明るかったはずの母は、父が死んだと同時に変わってしまった。
妹には優しいが、俺には常に冷たい、正直俺はこの人に希望なんて抱いていないだからこの会話俺は一言も発することはなかった。
でもそのとき、母の顔に――一瞬だけ“心配”のような感情が浮かんだ。
……なんだ、今の。
「もういいわ。部屋に戻りなさい」
*
夜。
ベッドに横たわり、今日一日を振り返るどうしても涙が止まらない。
そして、自然に口をついて出た。
「……死にたい」
この体が嫌いだ。
この顔も、この世界も、全部嫌いだ。
誰にも必要とされていないなら――生きてる意味なんてないじゃないか。
楽な死に方を探して、ネットで呟いた。
すると一件の通知がすぐ鳴った。
「まだ投稿して数秒だぞ? ん?」
そこに表示されていたのは――
「君は、絶対に死なせない。」と書かれてあった。
みなさん初めまして!フジチカです。これが最初の投稿となります。自分はまだ若く小説の経験が浅いので厳しい意見などあると思いますが、温かい目で見ていただけると嬉しいです。それに感想やアドバイスなどあれば嬉しいです!