第6話 初めての冒険者登録
食事を終えた二人は、街の中心部にある冒険者ギルドへと向かった。
石造りの堂々とした建物で、入口の上には剣と盾の紋章が掲げられている。扉を開けると、奥には受付カウンター、その左右に掲示板と腰かけるスペース、そして各ランク別に仕分けられた依頼表が並んでいた。
「この時間でも……けっこう人がいるんだな」
蓮が周囲を見渡しながら呟く。中には鎧に身を包んだ者や、大きな武器を持った者もいて、いかにも「冒険者」といった風貌の人々が雑多に集まっていた。
「さっ、登録するよ。受付に行こ!」
リザが笑顔で手招きし、二人は受付の女性のもとへと歩いていく。栗色の髪を後ろで束ねた事務的な雰囲気の女性が、落ち着いた声で対応した。
「新規登録ですね。お名前をお願いします」
「蓮、です」
「保証人は?」
「リザ・エストレア。彼、私の同行者です」
「確認します……はい、リザ・エストレア様の登録はございます。では、蓮様をブロンズランク・下級として登録いたしますね」
「思ったよりもあっさり登録できたな……」
カウンターの裏から、小さな銅色のメダルが取り出された。表面には「REN」の文字が刻まれ、端にはヒモを通す穴が空いている。
「こちらがギルドタグになります。首から提げても、腰に下げても構いません。タグの紛失にはご注意ください。再発行には料金がかかります」
蓮は受け取ったメダルをまじまじと見つめた。
――異世界で、俺の名前が刻まれた証。
その事実に、ほんの少し胸が熱くなった。
「よし、これで冒険者の仲間入りだね!」
リザが軽く拳を掲げ、蓮も小さく頷く。
「ありがとう、リザ。これから頼りにしてるよ」
「ふふ、頼られるのは嫌いじゃないしね!」
二人はそのまま、依頼掲示板へと足を運んだ。リザはシルバーランクのタグを提示して、掲示板の一部に仕切られた“シルバーランク対応”の依頼表も確認できるようにする。
「リザがシルバーランクだから、高めの依頼も行けるんだよな?」
「うん。けど、今日は最初だし……簡単な採取系がいいと思う。森で薬草を拾ってくるだけのやつとかね」
「了解。まずは慣れるところから、だな」
ふたりが依頼表を眺めていたその時、ギルドの扉が勢いよく開かれた。
入ってきたのは、4人組の冒険者グループ。全員が無骨な装備に身を包み、その中でも先頭に立つ男の姿は特に目を引いた。赤い羽根飾りをあしらった黒のマント。鋭い目つきと、やや疲れた表情。リーダー以外の三人も、どこか殺気立ったような雰囲気を纏っており、場の空気が一瞬張りつめた。
「……《赤鷹の牙》だ」
周囲の冒険者が小さく呟いた。
リザは、すっと蓮の影に隠れるように一歩下がった。表情が一瞬で険しくなり、視線を合わせないようにしている。
「知り合い?」
「うん……昔、一緒に組んでたパーティー。もう、抜けたけどね」
《赤鷹の牙》のリーダーが辺りを見回し、ふとリザの姿に気づいた。途端に、その顔が明らかに歪む。
「……リザ、てめぇ……」
ぼそりと呟いたその声には苛立ちが混じっていた。目の下に疲労の影を浮かべながら、彼はほんの一歩だけ、こちらへ歩を進める。だが、それ以上は近づいてこなかった。
「行こ、蓮」
リザが低く言い、蓮の腕を軽く引いた。その手にはわずかな震えがあった。
「……あいつら、リザに何かしたのか?」
「別に……ただ、役に立たないって言われて追い出されただけ……」
リザは苦笑しながらも、その目には悔しさが滲んでいた。
「そっか、でも今日からは俺と新しいパーティーを組むんだし、そんな顔するなよ」
蓮の言葉に、リザはほんの少しだけ目を見開き、それから柔らかく微笑んだ。
「……うん、ありがと」
ふたりは依頼表から一つ、草原近くで採れる薬草の採取依頼を選び、受付に向かった。
冒険者としての最初の一歩。
その背中には、確かに新たな絆が芽吹いていた。
村から少し離れた草原を抜けた先、小さな雑木林の縁に二人は立っていた。日差しは柔らかく、風に揺れる草の匂いが微かに鼻をくすぐる。
「この辺りに薬草が群生してるって聞いたんだけど……」
リザが右手をひらき、人差し指をそっと地面に向けた。
「チョコ、お願い」
淡く光が瞬き、そこから現れたのは、つやつやとした毛並みのチワワだった。毛色はチョコレート・タンで、瞳は琥珀色にきらめいている。
「この子は俺が昔飼ってたチワワより、鼻が長くて……なんかハンサム顔だな」
蓮が思わず笑いながらそう言うと、リザもくすりと笑った。
「でしょ? この子は“チョコ”。鼻がすっごく利いて、追跡とか探索が得意な子なんだ」
チョコは地面に鼻を近づけ、くんくんと匂いを嗅ぎながら歩き出している。何かを探しているのは一目瞭然だった。
「もしかして、チワワーズってそれぞれ得意なことが違うの?」
蓮の問いに、リザは軽く頷いた。
「うん、それぞれ個性があるの。紹介するね」
リザは一匹ずつ、地面にチワワーズを具現化しながら話し始めた。
「まず、前に蓮の擦り傷を舐めて治した白い子が《バニラ》。舐めることで傷を癒せる子で、回復担当」
「へえ、あれで回復魔法みたいなことできるのか。すごいな」
「次が、戦闘担当の《クッキー》。ブラック・タンのチワワで、気が強くて戦闘向き、牙が長くて敵を噛み切るのが得意。私の戦闘用の魂装もこの子の力から来てるの」
「クッキー……名前とのギャップがすごいな……」
「ふふ、よく言われる。で、幻惑担当が《ミント》。ソリッドブルーの子で、鳴き声で敵を混乱させたり、素早く動いて陽動したりもできるよ」
「幻惑系までいるのか……」
「そして最後が万能型、《トラさん》。ブリンドル模様の子で、基本なんでもできる。判断力が高いから、ほとんど放っておいても大丈夫。サポートも攻撃も状況に応じて自分で判断して動けるんだ」
「チワワって……なんか、もっとこう……ただ可愛いだけだと思ってた」
蓮は感心したように呟いた。
「出来ることの幅、広すぎだろ。可愛いだけじゃなかったんだな、ほんとにすごいよ」
リザは少しだけ黙り込んだ。そして、ぽつりと口を開いた。
「前のパーティーではね……“戦闘能力が低い”って、いつも見下されてた。私なりに補助を頑張ってたつもりだったけど、結局……認めてもらえなかった」
その声には、かすかな悔しさが混じっていた。
「でも、蓮がそう言ってくれると……なんか、報われる気がする」
「リザがフリーでいてくれて、俺はラッキーだったよ」
蓮がさらりと言うと、リザは一瞬目を丸くして、それから頬を赤く染めた。
「……もう。ありがと」
その時だった。
「ワン!」
チョコが一声高く吠え、ぴょんと跳ねるようにして走り出した。
「見つけたみたい!」
リザが声を上げ、蓮とともに駆け出す。木々の間を抜けるように走るチョコの後を、二人の足音が追った。
薬草採取の依頼――
それはたった一つの雑務に過ぎなかったかもしれない。だがそこには、二人の新しい絆と、小さな冒険の確かな始まりがあった。
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