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金田悠矢

 気が付くと、教科書を落とす準備をしていた。

 2時間目の化学の授業が終わり、今日は午前授業なので、あと2時間で退屈な授業とお別れできると思うと、少しスッキリとした気分になる。

 授業と授業の間のこの10分の休み時間は、本来、次の授業の準備時間として活用されるためにあると聞いたことがあるが、そのように活用する生徒はほとんどいない。次の時間があの退屈な世界史とあってか、なおさらそのような生徒がいないように感じる。

 「悠矢、悠矢」

 俺を呼ぶ声が聞こえて、後ろを振り返ると、そこに池田広木がいた。

 「何だい?」

 池田広木の顔が、急に真顔になった。深刻そうな雰囲気を漂わせている。そして、口を開く。

 「あのさ、悠矢に頼みたいことがあるんだよね。」

 池田広木は、くだらない奴だ。別に悪く言っている訳ではない、ただ本当にくだらない奴なのだ。

 池田広木が、真顔で何か言うときは、99%と言っていいほど、たいしたことではない。

 「何だい?」

 笑いそうになるのを堪えながら、俺も真顔で返事をする。

 「次の世界史の時間に、少しの間みんなの注意を引くことをやってくれない? 悠矢、そういうの得意じゃん。」

 池田広木が、一転してにこやかに言う。

 「えー、何で? 大体、俺そういうの狙ってやってないからね。」

 俺は、何かとみんなの注目を集めることをしてしまうらしいが、別に狙っている訳ではない、毎回たまたましてしまうのだ。

 「何でかと言うとね、うーん、そうだな… 例えば、悠矢が知ってる人が描いた絵と、知らない人が描いた絵、どっちの方が見てて面白いと思う?」

 俺は、少し考えた。

 「知ってる人が描いた絵かな。」

 「俺も知ってる人が描いた絵だと思う。知ってる人が描いた絵は、描いた人を知っているから、色々なことを思う、だから面白い。知らない人が描いた絵は、絵だけしか見えない、だから、知っている人が描いた絵と比べると、あまり、面白くはない。そう、それだ。」

 「どれだい?」

 俺は、笑いながら聞く。

 「俺は、絵だけを見てもらいたい。」

 俺は、困った。話が全くわからなかった。

 「絵だけ見てもらうために、俺が、みんなの注意を引くってこと?」

 「そういうことです。」

 池田広木が、笑いながら言った。

 「あっ、あと、俗に言う、サプライズってのも兼ねてる。」

 池田広木が、またも、笑いながら言った。

 「えー、やだな、やりたくない。」

 俺は、初めから断ろうと決めていた。

 「悠矢なら、狙っても許されるって。てか、悠矢しか、許されない。」

 なおも、池田広木は説得しようとしてくる。

 「それでも、やだな。」

 「なら、じゃんけんしよう、俺が負ければ、きっぱり諦めるし、悠矢が負ければ、悪いけど、やってもらうってことで。」

 池田広木が提案してきた、俺は、頼まれているのだから、俺のほうが立場的に上のほうなはずなのに…

 「じゃんけんしないとだめ?」

 一応俺は聞いてみた。

 「流石にね。」

 池田広木が笑いながら言う。

 俺は、観念した。いつもといえば、いつも通りなのだが、なぜだか、じゃんけんをしないと相手に悪い気がして、つい、じゃんけんをしてしまう。

 「わかった、わかった、負けたら、きっぱり諦めてよ。」

 「おう」

 そして、じゃんけんが始まった。

 最初はグー、じゃんけん……

 そして、気が付くと、教科書を落とす準備をしていた。

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