池田広木
塾のテストが終わり、友達と2人と外に出た、雪がチラチラ降っている。
とんとん拍子に事が進み、気が付くと、友達の携帯電話を片手に、前田未来さんの自宅へと電話をしていた。
「テゥルルルルル……テゥルルルルル……」
電話のコール音が続く。コール音が続くごとに、「今ならまだ間に合う」「こんなことはやめてしまおう」と訴え掛けてくる自分の権力が増していく。防具は無く、槍のみでラスボスに挑むようなものだという事は、どの自分も自覚していた。
「もしもし、前田ですけど。」
「え…狭葉中学校、3年1組の池田広木ですけど、前田未来さんいらっしゃるでしょうか。」
鼓動が一気に速くなった、後から思えば、このとき俺の周りだけ雪が溶けていても不思議じゃないように思えた。前田未来さんの母親が電話に出たというイベントで、俺の槍の矛先の欠ける音が聞こえた。
「あっ、はい、今代わりますね。」
そう言うと、電話に音楽が流れ始めた。その音楽の軽快なメロディーとは裏腹に、不安がどんどん募る。
「もしもし…」
「あっ、狭葉中学校3年1組の池田だけど、前田さんですか。」
「はい…」
自分は、前田未来より1つ年上なのだが、どうも女の子を呼び捨てにするのは苦手らしく、「前田さん」と呼んでしまう。
「今から外来れる。」
何気ない口調で言うことが出来て、緊張しか感じていなかった僕の心に少しの喜びを感じた。
「え…、あ…、今はちょっと、行けないです…。」
「…そっかぁ、急に変なこと言ってごめんね。全然大丈夫だから、気にしないでね。」
自分が槍だと信じていたものが、単なる木の枝だったということに気付いた。同時に今まで気付かないふりをしていただけだという事に気付かされた。
「はい……、すみません。」
「いやいや、本当に大丈夫だよ。いきなり言った俺が悪いし…」
このとき、自分の中のラスボスに勝利した。たぶん、電話をかけた時点で勝利していたのだろう。
「嫌だったら、全然断っていいんだけど、本当に、全然断っていいんだけど…」
つい防衛線をはってしまう。テストが終わり、点数が悪かったときのショックを和らげるために、「全然出来なかった」と周りの友達にあらかじめ言っておくのと同じだ。自分の弱さが出てしまう。
「俺、前田さんのことが好きです。付き合ってください。」
「え……、あ………」
沈黙が続く。結果は見えているのに、まだあるはずのほんの少しの希望を信じている自分がいることに驚く。そして、結果は見えているはずなのに、僕の心は、なおも、緊張と不安を感じている。
「あっ、全然気楽に考えてね、全然断って大丈夫だから。」
沈黙に耐え切れず、つい言葉を発してしまう。さらに防衛線をはる。自分の弱さに嫌というほど気付かされる。
「……ごめんなさい」
電話から聞こえてきたのは、本当に申し訳なさそうな「ごめんなさい」だった。
「あぁ、やっぱりかぁ」内心でそう呟く。
「あっ、全然大丈夫だよ、急に変なこと言ってごめんね。全然気にしなくていいから。」
自分の不甲斐なさが嫌になる。何が「全然気にしなくていいから」だよ、この偽善者ヤロー。
「……ごめんなさい」
再び電話から聞こえてきたのは、本当に申し訳なさそうな「ごめんなさい」だった。改めて俺は…。
そんなことを2時間目の化学の授業に思い出していた。昨夜、前田さんからのメールが届いたことが大いにそのことと関係してるだろう。
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