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二章【終】よぅι゛ょとおじさん。〜神々の越境救済(クロス・レデンプション)〜  作者: 櫻井
状況整理の章

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15.仮説・実験・検証

「なん……じゃ、こりゃぁぁぁぁっ! 」

「ロン? 」


 泉の水を飲もうと水面を覗き込んだ廿日市は、そこに映った自分の顔に驚きレトロな絶叫を上げ、その声に驚いたアンナが食べれそうな木の実を物色していた手を止め、慌てて廿日市の元へ戻ってきた。


「わ」

「わ? 」

「わ」

「わ」

「若返ってる」


 愕然とする廿日市をアンナは不思議そうに見上げるのであった。


「ロンは、お髭が燃えてからずっとロンだよ? 」



  ∵ ∴ ∵ ∴ ∵



 そろそろ昼時に差し掛かろうかという頃、廿日市はアンナが楽しみにしていた泉に辿り着いた。


 虹へびの小石に囲まれた道が主要道路にあたる街道ならば、泉のある場所は街道から少し外れた森の中にあった。注意深く木々の間を目を凝らして見れば、水面が照り返す光に気付くため隠れた名所という訳ではないだろうが、常に街道を利用している人間だけが知る場所なのだろう。

 二人が辿り着いた時も、そして今も、泉の周辺で休憩している人間はいない。


「アンナ。さっきみたいに食べれそうな木の実を探してきてくれるか? 」

「うん」


 廿日市に頼まれたアンナは、元気よく返事をすると果実を探しに茂みの中に入っていく。その背中を見送った廿日市は、ようやくといった感じで荷物を下ろし、背伸びをして体をほぐした。

 着の身着のままの二人は、食糧の持ち合わせも勿論無い。それでも適度な水分補給と腹を満たしてここまで歩いてこれたのは、アンナが森の食べ物に詳しく目敏く見付けては口にしてきたからだ。

 ほぼ勘の廿日市と違いアンナは明らかな知識として食べ物の見分け方を知っていた。

 山に生きるということは、幼い頃から自然とそういった知識を身に付けていく事なのかもと感心頻りの廿日市だった。


「四十男には、堪えるな」


 トントンと肩を叩きながら泉に近づいていく。小人が用意してくれた鞄は、本当に重さを感じさせない優れものだった。

 靴も水の上を歩いているような柔らかな踏み心地で疲れを感じさせない。

 小人印の道具は、どれも最高品質だった。問題は、それを扱う廿日市の基礎体力。

 アンナの体重は、二十キロ無いくらいだったがそれでもなかなかの重さだ。彼女が疲れた顔を見せれば、すぐに抱き上げて歩いてしまう過保護さで廿日市はゴリゴリとHPを削られていた。


「水飲もう」


 アンナが選んでくれた果実は、甘いもの、少し酸味が含まれているものと食べやすく喉も潤ったが、やはり味があるというのは後味が口の中に残ってしまって辛かった。


 この泉も湧泉の類いだろう。地下水がろ過されて湧出したのならば、飲み水としても問題はない。そう考えた廿日市が泉の畔に膝をつき、水の透明度を確かめようと水面を覗き込んで動きを止めた。


 鏡を見たのは、この世界に来る前の朝だ。顔を洗い、歯を磨き、髭を剃るときに見た。可もなく不可もなくのおじさんだった。


 ――そう、おじさんだった。


「なん……じゃ、こりゃぁぁぁぁっ! 」


 澄んだ水面に映る男の顔は、見覚えがある。


 そこに映っていたのは、まだまだ駆け出しのひよっこだった若者の顔。なんだか髭が濃くなり始めたような、なんて悩みを抱く前の頃の顔だ。それから数年して、しっかり髭は顔のなかで市民権を得た。


「ロン? 」


 廿日市の叫びに驚いたアンナが急いで彼の傍らに戻り、心配そうな表情をして廿日市を見上げる。

 彼女にしてみれば、間近に廿日市を見ることができた頃には彼は既に髭面で、次に肉体が再生した時には今の廿日市の顔であったため、本人の戸惑いの理由がわからない。


「わ」

「わ? 」

「わ」

「わ」

「若返ってる」


 年齢のわりに落ち着かない性格だったかもだが、それでも精神年齢に体型が合わせてくるとかは聞いていない。


『キミたちの行い如何では見た目や年齢が変わったり、知識が増えることもあるだろうね』


(言ってた。言ってたわー。思いっきり、言ってたわー……)


 遡るのが肉体だけに止まらず、当時のサッカーブームに乗っかりソフトモヒにしていた髪型まで持ってくることはないだろう。

 髪の毛が立っていなければ、ただのおしゃれ七三じゃないか。


「ロンは、お髭が燃えてからずっとロンだよ? 」

「うん、そうだな。俺は、俺だな……」


 ガクリと肩を落とし、さめざめと涙を流す。


「どこか痛いの? 」

「ちょっと心がね。でも、大丈夫だよ。アンナが傍にいてくれたから楽になったよ」

「ほんとう? 」

「本当」


 廿日市は、木の実探しの続きをしておいでとアンナを送り出すと、ショタ神の言っていたことをしっかり思い出さなければと思考力を高めるため目蓋を閉じた。


『絶対幸福権』、『神々の愛児の理』、『キミの力で肉体を再生』、『信仰心』、『無限の奇蹟』、『世の理』、『神々の愛児』。


 グルグルと廿日市の頭の中を言葉が回る。


『絶対幸福権』ってのは、俺が生存する権利ってので間違いないだろう。俺が生存する為に、神の権能ってのを借りることができる。これが俺を助けるためにショタ神が捻り出した『神々の愛児の理』を利用した裏技みたいなモノって事だな。


 アンナから聞いた『神々の愛児』の話も、まぁ色々歪んだ部分は有るだろうが基本は勇者で、勇者思考のなれの果てみたいな話だった。


 そして『信仰心』。これの定義はどうなっているのか。


『信仰心さえあれば(・・・)神の御業を感じられる。つまり、無限に奇蹟を目の当たりに出来る』


 この言い方では、まるで自分に主導権はないような言い方ではないか。いや、主導権はないのか。


 俺が困ったとき、小人が現れて服と靴を繕った。これは精霊信仰ってやつの力だろう。小人の靴屋や小人の仕立て屋は、絵本にあるくらいのオーソドックスな話だ。多くの人が知っている。


 だが、どう考えても小人の靴屋とか仕立て屋は俺の世界の話だ。こっちの世界になんてナノレベルで関係ない。


 じゃあ、なぜ彼らが顕現できることが出来たのか。


『信仰心さえあれば神の御業を感じられる。つまり、無限()奇蹟を目の当たりに出来る』


『信仰心』と『信仰』は、別物ということか。


『信仰心』は、この世界のリソース。『信仰』は、俺の中に残された記憶(メモリー)。プログラムを実行させるトリガーと考えると収まりがいい気がする。


 この世界の人々が信仰を忘れない限り、俺には権能を実行する永久機関が与えられているって事だ。


(そして俺は、信仰対象となるような『何か』のもつ能力や逸話を一般教養レベルで認識している。もしくは、験担ぎレベルででも信じていることが重要……ってとこかな)


「ふむ」


 ふっ、と廿日市の集中力が途切れた。目を開き、外界の視覚的情報を脳へと取り入れる。


「神の奇蹟の最たるモノは、これだろうな」


 キョロキョロと周辺の草むらを見渡し、目的の物を見付けた廿日市は、それを手に取ると挟み込むようにもう片方の手を重ねて静かに息を吸い込む。


(水をワインに変え、パンを人数分増やした神の子の話は有名だが、日本にだって似たような話はある)


 手のひらに乗せた石の大きさから思い浮かべるのは、ホテルのモーニングビュッフェで食べ放題になってるホテルロール。


(大阪のホテルで食べたロールパンが旨かったんだよなぁ)


 味を思い出しながら手の上の石がパンに変わる想像をする。すると、手のひらに感じていた重みが消えた。


「成功か!?」


 蓋をしていた右手を退ける。残された左手の上には、艶やかな色を放つ芳ばしい香りを纏ったロールパンが鎮座していた。


保食神(ウケモチ)大勝利! 」

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