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二章【終】よぅι゛ょとおじさん。〜神々の越境救済(クロス・レデンプション)〜  作者: 櫻井
状況整理の章

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14.葬られた死

 廿日市が朝陽に感動していた頃、アンナを探す為に焼け跡に入っていく大人たちをメアリは自分の部屋の窓からじっと見ていた。


 不審火による出火は人々に不安を与えたが、ダニエウが二階から出火したことを証言し、確かに二階の床は焼け落ちてしまっていることからアンナの不注意でオイルランプを倒して燃え広がったのだろうと、アウヴェスたちは結論付けるに至った。


 オイルランプの油が撒かれ、火がつけられたことは正解だ。

 ただアンナの不注意ではなく、憎悪に我を忘れた大人たちの故意ではあるが。


 キノスクの大人が総出で瓦礫を退け、報われなかった小さな子供を探すが、体の一部すら見つからない。


 骨すら残さず燃えてしまったとは考えられなかったが、火が消えてから瓦礫を退かした形跡と真新しい獣の足跡らしきものが残っていたので、雨が上がってすぐの夜中のうちに獣たちによって持ち去られたのではないかと意見が上がった。


 わずか七才の少女の最期としては悲しすぎる。


 父親であるダニエウの顔は蒼白で、気丈に振る舞っているように見える姿は集まった大人たちの涙を誘った。


 真実は、燃やした筈の廿日市とアンナの遺体が見つからないことに焦りと安堵という相反する気持ちに心が裂かれ狼狽えていただけである。


 アンナ一人ならば、獣が持ち去ったというのも納得はできた。しかし、一緒にいた男の遺体まで消えているのである。


 あの場にいた三人以外、アンナが男と居たことは知らない。故に、獣に持ち去られたという方向で話が纏まり、日が傾く前に早々に捜索を打ち切ることとなっても異を唱える者はいなかった。


 この選択は、ダニエウ達にとって僥幸であったが、同時に得体の知れぬ不安も沸き起こるものでもあった。


 男は、盗賊の一味の筈だ。


 ダニエウ達が恐れから沸き上がる怒りで、命を奪ってしまったアンナと廿日市の遺体を燃やして消したかったのは確かだ。


 だが、突然の大雨にその計画も阻まれた。形あるものを壊し、無に帰することを許さぬと神が定めたならば従うしかない。


 それが、神の裁量ならば。


 燃え盛る炎が雨粒により勢いを失い燻るように消える頃には、ダニエウ達は震え、ひたすら神に許しを乞うため祈った。


 人々の目には、娘の慈悲を乞う善良な父親と情の篤い隣人に見えたことだろう。真実とは、いつも目に見えない箇所にある。


 ダニエウは、人々が立ち去っても虚ろな目に焼け跡を映し続けていた。


 まるで風にほどけるように世界から姿を消すのは、神々の愛児のみ――――。




「メアリ」


 窓辺から離れようとしないメアリの名を呼ぶ人が居た。


「母さん」


 振り返った少女の目に入ったのは、精気の抜け落ちた母親の姿。


「こっちにいらっしゃい」

「父さんは、まだ探してるよ」

「来るのよ。メアリ」

「アンナが見つからないって……」

「見つからなくていいの! 」


 メアリは母が恐ろしかった。気立ての優しい、常に微笑みを絶やさないような女性。てきぱきと家事をこなし、家畜の世話をこなし、愛する者たちを抱き締めてくれる。何処にでもいる理想の淑女(サザン・ベル)

 それが、アンナが関わると人が変わったように病弱で、神経の細い、よく床に伏す憐れな女性へと変身する。その事が、メアリの心に影を落としていることなど本人は知るよしもない。


「いらっしゃい。メアリ」

「嫌よ。行きたくない」


 メアリにとって、アンナはたった一人の大切な妹だった。

 だが、真っ直ぐな愛情を妹に向ければ何故か親たちが悲しむ。故にメアリは、アンナと共に住むことが叶っても人前で彼女を構うことは出来なかったし、静かな愛情をそれと判らぬように注ぐしかなかった。


「来なさい」

「……いや」


 今、この瞬間だって彼女は家から飛び出して焼け跡からアンナを探したい。けれど、そんな行動をとれば母親は泣き崩れ自分を許さないのではないだろうか。


「アンナのために祈るのよ」

「……」


 燃え盛る炎に向かい妹の名を叫ぶ自分を押し留めた母の顔は、物語の中で語られる悪しき精霊のようだった。


「聖使徒様が、迷わずアンナを見付けてくださるように」


 聖使徒様とは、天国の門をお守りになる方のことだ。まだ幼いメアリでも、それが死を意味することくらい判る。


「アンナは、生きてるよ! 」


 力の限り叫ぶ。


「いいえ。アンナは、神々の愛児が連れていってくれたの」

「愛児……」

「神々の愛児が現れたのは、きっとディフティン・マルテスに生まれてしまったあの子を迎えに来てくれたからだわ」

「そんな……! 」


 そんな都合のいい話をどうして考え付くのか。村の人たちは神々の愛児を嫌っていたではないか。愛児を嫌がり、話を聞こうとせず、放置をして……。その態度は、まるでアンナに対する両親の扱いそのものだった。


「祈りましょう、メアリ」


 白い顔の母。今になっても尚、アンナが暮らしていた納屋を見ようともしない。


「聖使徒様があの子を見つけ、神々の愛児があの子を無事、天の主様の元に導いて下さるように」

「母さんは……」


 喉の奥で声が絡まる。


「あの子が幸せになるように、祈りましょう」


 信仰心は、時に心を蝕み静かに人を殺す。


「メアリ。愛しているわ」


 母とは、一目子供の顔を見ただけで子の不調に気付くことがある。

 子が何か隠し事をすれば、それに機敏に気付くこともある。


 母の愛が信仰に勝ることがあったとしたら、母親はどんな行動をとるだろうか。


 そこには、許されない罪が横たわる。


 信仰心さえあれば神の御業を感じられる世界で祈りは、代えがたい力となる――――。

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