8決戦前
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おじいさんとおばあさんは二人の強力な仲間を引き連れ、元の世界へと帰ってきました。
「……想定はしてたが、とンでもねェクソ田舎だな」
「礼太君の世界とはまったく違うものね」
「こっちの世界もそう悪いもんじゃ……いや、今は最悪じゃった」
「そうね。鬼を退治して世界に平和を取り戻さないと」
「そうじゃな」
改めて鬼退治を意気込むおばあさんとおじいさんです。
『皆さん、とりあえず家に戻ってください。そこで今後の方針を定めましょう』
女神様のお告げに従い、四人は家に戻るのでした。 おじいさんと少年は暖炉の前に腰を下ろし、おばあさんはお茶の用意。ミツユキはおばあさんに付き添い、おばあさんの様子を興味深そうにじっと見ています。
おばあさんがお茶を人数分用意し、それぞれに配ってから作戦会議が始まります。
『まずは鬼ヶ島の状態について話しておきましょう。現在、鬼ヶ島は人間を奴隷として扱い、目まぐるしい発展を遂げています。かつての鬼ヶ島とは別世界と言っても過言ではありません。当然ながら、防備も万全です』
「……好き勝手やってくれるわい……」
「ひどいわ……」
『囚われている桃太郎も今は滅鬼の世話人としてコキ使われています』
「おぉ……桃太郎や……」
「今もきっと辛い目に遭ってるのね……」
『つまり、鬼ヶ島には倒すべき鬼と守るべき人間が混在している状況ということです。少年、人間を巻き込まないためにもあまり派手に暴れてはいけませんよ?』
「ちっ……」
『鬼ヶ島の上陸までは少年の力を借ります。問題は上陸してからの動きです。鬼を退治するだけでなく、人間の保護も必要なのです』
口にするのとは簡単ですが、内容は無理難題です。
『鬼の相手は少年、あなたに任せます。人間の保護はミツユキ、そしておじいさんとおばあさんの三人に任せます』
「待て。ジジイとババアも連れてけってェのか?」
『……心苦しくはありますが。ミツユキとあなただけでは、あなた達が人間の味方であるとは認識してくれはしないでしょう。人間の保護の方がままならないかと』
「………………」
「ワシらなら大丈夫じゃ。な?ばあさん」
「そうです。こう見えて丈夫なんですから」
おじいさんとおばあさんは力強く笑って答えます。
『私が護る。何が起ころうとも大丈夫だ』
「ありがとうね、ミツユキちゃん」
「頼りにしておるぞ」
ミツユキはおじいさんとおばあさんから撫で回されますが、振り払うことはしませんでした。
「おいクソアマ。鬼の妖術について聞かせろ」
『クソアマ!?あなた……何て口の利き方を……!』
「そうよ、礼太君。女神様にごめんなさいしなさい?」
「うるせェ。俺達をコマのように使って世界に干渉するよォなヤツだぞ。ロクでもねェヤツに決まってるだろォが」
「礼太君……」
『……あなたの言う通りでしたね。呼び方はそのままで結構です』
女神様は申し訳なさそうに謝ってから話を続けます。
『妖術の前に、鬼の王について話しておきましょう。初めに大事なことを伝えます。彼は鬼ではないのです』
「あァ?」
「ど、どういうことですじゃ?滅鬼が鬼ではないと?」
この世界の人間からすると、天地がひっくり返るような情報でした。 女神様は補足をします。
『姿は鬼なのですが、その本質は私と同じ。神と同じ奇跡の力を振るう存在……悪魔と呼ばれる存在なのです』
「悪魔だァ?」
『本来なら私が討伐しなければならない対象なのですが、私は下界に降りられないのです。だからこうしてあなた達の力を借りました。申し訳ありません』
「謝罪はいい。それより話を進めろ」
少年の物言いに女神様は苦笑すると、素直に話を進めます。
『……悪魔は対価と引き換えに、願いを叶える奇跡をもたらします。鬼が急速に力をつけたのは悪魔の奇跡によるものです』
「なるほどな。それで妖術に目覚めたってわけか」
『はい。鬼達が寿命を対価に得た力です。鬼は長命な種族なので、これ以上にコスパ……効率の良い対価は無いかと。他には身体能力、そして繁殖能力も得ていますね』
女神様の話によると鬼が急速に力をつけたのは悪魔の奇跡によるものでした。
「ちょっと待ってください、女神様。滅鬼が神様と同じ力を振るうだなんて……そんなのどうやって退治すればいいのですか?人間がどうにかでるものなのですか?」
おばあさんが心配そうに女神様に問いました。
『普通の人間ならば不可能でしょう。ですが、あなた達なら十分に勝機はあります』
「逆に俺達がやられる可能性もあるってことか?」
『…………あなたの力はとてつもなく強力ですが、絶対ではない。ミツユキの時のようなことも無いとは言えません』
「……ンなこたァ言われるまでもねェ。つい最近思い知ったばっかだ」
少年は憎しみを込めて吐き棄てるように言いました。
『滅鬼……悪魔の力は強大です。身体能力は鬼をも遥かに凌駕し、生命力も無限に等しい。ただ、残念ながら肝心の術に関しては情報がありません』
「肝心なところで使えねェ……」
『……あなたの力を発揮する上では生命線となる情報ですものね。すみません』
女神様は少年の不満を甘んじて受け入れ、謝罪しました。
『ならば滅鬼の相手は私がしよう』
「おまえ……」
ミツユキが初めて自分から役割を申し出てきました。
『人間の解放が済み次第、私が滅鬼と戦闘を開始する』
『適任かと。ミツユキの場合、きび団子による強化が色濃く出ているみたいですね。あながち過信というわけではなさそうです』
女神様はミツユキの申し出に賛同しました。
おじいさんとおばあさんは心配そうにミツユキに視線を向けますが、反対を口にすることはありませんでした。
「団子の強化……俺はどォなンだ?」
『あなたの生命力と身体能力は底上げされています。ですが『能力』そのものが強化されているわけではありません。能力で戦うあなたにはあまり恩恵は期待できませんね』
「……残念じゃったな」
「別に期待してねェ」
団子による強化はそれぞれに差があるようです。
「それで襲撃はいつにすンだ?」
『心苦しいですが、なるべく早くが良いかと。時間をかけるとその分だけ鬼も力をつけますので。大変かと思いますが、明日の明け方はどうでしょうか?』
「問題ねェ」
『こちらもだ』
「とうとう、じゃな」
「ええ。皆を助けましょう」
……こうして、決戦の時が決まりました。鬼と人間……果たして勝つのはどちらでしょうか。
どうか続きもお願いします。