幕間2 元????所属 非正規電脳作戦群『ハウス・オブ・ビースト』
「ワーム。報告を」
「あの、先輩……もう僕たちそういうのじゃないんですけど」
「あらごめんなさいね。でもちょっとね。頭来て」
「わかりますよ。僕もキレかけました。僕の世界がグッチャグチャにされたんですから」
「昔接収した軍事シミュレーターを改造したのよね。いい再利用だわ」
「変な連中に使われるよりゲームにした方がマシですからね。どこで聞いたのか、ハックしようとする連中はかなりいました。けど、今回はヤバった」
「悪意のない害意は一番危険ですものね。殺気のない殺傷力が一番怖いのと同じ」
「ごもっとも。だから、今回ばかりはハルトくんがいなかったらマジで手も足も出せなかったですよ」
「私たちも職を失うところだった。その点を見れば、本当にあの二人は英雄ね」
「先輩たちだけじゃない。僕が想像する以上にあのゲームは大きくなりました。それで収入を得てる人もいっぱいいる」
「そうね」
「そして僕がいなくても優秀な人たちが勝手に集まって世界を広げている。まさにフロンティアだ。国も流石に認めざるを得ないでしょうね。擦り寄ってくる政治家の数が倍になりました」
「そんな運営のトップを引っ張ってきて申し訳なかったかしら」
「いいですよ別に。言ったでしょ。あの世界はもう世界として成り立ってて、僕がいなくてもしっかり意思が動いてる。それに」
「それに?」
「さっきも言いましたけど……腹が立ってる。すごく」
「そう。安心したわ」
「で、タコさん達は?」
「オクトパス達は既に現場に待機してる」
「あのー先輩、もしかしてまだ火器とか……持ってないですよね?」
「そんなの持ってるわけないでしょ」
「ですよね」
「ただオクトパスがいるのはアメリカよ。私も個人的なお友達がいてね。色々と用意してくれたわ」
「アッハイ」
「で、つかめたのかしら。監獄破りと、イカれたアリスマニアの居場所は。特にCアリスを逃した監獄破り。コイツは野放しにできないわ」
「当然。おかげでアニメのリアタイを逃しました。これは高くつきますよ」
「流石ね」
「Cアリスの侵入経路からさかのぼりましたけど、色んなところを通りまくってて――なんとDARPA(アメリカ国防高等研究計画局)まで来てました。しかも素通り。ピンポンダッシュみたいなもんですね」
「完全におちょくってるわね。ピザで汚れた手をリトルなポニーの人形で拭いてるようなクソがやりそうなことだわ」
「一応、『お友達たち』には連絡してましたけどね。感謝もされましたよ。助かる、助かるってスパチャ投げるみたいにね」
「また貸しができるわね」
「――ママ、僕が言うと変ですけど……こんな事してたらまた追われちゃいますよ。足洗ったんでしょう?」
「ハルトきゅんが命の危機に晒されたのよ。マロンも。レモンもアケビも」
「大切にしてるんですね。みんなのこと」
「親御さんには聞かせられないかもだけど……『ダンジョンフレンズ』はみんな私の子供みたいなものだし、恋人みたいに愛しいわ。だから、どうしても我慢できない」
「……こわ」
「子供ができない体になったら、子供が愛おしくなるのよ」
「痛いほどわかってますよ。だから『ダンジョンフレンズ』同様、『インビシブルフロンティア』は積極的に恵まれない子供達への寄付をしてる」
「こちらオクトパス。ワーム、本当にこのビルなんだな?」
「ああタコさん。そうですよ。そこ。一階がバーになってる。けど、その上全部がそうです。監獄破りのアジトみたいですけど、カリフォルニアの変態も一緒にいます」
「了解。あと、作戦中はコールサインで呼べ」
「アイアイサー」
「久しぶりの現場だ。暴れさせてもらう」
「あのう。もう僕たち、元がつくってこと忘れないでくださいね? 資金はありますよ? コネもあります。お友達もいます。けど命は一つですから。みんな歳も取ってるし」
「問題ない」
「……頼もしい限りですね」
「少尉」
「突入を許可する。ワーム、ビルの電源を落とせ」
§
「こちらオクトパス。制圧完了。ジャスト15分だ」
「こちらワーム。ドローンで見てましたけど、一発も発砲しませんでしたよね?」
「こっちはコマンドサンボの使い手のジャガーもいるし、蟷螂拳の使い手のマンティスもいるからな。そもそも銃がいらん」
「あれ? ライノは?」
「稲葉家の護衛に出てる」
「VIP待遇じゃないですか……マフィアから守る気ですか?」
「ある意味、節操のないマスコミや配信者はマフィアみたいなものだ」
「なるほど。しかし三人でよく制圧できますね。武装した人が十四、いや十五人はいましたけど」
「こんな閉所なら素手で問題ない」
「ガチガチの防弾装備したタツジン三人が、真っ暗の中音もなく襲いかかってきたらそりゃ勝てませんか。楽勝でした?」
「どうかな。若い頃ならもう5分はタイムが短かった」
「さすがCQCの鬼。絡みついて骨をへし折る。それもハルトくんに教えました?」
「いや」
「彼ならすぐマスターしますよ? マロンさん同様に才能がある。そしてマロンさんのためと思ったなら尚更ね。いい性格してますよね、彼。ヒーローの資質がある」
「だからだ。教えないことにしている」
「優しいことで。殺人蛸と呼ばれていたくせに。医療を学んでいたのは人を壊す効率のいいやり方を知るため。そうですよね?」
「遠くにいるからって調子に乗ってるなワーム? 貴様も戦闘ドローンをハッキングして、テロ組織に地獄を見せた脳喰らいのくせに」
「何のことだか。僕が関わった案件に死者はいませんよ」
「言ってろ……それよりも、だ。サーバがあった。これを繋げばいいんだな?」
「そうですよ。あのカリフォルニアのど変態が何考えてたか知りたいんです」
「接続完了。少尉、このアホどもはどうします? どれが監獄破りかは分かりませんが、カリフォルニア出身のロリコン野郎は確保しました。特徴が一致します」
「もちろん『お友達』に引き渡す。札付きのハッカーよ。いい手土産になるわ。しっかり縛っておいて。必要があれば指導しておいて。顔面のど真ん中に」
「もうしておきました。使い慣れない銃なんて向けるからこうなる。当分はオートミールしか食べられんでしょう」
「おお怖い怖い。僕は文明的なお仕事しますかね――来た来た。ははあ。これはこれは」
「ワーム?」
「噂では聞いたことがあるんですけどね。仮想世界に警鐘を鳴らして、人工知能に人権をって頭のおかしい矛盾だらけの集団がいるんですけど……そのカリフォルニアのど変態はそこに属してみたいですね」
「はぁ。なるほど?」
「ママ、一気にやる気無くしました?」
「新しいものには必ずアンチが湧く。世界共通よ。懐古主義のクソどもに子供達が危機にさらされたかと思ったら馬鹿馬鹿しくなっちゃって」
「そう言って現場にいたら脳天に穴を開けるんでしょう?」
「さあね」
「こわ。ハルトくんには黙っててくださいね?」
「死んだ私たちがこうするのは一夜限りよ」
「ですね。僕たちは公式にはもう死んでることになってますから。経営者やゲームクリエイターとして表に出てもみんな知らんぷりしてくれる。そういう貸しを作ってる」
「こちらオクトパス。現場から撤収する。少尉、よろしいですね?」
「お疲れ様。急なお仕事ごめんなさいね」
「構いませんよ。たまに鉄火場に出るのも悪くない。古い戦友にも会えて良かった。それでワーム? そのアンチどもの名前は何て言うんだ?」
「えーっと【Dー1956】って書いてありますね」
「【Dー1956】? 聞いたことが無いな。少尉はご存知ですか?」
「いいえ。ワーム?」
「僕は検索バーじゃ無いですよママ……ただまあ、1956って言ったら」
「言ったら?」
「そこのAI創造主から察するに……1956年。Dってのは『ダートマス会議』の事かもしれないですね」
「ダートマス?」
「ええママ。アメリカ合衆国ニューハンプシャー州ハノーバー市に本部を置く、アメリカ合衆国の私立大学。そこで1956年に行われた会議では――」
「世界で初めて、人工知能という研究分野が確立したんですよ」
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