表
異質な雰囲気を醸したワンルーム。私達の輪郭を示すのは、微かな月光のみだった。
優は背中を壁に押し付け、私に怯えながら呻く。
「や……めろ……」
優の制止に耳を傾ける筈も無く、私は右手に携えた銀色に煌めく切っ先を優に向けた。
「もう手遅れよ。優が他の女と毎日毎日会っているのは知ってるの」
「……ち、違う! それは――」
「何が違うっていうの? じゃあ、この写真は何?」
そこには優と女が手を絡め合う様子が写っていた。これを見せつけた瞬間、優から狼狽の色が漏れ出した。
「ホントに違う! そいつはただの――」
「だから言ってるでしょ? もう手遅れだって」
優の言い訳など聞きたくなかった。それでも尚、釈明を続けようとする優を、私は右手で黙らせた。正確には、鋭利な先端で。
純白のワイシャツが紅色に染まり始める。同心円状に広がる紅の波紋は、優を少しずつ蝕んていった。
優は死と抗いながら、尚も掠れた言葉を紡ごうとする。
「コ、殺ス、気ダ……」
私は優の発する言葉が可笑しくて堪らなかった。何を今更駄弁っているのか。
「そうだよ! 私はお前を殺す気だよ!!」
優は何かに縋るように、またも呻き声を上げた。
「違、ウ、コ殺、ス、気ダ……」
掠れ切った優の声帯が、これ以上言葉を発する事は無かった。優の瞳は涙で濡れていた。