episode8〜ピンチとピンチ〜
初連載の続きです。なんとか毎日投稿出来てます。ゆるく読んでいただければと思います。
………
暗闇を背負いながら、ベッドの上で頭を抱えている一人の少女。
リヴール家の末娘、カヌアーリ嬢である。
あの後、四男ミルサに何気なく聞いてみたのだ。
そう、デビュタントの例の件である。
しかし、その結果更に心が騒つく事となった。
彼は真っ直ぐな瞳でこう言った。
「将来の結婚相手に、なるかもしれない人だもんね! それは慎重になるのもわかるな。僕がパートナーになれたら良かったんだけどねぇ。頑張って! 楽しみにしてるよ!」
(楽しみにしてるよ… たのしみに… してるよタノシミニ…… )
そして今、カヌアは頭を抱えてベッドの中で嘆いていた。
(ぐぁぁぁぁあ、なんてこっったいっ!)
そう… カヌアは勘違いをしていたのだ。
(え? 私これから売り出しまーす! のお披露目じゃないの? 最初から婚約者のつもりで連れて行くの?)
そうである。
この国では基本、デビュタントのパートナーは将来を見据えた相手を選ぶのが習わしである。
そうでなくとも、それになりうる可能性の男性を選ぶのだ。
最悪、婚約破棄になりましたと言えばいい。
実際、そういうケースは良くある事なのだ。
だが、高位にある公爵家の女性としては、そんな簡単にはいかない。
となると話は別だ… というかもう… 望み薄である。
何故なら彼女には、思い当たる人物がいないのだ。
ここ三年、淑女教育はまぁまぁやってたとして、趣味の乗馬に力を入れていた。
それだけで済めばよかったのだが、更には身体を動かすのに目覚め、武術に剣術、弓道も然り。
という武の道にまで、手を出してしまったのだ。
そう、ハマりにハマった結果が今である。
カヌアは、最強女子への道に足を踏み入れていた。
大いに人生を謳歌しているので、それはそれで本人は満足していた。
その辺はもう、両親も諦めの境地にいる。
しかし、やる事はちゃんとやっている… つもりだった。
よって、周りの人達との交流は最近では武の道の師匠、そしてニーナ王女、もしくは使用人、馬…
(まぁ… 何とかなるっしょ。最悪一人で生きていけるようにっと)
カヌアは早々に諦め、開き直っていた。
「それならそれで、更に鍛えないとな!」
上半身をぐぅんっと起き上がらせたその瞬間、目が合う。
そう、鬼の形相のフラフィーが寸前の所にいたのだ。
「なっにっがっですかぁーーー?」
(ひぃぃぃいいいいー!! お目々がひん剥いてますぅ! お母様!)
「お、お母様?! いつからそこに? あー今のは、ほら! もっと、ダダダンスの腕を磨かないとなぁ〜ってあははははは… 」
「あら、本当? それは良かった! あと一ヶ月ですものね! ドレスは既に決めているんですよね? もちろん、ね?」
(お母様、目が笑っておりませんよ)
「… エミリアが持ってくるドレスが、どれも良いもので、目移りしてしまって困りますわよ、ねぇほんと、センスが良くて… その… ねぇ… はい、まだ決まっておりません」
カヌアはいつの間にか正座をしていた。
前世の謝罪態勢が身に染み付いている。
「はぁ… そんなことだろうと思いましたよ。装飾も施さないとしなきゃいけないのですから、早めに決めておきなさいね。何度も言いますけど!」
まったくというふうに、ため息混じりに言った。
「承知致しました」
そう言いながら、テーブルの花瓶に花を添えて、部屋を出ようとする母を引き止めた。
「そういえばお母様、最近よくお花を私のテーブルに添えてくれますね? ありがとうございます」
「ふふ、誰かしらね。ここ最近毎日と言っていいほどお花が届くのよ。あなた宛に。だからこうして飾っているの。きっとあなたを想っている人がいるのかもしれないわね。心当たりはないの?」
(ない!! あるわけないです。ご期待に沿えなくてごめんなさい。うーん、でもここは… )
彼女のフラフィーが、頬を染めてニヤニヤしている。
「そうですね。もしかしたら… あぁ、あの人かな? いや、あのお方かも… 」
嘘である。
そんな人はいない。
誤魔化すという選択をした。
母様を悲しませないためです。
「そうっ!! そしたら、その殿方をデビュタントに早くお誘いして! まだ決まってないのはきっと、あなたくらいなものよ!? 華々しいお披露目を飾らなくてはね!」
そう期待を膨らませた母アメリは、軽い足取りで部屋を後にした。
結局自分で自分の首を絞めることとなったのだ。
(…… だぁぁあーーどうするべきか! そんな簡単に将来を共にする殿方なんて、決められませーん!)
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その頃、王宮ではこちらも暗闇を背負っていた。
ウィルは、テーブルに顔を伏せている。
「あと一ヶ月… 」
そうウィルが呟やいていると、眩しい笑顔で彼の側近が近づいて来た。
「そう! あと一ヶ月ですね !楽しみですねぇカヌア様とのデビュタント! 私も心が躍ります!」
ウキウキなカブラが、お茶をテーブルに置いた。
「………………… 」
無言のまま暗い顔を上げるウィル。
カブラが、この上なく驚愕の表情を露わにした。
「あぁ、そのまさかだよ。まだ… 」
するとカブラが話を被せてきた。
殿下の話を遮るなど、失礼だとわかっている。
わかってはいるが、遮らずにはいられないかった。
「なんと! まだお誘いしてないのですか!? 何のために、あんなに美しい花を、毎日っ毎日っ送り続けてるんですっかっ!!? はっ! まさか!!! 素性も明かしてないとかないですよね!? ねぇ!?」
「……… 」
彼は更にヒートアップした。
「っかぁぁーーっ! 他の誰かと組まれたらどうするんです!? いや、もう既にいるかも… あれから何日経ってるんですか!! あんなに、あんっなに! 早く申し上げた方がよろしいと!」
美しい銀髪が、逆立ってるように見える。
彼は平常心を失っていた。
「早急に馬を用意させて、確認させます。そして、殿下と… 」
カブラが手を打とうと動き出したが、今度は手を軽く持ち上げウィルが遮った。
「いや、自分で行く」
カブラがニヤリとした気がした。
いや確実にした。
その隣も然り。
「かしこまりました。殿下」
そう言って、丁寧にお辞儀をする。
(それにしても、殿下はカヌア様のこととなると何故いつもこう、ヘタレになってしまわれるのか… )
ここまで読んで頂きありがとうございました!
突っ走って書いているので、何かお気づきの点があればコメントの方よろしくお願いします。