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episode73〜心の動き〜

初連載の続きです。なんとか毎日投稿出来てます。ゆるく読んでいただければと思います。



どのくらい経ったのだろうか。


カヌアは泣き腫らしたその顔を、枕に伏せたままでいた。


少し寝返りを打つと、窓から綺麗な月が見えた。


「うわぁ、もう夜!?あぁ…時間を無駄にしてしまった……目、冷やしに行こう…」


カヌアはそう呟くと、冷やす物をもらいに行こうと部屋を出た。


すると、その時ボフッという衝撃と共に、視界が真っ暗になった。


カヌアが顔を上げると、そこにはウィルが立っていた。


「ウィ、ウィル様!?すいません!ぶつかってしまい、申し訳っ…」


カヌアはぶつかった鼻を押さえながら言う。


「あ、いや、すまない。ノックをしようと思っていたんだが…」


そう言うウィルの手には、タオルと何かが入った小さな包みを持っていた。


「どうされたんです?ん?あれ?タオル?」


「あぁ、その…必要かと思って…」


ウィルはそのタオルを渡そうとしたが、なぜかまた引っ込めた。


「ん?私にです…か?」


カヌアは手を伸ばし、そのタオルに触れた。


おそらく冷たく濡らして来たであろうそれは、既にぬるく、いや、乾き始めていた。


「えっ!?ウィル様?いつからそこにいたんですか!?」


「いや、本当はもっと早く渡すべきだったんだが、その…かなり落ち込んでたみたいだったから…」


そんなウィルを見て、カヌアは嬉しさと悔しさと感動の、何とも言えない感情が込み上げてきて、また泣きそうになった。


「と、とりあえず部屋へ。こんな所にずっと立ってたなんて…気が付かずにすいません」


そして、カヌアは部屋のテーブルのある椅子へと案内した。


「あの、ウィル様…せっかく時間を作って、剣術を丁寧に教えて頂いたのに…初戦敗退になるなんて…弟子失格ですよね…剣まで新調したのに…」


「弟子?ふっ…弟子か。今日の件は落ち込む必要はない。この俺もあいつに負けたことがあるからな。まぁ、あれだけ頑張ったんだ。まずは自分を褒めてやれ」


「はい…でも…本当に悔しいです…悔しすぎて…」


俯きながら言うカヌア。

その手は震えていた。


ウィルがそっと触れようとしたその時、勢いよくカヌアの顔が上がった。


それはもう闘争心ギンギンの表情で。


「だからっ!!だからこの悔しさを残りの種目にぶつけます!!ね!これならイケます!!ノーファイトノーライフ!」


ちょっと意味がわからない。


とにかく元気になって良かったと、驚きながらもウィルは安心した。


(ビックリした…泣いてるのかと思った…)


ウィルは柔らかく微笑むと、持っていた小さな包みを渡した。


「ん?これは何ですか?」


「カヌアの大好きな物だ」


その包みを開けるカヌア。


すると包みが開くのと同時に、何とも言えぬ甘い香りがカヌアの心を癒した。


「チョコレート…ウィル様、頂いても?」


ウィルは優しく頷いた。


今のカヌアには、その幸せな味はどんな宝石よりも価値がある物だった。


そしてその幸せそうな顔は、どんな宝石よりも輝いて見えたウィルであった。


そして…次々と決着がついていく剣術部門。


ついに決勝戦当日となった。


そこに残った顔は三名。


全員カヌアの知っている顔であった。


キルラ、ウィル、そしてレイルだ。


(レイル兄様…さすが指南)


カヌアがドキドキする中、試合が開始される。


まずはウィルとレイルが対戦する。


(あの二人何だか似てるんだよなぁ)


するとその近くで、ものすごく祈っているフラフィーが視えた。


そこには凝視しながら、拳を握っているサラの姿があった。


(え?サラ?来てたの?それにしても…)


カヌアは何だか話しかけてはいけないような気がして、遠くから見ている事にした。


試合の合図がなり、二人の剣が交わる。


両者とも強い。


しかしやはりウィルの方が一枚上手であったようで、レイルを押していた。


そして、剣が弾かれる。


その剣の持ち主は、レイルであった。


勝利したのはウィル。


レフェリーから礼がかかった。


(お兄様残念…それにしてもウィル様強ぇ)


そのまま次の試合へと移った。


レイル対キルラである。


開始の合図とともに、それは瞬時に終わった。


(み、見えなかった…)


そう思うレイルは、この間のカヌアと同じ心境であった。


レイルの剣は、本人も気が付かない間に、場外へと飛ばされていた。


会場中が圧倒される。


(こりゃまた…明日から籠るな…)


そう思いながら、レイルを見たカヌア。


次はいよいよウィルとキルラの対決だ。


開始の合図だ。


すると両者とも勢いよく呼び出す。


何の躊躇も迷いもなく、真っ直ぐにぶつかる二人。


剣と剣がぶつかり合う音だけが、会場に響き渡る。


すると、キルラが何かに気が付いたようにウィルに言う。


「ん?その剣…カヌアのと似てるな?というより…」


「黙れ。無駄口叩く余裕なんてあるのか?」


ウィルが嫌味を言う。


剣が離れ、次の瞬間ウィルが仕掛ける。


カヌアとの練習では一切見せることがなかったその剣裁きは、目を見張るほどの速さでキルラを追い詰める。


(すごい…何がどうなっているのかわからない…てか…私の時にもやって欲しかった!!)


少し不満に思いつつも、カヌアは感嘆な表情で見る。


すると、キルラは得意とする一手をウィルにも使った。


キルラは一瞬にして、ウィルの間合いへと詰め寄る。


そして剣をひと振りすると、会場中が騒めき始めた。


キルラがニヤッと笑う。


しかし、ウィルも笑う。


(ん?)


キルラが不思議に思った瞬間、遠くの方で剣が落ちる音がした。


そう、その落ちた剣はキルラの物だった。


ウィルは間合いに入る寸前に、既にキルラから剣を弾き飛ばしていたのだ。


そして、会場中が歓声へと変わった。


それは、今までで一番と言って良いほどの大きな歓声である。


レフェリーの判定が下された。


「剣術部門、優勝はアルデリア国、ウィルテンダー殿下!」


(え!?嘘!?キルラ様の技を…?)


カヌアは驚きのあまり、声も出ない。


しかし意識を取り戻すと、カヌアはウィルの所へ駆け寄ろうとした。


それは叶わなかった。


なぜなら見知らぬ女性が…いや、女性達が駆け寄って行くのが見えたからだ。


そして彼はあっという間に囲まれた。


(おっと…ん?んんん?)


カヌアは何事かと思い、その足を止めてしまった。


「あらあらあら、まあまあまあ…お兄様ったらお忙しい事」


後ろから声を掛けて来たのは、アルデリア国の第三王女であるニーナであった。


その手は、カヌアの腕をガシッと掴んで離さない。


「ニーナ様!?いらしてたのですか?」


「カヌア様!お久しぶりです!とてもお会いしたかったです」


ニーナはカヌアの腕を、愛おしそうに擦り寄りながら言った。


(可愛い…天使…)


「あの方達は?」


カヌアがそう聞くと、ニーナはニヤニヤしながら応えた。


「ふふ、気になります?」


「あ、ええとこんな危うい所に女性達がいるのは、珍しいと思いまして」


(本当にカヌア様は、お兄様のこと何とも思ってないのかしら?)


「あの方々は、今回参加しているそれぞれの国の王女様達です。もちろん全員未婚でいらっしゃいますのよ?そして、今回アルデリアに同行した理由は一つ!お兄様にお気に召してもらうためとか…はぁ…ほんと無駄なことですわ。わたくしは、お姉様にするなら絶対にカヌア様だと決めておりますのに…」


ニーナは、チラチラとカヌアを見ながら言う。


「ん?それってどういう…」


カヌアの頭がグルグル回っている中、思い出したようにニーナは言った。


「そういえばカヌア様、一回戦残念でしたわ…でも武術の方は二位だとお聞きしました!おめでとうございます。その勇姿をこの目で直接拝見したかったですぅ」


ニーナは上目遣いで言う。


めっちゃ可愛い上目遣いで…言う。


使う相手間違ってますよ?


「ありがとうございます」


ニコッと笑うカヌア。


(喜んで良いんだか悪いんだか…)


「それにしても最近お見かけしませんでしたけど、お忙しかったのですか?」


「はい…少し風邪を召してまして」


「え!?こ、こんな所にいて大丈夫ですか?」


カヌアは心配そうに言う。


「はい!もう三週間も外に出してもらえず、身体がウズウズしてました。頭もどうにかなりそうでしたよ」


ニーナはそう言いながら、更にカヌアに擦り寄る。


(このまま持ち帰りたい)


変態思考が蘇ってきたカヌアは、そう思いながらもウィルの方を見た。


ウィルは終始無表情であったが、招待国の姫ともなるとぞんざいに扱うことはできないので、それなりに対応していた。


(そうか…ウィル様はあくまでもこの国の殿下。他の国の王族と結婚すれば、更に友好的な関係になるもんな…しかもあの顔だから…尚更モテるか)


自分を納得させるかのように思うカヌア。

しかし、自身の左胸に込み上げる心のモヤモヤが募っていくのを感じざるを得なかった。




ここまで読んで頂きありがとうございました!

突っ走って書いているので、何かお気づきの点があればコメントの方よろしくお願いします。

大変恐縮ですが、評価を頂けると幸いです。

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