episode5〜晩餐会〜
初連載の続きになります。
どうか広いお心でお読みください。
先程、大広間にて晩餐の準備が整ったと言う事で、リヴール家全員はその場所へと移動した。
天井にはなにやら気高い壺、眩く光るシャンデリア、それに絵画なんてのも至る所に飾られていた。
なんと言っても、見た事のない様な長ーいテーブル。
その上、これでもかってくらいの料理やらデザートやらが並んでいた。
(急ぎとは思えない豪華さ。さすが王室の晩っ餐っ会っ!)
晩餐会と言っても、王族の方々とリヴール家の食事会なので、昨日のお茶会みたいに人は多くない。
フラフィーで酔ったりもしないほどだ。
更に大人が多く、皆様落ち着いてる方々であるので、そこはカヌア自身も安心できるところだ。
フラフィー達も、楽しそうに飛び回っている。
幸せな気分で、食事をお迎えできるであろう。
(食べるぞ! ていうか、昨日はあれから何も食べてなかったな… )
カヌアは違う意味で意気込んでいた。
テーブルの端の中心には、国王陛下の席がある。
その横から王族の方々が座り、その反対側にはリヴール家の一族が座っている。
(陛下の隣には王妃様と、えー側室の方??)
お初にお目にかかる王女様もいらっしゃる。
恐らく第一王女と第二王女であろう。
その美しきこと美しきこと。
もちろん、黒髪美少女こと、第三王女ニーナ様もいた。
この中でも彼女はやはり、幼く見える。
カヌアがじっと見つめていたら、ニーナがこちらを見て、はにかむように笑った。
(キャー! 目があった。でへへへへへへ)
カヌアもにっこりと微笑み返す。
ニタリ顔が隠せていれば良いのだが。
ニーナのフラフィーも慎ましくにっこりしている。
同じ爺さんなのに、何故だか紳士に視えた。
しかし王族側は、全員出席ではないようだ。
ウィル殿下の姿がまたしても見えない。
王子の事は、今まで気にも止めてなかった。
むしろ昨日まで、ほぼ顔も覚えてなかった程である。
気になってる訳は、やはり例の出来事があったからだ。
そう、麗しの王子を見事に潤してしまったあの事件。
(一言でも良いから謝りたいな)
後味が悪かったため、モヤモヤが拭えないカヌア。
だが食欲は…… ある。
(一旦王子のことは置いといてっと。さぁ! しっかり頂きましょう!)
ある程度食事を終えると、もう少しこじんまりとした部屋に移動し、食後のティータイムが始まった。
こじんまりと言っても、カヌアにとっては十分広かった。
立って談話する者もいる。
まだ春先なので、夜は肌寒い。
暖炉の火が心地良い。
カヌアはお腹も満たされ、ふわふわした幸せな気持ちで座っていると、そそそそそと慎ましくニーナ王女が近づいてきた。
「あの、カヌアーリ様。少しお話よろしいでしょうか?」
可愛らしいお顔が目の前に来た。
「もっ… ちろんです!」
(声がうわずってしまった… 恥ず)
「ふふふ、良かった。ではあちらへ」
そして、二人一緒に隅っこの窓際のソファへ移動した。
「あの、わたくしカヌアーリ様にお礼を申し上げたくて。昨日は庇って頂き、ありがとうございました。代わりにカヌアーリ様が池の水を浴びることになってしまい… とても冷たかっですよね?」
そう慎ましく言うニーナは、本当に絵に描いたようなお姫様だった。
(こんなん可愛すぎて何でも許してまう〜)
ニーナはとても申し訳そうな顔で見つめていた。
フラフィーも悲しみの表情を浮かべているので、二倍謝られてる気分だった。
カヌアにはわかる。
彼女は純粋に謝っている事が。
嘘偽りのない綺麗な心で。
「いえ! そんな頭を下げないでください! 私が勝手にしてしまったことですし、むしろ急に出しゃばってしまい、申し訳ありませんでした… ニーナ様の腕も引っ張ってしまったので、その… 痛かったですよね? 私、腕力はあるみたいなので… 」
すると、そんなカヌアの必死な形相がおかしかったのか、可愛らしい笑みでニーナは言った。
「ふふふふふふ。全然痛くありませんでしたわ。むしろ、あの瞬間、心がきゅうと熱くなりました。なんというか、とても嬉しかったんです。わたくし、この気持ちを一生忘れません」
そう言いながら、ニーナは左胸に手を当て、一生懸命自分の想いを語ってくれた。
それを見たカヌアは思った。
(嫁ニシタイ)
そして、二人の距離は少し縮まり、その後も時間の許す限り、昨日の事を楽しくお喋りをした。
今では悲惨な出来事を面白おかしく話せる。
あの時はそれどころではなかったのに。
女子というものは不思議である。
「まぁ! では私よりもお二つお姉さんなのですね! てっきり… ふふふ」
「ふふふふふ」
(ん? てっきりなんだ?)
どうやらニーナ王女はカヌアより、二つ年下の十一歳らしい。
すると、突然背後から何やら温かい雰囲気の影が近づいてきた。
「お嬢さん方? 美味しいデザートはいかがかね?」
そこに話しかけてきたのは、怪しいデザート売りの口調で話しかけてきたおじさ…
(いや!! 陛下!!?)
「お父様!?」
二人が驚く中、陛下はニコニコと笑みを溢していた。
カヌアが、思わず立ち上がる。
「ヴォルノフ陛下! この度はこの様な… 」
しかし、陛下はカヌアの礼を遮った。
「あーよい。楽しんでおるようでなによりなにより」
先程の王座から発していた陛下オーラとは打って変わって、にっこり陛下である。
横のフラフィーも然り。
(陛下! めっっちゃ気さく〜好き)
「ニーナ、少しカヌアーリ嬢をお借りしてもよろしいかな?」
「はい、もちろんです。カヌアーリ様、またご一緒に… その… お話して頂けたら、とても嬉しいのですが… 」
とても気恥ずかしそうに、それでも頑張って誘ってくれているニーナ。
カヌアは更に思った。
(どうしたら、嫁にできるか?)
「もちろんです! いつでも駆けつけます! 今日はとても楽しいひと時をありがとうございました」
そう言うと、ニーナ王女の顔がそれはもう太陽の様に眩しい笑顔になった。
カヌアは決意した。
(陛下、娘さんをください)
そして部屋から続くバルコニーへと移動し、国王陛下と二人きりになった。
護衛が何人か少し離れたところで、目を光らせて立っている。
(へ、陛下と二人きりぃい! 何この状況… マジ心臓、ぶっ壊れるぞ)
すると、陛下は優しい口調で話し始める。
「先程はすまなかったね。長年国王やってると、あの王座では、話し方が単調になってしまうんだよね。本当は身振りも入れて話した方が、伝わりやすいと思うのに。でもまぁ一番偉いしね自分、威厳をね、やっぱね」
緊張をほぐしてくれるかのように、冗談混じりで話してくれた。
(ヘイカ好キ)
「いえいえ! とんでもございません! えぇと… その…… 」
(ヤバい! 会話… 会話と)
「昔々、ある王国に一人の幼いお姫様がいました」
(ん? いきなり始まったぞ)
突然、陛下の昔話が始まった。
「その姫は昔から病弱でほぼ、人前に出る事はなかった。そのため、外に出たりするのもままならない。遊びたかったろうに… ズズ」
(え? 泣く? 泣くの?)
「しかし、姫の体調は大きくなるにつれて良くなっていった。最近は好奇心旺盛な性格を生かし、様々なことに触れさせたいと、国王は思っているようだ。お茶会もその楽しみ一つ」
(鼻赤いよ、陛下)
「だが、あまり世間に顔を出す事が無かったため、姫の存在を知る者は少なく… 友と呼べる者もいない… 」
チラッ
(ん?)
「お茶やお菓子を囲んでー」
チラッ
「たわいない話をしたりー」
チラッ
(え? 何々? めっちゃ見てくるじゃん…… あはーん、そうか、そういうこと)
陛下の思いを悟り、カヌアは口を開いた。
「陛下、発言をお許しく下さい」
「お? なんだね? 許す」
陛下似のフラフィーのワクワクが、だだ漏れてるのがわかる。
「わたくしで良ろしければ、ニー... あ、その姫様にお近づきになりたいのですが。つまり、お茶を嗜んだり、お話したり、花を愛でたりと友がする様なことが出来ればと」
(できれば乗馬もしたいのだけれど… )
カヌアのその言葉を聞くと、陛下の顔がパァ〜っと明るくなった。
(さっきのニーナ王女の反応に似てるな)
これはフラフィーを視るまでもない。
しかしその存在が前面に押し出てくるので、目に入らざるを得ない。
「そぉーーかそうかっ! それはそれは! 期待しておるぞ」
「恐れながら陛下。もう一つよろしいでしょうか?」
「ん? なんだ?」
「本日、ウィルテンダー殿下のお姿が見えなかったのですが… その… わたくし、昨日殿下にとても失礼なことを… 池へと… 」
そう、罰が悪そうにカヌアが話していると、陛下が軽い口調で言ってきた。
「ハハハハハ。そうだ! 聞いたぞ! 其方、ウィルを道連れに、池に落ちたそうだな! あのウィルを! 問題ない問題ない!」
(めっちゃ笑っとるーウィル王子って一体… )
「え? あ、では、本日出席なさらなかったのは怒ってらっしゃるのでは… ?」
「あぁ、ウィルなら本日は、熱で床に伏せっておるぞ」
「え!? そ、それは、昨日のあの、私の粗相のせいですよね!?」
(あだだだ… どーしようヤバい)
カヌアの心の乱れが、顔に出ていたようだ。
「早まるな。大丈夫だ。前日まで、隣国の方まで遠征に行った時にも、川に落ちたそうな。ククククククク、そのまま遠征を続けてたためだろう。そして、其方との池への… ククククク」
(ヤバい、つられて… 笑いが… 堪えろ)
「え? ということは、昨日の事が病状の悪化に追い打ちを… 」
「まぁ、無きにもあらずだが。ウィルは出席すると言っておって私が止めたのだ。しかしウィルは… ん? そうか、あれは… 」
(ん?)
何か思いついたのか、陛下はニマっと笑い、カヌアに提案した。
「そうだ。見舞いとは言わんが、少し顔を覗かせてはどうだ? 側使いに案内させよう」
そう言うと、近くにいた側近を呼んだ。
「はい。私で良ければ、ウィルテンダー殿下と少しお話しさせて頂きます。陛下、本日はお招き下さいまして誠にありがとうございました」
(陛下、本当に楽しかったです)
「うむ、其方が何か困った事があれば助けになるぞ。ニーナも… よろしく頼む」
「ありがたきお言葉」
カヌアは一礼した。
(殿下、風邪引いてたんか… )
心配と不安の中、ウィルの寝室へと向かう。
ここまで見ていただきありがとうございます。
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