episode4〜予想外の謁見〜
初投稿からの続きになります。
広いお心でお読みくだされば幸いです。
カヌアは今、暗闇の中にいる。
そう、自分だけの世界… そしてこのまま…
(昨日、あんなにあんっなに平穏を願っていたのに!! バカ! 私のバカ!)
「カヌア! 一体いつまでそうしてるんですか!?」
母アメリだ。
その言葉に、カヌアはその暗闇という布団から顔を出した。
(このまま出たくなかったのに)
しかし母は容赦なく、その暗闇を剥ぎ取ろうとする。
「早く支度なさい! わかっているわね? 他所行きのドレスよ! エミリア、よろしくね!」
「はい! 奥様!」
使用人のエミリアが、張り切り始めた。
さっきから、家中で慌ただしい声が聞こえてくる。
(わからないぞ? 何だ? 何だ? 出掛けるのか? 今そんな気分じゃ… ぁぁあ)
カヌアはそのまま布団を引っ剥がされ、あっという間に着替えさせられた。
昨日の出来事は、光の速さのごとく街中にまで広がっていた。
しかし、リヴール家は特に音沙汰は無かった。
そのはずなのに、カヌアは何故か、王宮へと向かう馬車の中へいる。
しかも一家勢揃いで。
今日の正午過ぎ頃、王宮からの使いの者が来たのだ。
その内容とは、夕刻の時、国王陛下との謁見により、王宮へ来いとの事。
そして、何故か晩餐を頂きに行くとの事。
(はて? 何故だ? 懲罰ではなく晩餐とは… まさか毒殺か? 最後の晩餐… ってやつか? お前らやっぱ死刑!! ってなるんか? そうなんか?)
カヌアは、最悪な事が頭によぎりまくっていた。
家族は落ち着いて静かに馬車に揺られているが、その周りのフラフィー達は、案の定落ち着きがない。
何でだ? 何でこんなことに!? と爺さんの顔をしきりと覗かせている。
(んー、可愛い。ほっこり…… じゃなーーーい! 反省せぃっ! 自分! こんのっこんのっ)
ガラスのハートは、前世からも引き継がれてる… はずだった。
しかし、この世界に来て少し強くなったようにも感じられた。
何故あんな事をしたのか…
悶々と悪い方向へ考えてしまう頭を抱えながら震えていると、馬車の揺れが止まった。
「着いたわよ。ほら、全員背筋を伸ばして、失礼のない様にね!」
そう言う母に、尊敬の眼差しを向けるカヌア。
(お母様… 頼もしすぎます! こんな訳わからん状態の中でも、リヴール家の女主人の威厳が眩しすぎます!)
馬車から降りると目の前には、夕陽を浴びた美しい城が私達を迎えてくれた。
(こんな状況下でなければ、心ゆくまで眺められたのに… )
今はそんな余裕が入る隙間なんぞ、ミジンコの隙間ほどもない。
「大丈夫だから」
その夕陽よりも眩しく、そして優しい笑顔で四男ミルサが肩を摩ってくれた。
それがカヌアの目の保養に、心の支えになっている。
(眼福〜)
「カヌア、俺たち全員が付いてる。心配ない」
クールながら、優しく頼もしい三男レイルの声が耳に入る。
こちらも耳の保養。
(イ・ケ・ボ)
心なしか、彼らのフラフィーもイケメンに視えてしまう。
(あー幸せ! この幸せを失いたくない!)
しかし、すぐさま現実に引き戻された。
昨日の事を思い出したのだ。
あの後帰ってからというもの、びしょ濡れのカヌアを見たお母様が、倒れそうになったのを兄様達が必死に介抱していた。
(え? そっち?)
もちろんお説教という名の雷が落ちたのは、言うまでもない。
そして、リヴール家にはあと二人の家族がいる。
長男のロイドと次男のフーリは現地集合だ。
既に王宮にはいるはずだ。
この国では齢十六ともなると立派な成人である。
リヴール家は代々王宮に仕えているので、十八歳と二十歳の兄二人は、既に王宮に勤めているのだ。
もちろん、父ラスファも王宮勤めだ。
しかも近衛隊長という強者。
父様は強いのだ。
ものすごく。
そうして、到着したばかりのリヴール家が王座の広間へ行くと、既に兄二人の姿があった。
すると、程なくして号令がかかる。
「リヴール家、全員前へ」
そう言われ、リヴール家当主である父ラスファを筆頭に、一家全員が王座の前へとひざまづいた。
そこに威厳を放ち座っているのが、ヴォルノフ国王陛下である。
王が静かに口を開く。
「発言を許す」
(そうか、勝手に話し始めたらだめなのか)
片膝を付き、胸に手を当てラスファは挨拶を始めた。
「本日は、リヴール家一同を王宮内へとお招き頂き、感謝申し上げます」
(あぁ陛下のフラフィーの表情がわからない。怒っているのか)
そう、フラフィーの視え方には、もう一つ欠点があった。
水に濡れると視えにくく、そして遠いと視えない。
単純に遠いから見えないのである。
小さいのでね。
陛下は言葉を出した。
「うむ。此度はご苦労であった。今日ここに呼んだのは… こちらへ」
陛下が横目でチラリと見た。
すると横の方から少女が…
(ん? あの子は… )
遠くて見えにくいが、あの時のいじめっ子達に囲まれてた黒髪美少女であった。
(え? ん? どゆこと?)
「リヴール家の娘。名をなんと言ったか」
カヌアは突然ふられて驚いたが、ここは令嬢、平常心を保って応える。
「はい。リヴール公爵家の末娘、名をカヌアーリと申します」
「そうか。カヌアーリ。昨日の其方の行動、恐れ入った。あの場で自身を犠牲にして、水を被るなど到底できない。私の娘ニーナを助けた件、見事であった。礼を申す」
それを聞いた従者達は、驚く者もいれば、笑みを浮かべる者もいた。
そう、国王陛下が礼を言うなど珍しいのだ。
(え!!? 礼を? 陛下が? こんの私に!?)
「と、とんでもございません! もったいなきお言葉!」
カヌアは驚きのあまり、咄嗟にそう応える。
「取り急ぎになってすまないが、其方達に食事を用意させた。十分に楽しむと良い」
そう。更に優しいお言葉をかけてくれた。
「は! もったいなき! 謹んでお受けいたします!」
とお父様が一礼し、国王陛下は王座から立ち去った。
それに続き、ニーナ王女も照れながら会釈をしその場を後にした。
萌えである。
(なるほどそう言う事だったのか。あぁー緊張したぁ)
要するに、昨日池の近くで絡まれてた黒髪美少女は、この国の王女ニーナ様だったということだ。
昨日の件で、カヌアが身を挺して助けたのを評価され、今日この場にいると言う事だ。
リヴール家一同は安堵の表情を浮かべる。
フラフィー達はと言うと… 絶賛お祭り騒ぎ中である。
(皆めっちゃ喜んでるぅ! そういえば、ウィル王子の姿が見えなかったな… 呆れられたか? そりゃまぁあんな目に合っちゃ、会いたくないよな)
ここまで読んでいただきありがとうございます。
何かお気づきの点があればコメントよろしくお願いします。