episode 3〜平穏を望み、そして〜
初投稿の続きになります。寛大なお心でお読みくださると嬉しいです。
キラキラと水面に映る光。
とても綺麗だ。
お茶会は、城内にある池の側で行われている。
カヌアは、殿方に話しかけられることもなく、その時間が一刻も早く過ぎ去るのを願っていた。
(まぁこんなブリブリの格好で、特にお世辞を言えるような話術もないしな)
前世が大人だったカヌア。
周りが幼く見えたこともあり、興味が湧かなかった。
どうしても冷静な目で見てしまうのだ。
十三歳の乙女心に、慣れない。
そう簡単には戻れない。
そう、このまま… 平穏にお茶会を終わら… せ…
(うーん、気になるなぁ… ギリギリなんだよな、落ちないでよー)
そう思う理由は、池の側でお嬢ちゃん達が、もちゃもちゃとしている姿が、目に映ってしまっていたからだった。
その中心にいたのが、小柄な黒髪美少女だった。
気になるのは、小柄なだけではなかった。
周りより幼く見える美少女のフラフィーが、怯えてる。
いや、フラフィーを介さずとも、彼女が怯えてるのがわかる。
彼女達のいるそこは、木に隠れてちょうど見えにくい位置になっているのだ。
(やめてーやめてよーイジメとか本当やめてよー)
突っ込まない、首を突っ込まないと、そう決めている。
亀の首の様に、自身もドレスに顔を埋めたい。
そう… 思っていた。
(あぁー埋めたいのに… )
重い腰と頭部を伸ばし、カヌアは立ち上がってしまっていた。
(勝手にこの脚は!! んもうっ!)
そう思いながらその脚は、彼女達の方へと進んで行った。
(ごきげんよう。うふふふふふふふ。おほほほほほほほほ、よしっ! 行くぞ!)
カヌアは心の中で練習し、自然に近づこうと思った。
しかしその時、彼女達の周りのフラフィーがざわつき始めた。
「ちょっ… !」
既にカヌアの手は、その小さな黒髪の女の子に伸びていた。
その瞬間、カヌアの周りを水しぶきがキラキラと空を舞った。
ばっしゃーーん!!
少女は陸に、カヌアは池へと。
そう、ダイブしたのである。
(あらやだーきれーい!)
それと共に、カヌアの平穏が崩れた音がした。
「フッ、フフフフフフフフフフフフ」
不気味な笑いが止まらなくなる。
感情が乱れまくった。
カヌアはもう訳がわからなかった。
そうなればもう、これでもかってくらいの満面な笑みをお見舞いする。
今日一番の笑顔を最後に絞り出した。
もう当分笑えない。
(さようなら私の笑顔。さようなら令嬢ライフ。グッバイ… )
「ふぇぇ……… よっこらしょっと」
そう思いながら、カヌアは池からその身を起こした。
もうこの際、言葉使いを気遣う余裕もない。
既に意地悪令嬢達の姿は、そこにはなかった。
そして一度、冷静に考えてみることにした。
(えーと、確か何人かのご令嬢が黒髪美少女に嫉妬したのか、何だかで絡んで池に落とそうとしていたのを助け… !? あぁぁぁぁぁぁああーやっちまった… )
冷静にはなれなかった。
びっしょびしょのドレスに身を包み、心の中で発狂中。
(もう終わりだ終わり… こんな状況になったし、フラフィー達にも酔ったし、帰りたいかえりたいカエリタイ、よし帰ろう、そうしよう。あぁやめだやめだ… うーん、目立つ前にこのまま走り去るか、いや失礼だよな、一礼して何事もなかったかのように立ち去ろう)
そう思った時には遅かった。
ここまで考えるのにコンマ数秒。
しかしそれでも遅かった。
騒ぎに気が付いた人達が、大勢集まって来ていたのだ。
(あー見せ物じゃありませんよー)
驚く者。
クスクス笑う者。
憐れむ者。
無関心の者。
呆れる者。
色んな感情が、フラフィーと共に入り混ざる。
(なんか… 更に気分が悪くなってきた)
そんな中、道が開き、一人の青年がやってきた。
「おい、お前… ん? 何故だ… 何故いない? いや… 」
そう言う青年の顔を、カヌアは不審がって見上げた。
(はい?? え? 何? 何言ってるの? てか、びっしゃびしゃのこの状況でかける言葉、今それ? 違うんじゃ…… そんであんた誰?)
青年は手を差し伸べて… くれはしなかった… 。
だが、何を思ったかカヌアは、青年の服の裾を手に取ってしまったのだ。
そして、そのまま第二ラウンド突入した。
その青年を道連れに、再び池の中へと。
今度こそ本当に終わった。
カヌア人生の世紀末。
きっと位の高い貴族様に違いない。
(なんてこったい… はっ!!!)
「もももももも申し訳ございません!」
カヌアは必死に謝った。
下を向いている青年の顔を恐る恐る見る。
(ん? 口元が… え? 笑ってる!? … 水に濡れたせいよね? フラフィーが視えないから、感情が読み取れない)
しかしその瞬間、カヌアの目の前には思っている以上の光景がそこにあった。
「ふっ、ふふ… ふはっ」
青年は髪をかき上げ、その美しい顔を上げた。
左目の下には、涙ぼくろが見える。
しかし、カヌアには不気味にも捉えられていた。
(やっぱり、笑ってるのか? どした、感情ぶっ壊れたか?)
だが、その顔はすぐに真顔に戻った。
青年はすくっと立ち上がると同時に、私の両脇を支え軽々と立ち上がらせてくれた。
呆然とする私を後にして、そのまま背を向け立ち去ってしまった。
その後ろを黒髪美少女も追いかけている。
それに気が付きもしないほど、カヌアの頭の中は混乱していた。
前方から側近らしき青年が、ずぶ濡れの彼に駆け寄ってきた。
その側近はニヤニヤしながら、主人へタオルを差し出した。
いやもう、あれは全開に笑っている。
「何だ? カブラ、全部見てたのか?」
青年が無愛想に口を開く。
「えぇえぇ。ククククク、失礼。全くウィル様は助けに行ったはずなのに、なぜわざわざ彼女と池でお戯れに? こんなにずぶ濡れにまでおなりになって… 」
そう言うカブラの笑いが止まらない。
「うるさいっ!」
ウィルは顔が真っ赤だった。
「あの状況下では、まず手を差し伸べないと。でもそんな不器用なウィル様を心から… ククク… 慕っております」
「笑いながら言われてもな。カブラ、一生こき使ってやるから覚悟しとけ」
ウィルはそう言うと、くしゃみを一つした。
そして、城へと足早に去って行った。
カヌアはというと、タオルに身を包み馬車の中で震えていた。
寒いからではない。
この後待ち構えるお説教という恐怖に。
(それにしても、申し訳ないことしたなぁ、さっきの彼… ん?)
「あーーー!!」
カヌアはその青年を頭に思い浮かべると、突然声を上げた。
(二年ぶりだったから全っ然わからなかったけど!! 思い出した! そうだよ! あの左目の涙ぼくろ!! ウィル王子か!! あぁ、本日二回目のやっちまった案件… そして、十三歳にして人生二回目のやらかし。これはもう事件だよ… お母様達になんて説明を… 彼に挨拶もし損ねたし、池へと道連れにした… この国の王族を。父様、母様、兄様達… ごめんなさい。今度こそリヴール家の終わりが見えました。そういえばミルサ兄様は、ウィル王子と同い年? お友達同士とかでは… ないか! ないかなー? あわよくばですよ、あわよくば。弁明を… )
カヌアはどうにかこの状況を回避できないか、頭の中でグルグルと良い方向に思考を持っていった。
カヌアは、人の顔を覚えるのが苦手なのだ。
まとわりつくフラフィー達の表情ばかりに気を取られて、主の顔がうろ覚えになってしまうからだ。
よって中々覚えられないのだ。
そして、先ほどの様に頭から濡れたりするとフラフィー自体が視えにくくなってしまうのだ。
(あの時は困ったなー。人前で中々ずぶ濡れになることなんてないから)
場を荒らさない様にと顔色ばかり窺ってしまうようになってしまったカヌアは、フラフィー無しでは生きていけなくなりつつある。
「ぬぁぁぁあーーそんなことより!!」
カヌアは、その身をぎゅっと抱きしめた。
恐怖による震えが再開したのだ。
「あばばばばばばば」
そのせいで馬にも恐怖が伝染し、怯えていた。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
何かお気づきの点があればコメントによろしくお願いします。